第05話 合流、再編成
早坂、高橋軍曹、野村伍長、河野上等兵、菅井上等兵が岩陰に集まり話をしている。
早坂は溜息まじりに、
「・・・そうか。児玉中尉はやられたか」
菅井上等兵が、
「はい・・・」
「仕方が無い。全部で十八名・・・。よし、児玉隊を早坂中隊に入れて部隊を再編しよう」
そこに一人の『将校』が早坂の前に歩み寄る。
挙手の敬礼をしながら、
「失礼します!」
早坂は将校を見て、
「うん? キサマは」
「児玉中隊・佐々木 誠准尉です!」
「准尉? キサマが指揮を取って来たのか」
「はいッ! 報告します。 児玉中隊は西海岸に上陸、東方向に突進、途中、相当数の敵と遭遇、中隊の四十は、児玉中隊長以下三一が戦死、佐々木他九名が戦闘中ジャングルに迷い、斥候を出し道を探りつつ此処に辿り着きました!」
「・・・そうだったのか。大変だったのう」
「いえ。・・・はい」
「よしッ。キサマ等の部隊を本日より早坂中隊に再編する。下に付け!」
「はい!」
「・・・実は俺達も迷ってしまったのだ。どうやら反対方向に突進していたらしい」
佐々木准尉は驚き、
「は?」
「あの見えた砂浜は東の様だ。俺達の上陸した西海岸は逆だ」
佐々木准尉は怒って、
「何ですって? こんなに兵を消耗して・・・、飛行場とは逆の方向に進んでいたと言うのですか?」
早坂は髭を擦りながら、
「うん?・・・うん。仕方が無い。もう一度、出直しだ」
ニンマリと笑う早坂。
佐々木准尉は怒り、
「そんな・・・。死んだ兵隊達は、犬死にだったと云うのですか!」
早坂も怒り、
「うるさい! 俺達の部隊もこれだけに成ってしまったんだ。もうこれ以上、犠牲はだ出さない!」
佐々木准尉は諦めた様に、
「・・・分かりました」
早坂は佐々木准尉を睨み、気合いの入った声で、
「佐々木准尉、兵を整え出発の準備をしろッ!」
「はいッ!」
十六名の残兵達が早坂と佐々木准尉の前に整列している。
第2師団仙台若松歩兵29連隊・岸本部隊(早坂中隊)
○早坂崇雄(大尉)
高橋竜吉(軍曹)
野村晋介(伍長)
菅井信次郎(上等兵)
佐籐 勇(上等兵)
河野源太郎(上等兵)
岡田卓巳(一等兵)
森 秀雄(二等兵)
渡部悟一(二等兵)
第2師団新発田歩兵16連隊・松岡部隊 児玉中隊
○佐々木誠(准尉)
関元雄三(曹長)
福原源次(軍曹)
斎藤順次郎(上等兵)
大宮 滋(上等兵)
濱田健作(上等兵)
浅田菊雄(一等兵)
鈴木平蔵(一等兵)
井上博道(二等兵)
鉄帽を脱いだ『日下再生兵』は、早坂の「影」に、『緒方再生兵』も鉄帽を草むらに置いて佐々木准尉の「影」に憑いている。
他の鉄帽の再生兵達も鉄帽を脱いで、再編された混成部隊の兵士達の『影』に憑いている。
兵士達は散開しながら、もと来たジャングルの中を引き返して行く。
空中に米軍の「偵察機」が淋しげな音を立て飛んで来る。
兵士達は急いで木陰に身を潜める。
所々に日本兵と米兵の死体が転がっている。
藪の奥の樹の根元に、米兵と日本兵が刺し違えたまま跪いて死んでいる。
その近くの樹の株に米軍の鉄帽を被って座っている兵士が居た。
佐々木准尉は敵兵かと思い38銃を構えそっと近づく。
「おい・・・」
声を掛ける。
俯いた無言の兵士・・・。
佐々木准尉は銃先で兵士の鉄帽を上げ、顔を覗く。
「うん? 日本兵か・・・。死んでいる・・・」
佐々木准尉は兵士の瞼を親指でそっと瞑らせ合掌する。
と突然、
『死体』は眼を見開き不気味な笑い顔で佐々木准尉を睨む。
佐々木准尉は驚いて、
「あッ! キサマ、生きているのか! おい、しっかりしろッ!」
兵士は佐々木准尉を見詰めてジャングルを揺るがす様な大声で笑い始める。
「フフフ、ヒヒヒ、ハハハハハハハハ。へへへ、ハハハハハハ・・・」
佐々木准尉は驚いて後退りをする。
「コ、コイツ、気が触れてる」
遠くで軽機銃の音がする。
「タンタンタンタン、タンタンタンタン」
友軍(日本軍)の機銃音である。
木陰に潜む兵士達が全員が銃声の方角を見る。
一人の兵士が叫ぶ。
「残兵が居るぞッ!」
ジャングルの中を走しって行く兵士達。
暫くすると米軍の「偵察機」が上空に弧を描き始める。
数分して、凄まじい砲音が聞こえて来る。
畳、一畳に数発の砲弾が着弾、炸裂する。
機銃音はたちまちにして途絶えてしまう。
早坂は木陰に潜む佐々木准尉達に指を四本開いて、人差し指でジャングルの奥を指す。
佐々木准尉は右手を上げて了解し、兵士達に指で合図を送る。
佐々木准尉以下八名が走ってジャングルの奥に退避する。
佐々木准尉の周りで小休止して居る元児玉中隊の残兵八名(関元曹長・福原軍曹・斎藤上等兵・大宮上等兵・濱田上等兵・浅田一等兵・鈴木一等兵・井上二等兵)。
佐々木准尉が関元曹長に、
「昨日の倍は進んでる筈だが、波の音は聞こえるか?」
「・・・聞こえません」
「おかしいなあ・・・。あの日、中隊が進んだ時は波の音が聞こえていたぞ。この道で間違いないか?」
大宮上等兵が、
「准尉殿、そう言えば山が見えませんねえ」
佐々木准尉は写し取った地図を開く。
兵士達が地図を覗く。
佐々木准尉が地図を指でなぞりながら、
「今・・・この辺に居るのかな?」
井上二等兵が地図上の山を指して、
「いや、この辺なら山が見える筈です」
濱田上等兵が、
「この写した地図が間違っているんでしょうか。また迷ったのか・・・」
佐々木准尉が、
「おい。大宮と濱田! 部隊に戻ってもう一度、地図を確認して来い」
「はい!」
「結んだ手拭テヌグイの切れ端を辿って行け。絶対やられるなよ」
二人が、
「はい!」
大宮上等兵と濱田上等兵がジャングルの中に消えて行く。
佐々木准尉はため息を吐き、もう一度、方位計コンパスを地図に当てる。
「・・・いったい、どうなってるんだ」
関元曹長が、
「そうですねえ」
井上二等兵が、
「飛行場に辿り着けるんでしょうか」
続く




