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第25話 鼠 部隊

 河野上等兵が外で歩哨(見張り)をしている。

ホラ穴営舎には六人の兵士が休んで居る。

関元曹長が、


 「日本兵はどのくらいヤラレタんでしょう」


木原少尉が、


 「さあなあ。まともなのは俺達だけかも知れんぞ」


福原軍曹が、


 「鼠 部隊だけですか」


木原少尉、


 「おい、メシにしよう。缶詰めを開けろ!」


六人の野鼠が夕食を摂(ト)っている。

焚火の煙(クスブ)った炎が「薄汚い野鼠」を照らす。

木原少尉が、


 「おい森、湯が沸いたぞ。コーヒーを入れろ」


森 二等兵、


 森 「はい」


六人全員が飯盒の蓋を森 二等兵の前に並べる。

森 二等兵は麻袋の中からコーヒーの缶を取り出し蓋を開ける。

杓文字(シャモジ)で六個の飯盒の蓋にコーヒーの粉を入れ、湯を注ぐ。

関元曹長は注がれる湯を見ながら、


 「浅草のレストランの様だな」


河野上等兵が、


 「こんな島でこんな贅沢をして、罰(バチ)が当たりませんか?」


六人が笑う。

木原少尉は木村一等兵を見て心配そうに、


 「木村、具合はどうだ」


木村一等兵は起き上がり、


 「・・・お陰さまでだいぶ回復したようです」


木原少尉、


 「おお、そりゃあ良かった」


木村一等兵は痩せ細った自分の腕の筋肉をまじまじと見る。

六人を見て、


 「ご迷惑をかけます」


福原軍曹、


 「バカを言うんじゃない。死ぬ時は皆んな一緒だと言ってるだろう」


木原少尉は周りの兵士を見て、


 「・・・沢山喰え。いつ喰い納めに成るか分らんからのう」


関元軍曹は耳を澄ませ、


 「静かですねえ。・・・戦争はどうなったんでしょう」


木原少尉は熱いコーヒーを啜りながら、


 「戦う相手が居なけりゃ戦争は終わりだ」


関元曹長が、


 「無茶苦茶ですよ、戦争なんて。敵の顔も見ねえし、島まで辿り着かねえで魚の餌(エサ)に成ちまう。そんなんじゃ死んでも死に切れねえや」


木原少尉、


 「もうよせ。俺達は精いっぱいやったんだ。後は全員が生きて帰る事だ」


福原軍曹、


 「クソッ、日本は物が有ったら負けませんよ」


木原少尉はコーヒーを啜りながら一点を見詰めて、


 「・・・それが分っていて戦争を始めたバカが居る」


木原少尉は背嚢を枕に、地面に横たわる。

関元曹長が、


 「誰ですか、そのバカ野郎は。見積もりも立てねえでヤッツケ仕事なんかしやがって」


木原少尉が突然、


 「おい、どこかにタバコが有ったな」

 「ここに有りますよ」


福原軍曹は麻袋から調達したタバコ(キャメル)を取り出す。

木原少尉が福原軍曹から渡されたタバコにマッチで火を点け、


 「・・・旨いなあ。アメ功のタバコは」


木原少尉は宙を見詰めて


 「・・・乞食(コジキ)部隊か・・」


関元曹長が、


 「乞食じゃねえ、鼠ですよ」


木村一等兵が、


 「どこが違うんでしょうか」


木原少尉、関元曹長、福原軍曹、大宮上等兵、森 二等兵の五人が木村一等兵を見詰める。

木村一等兵が、


 「いや、すいません。足でまといで・・・」


木原少尉が急に起き上り怒鳴り始める。


 「ヤメタ、ヤメタ。バカらしい。こんなのは戦争じゃない!」

                          続く

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