第02話 九名の残存兵
日本軍(兵)の残存集団が進んでいる。
『仙台若松歩兵第29連隊・岸本部隊(早坂中隊の九名)』である。
兵士達は、無傷の早坂中隊長の周囲に隠れて居る。
早坂が、
「おい、無駄撃ちするな。敵に位置を知らせるぞ!」
兵士達が、
「はい」
高橋竜吉(軍曹)が木陰から早坂の傍に転がって来て、
「中隊長殿、この方向を進んでて良ろしいのでしょうか」
「この方向? ・・・野村、来い」
「はい!」
野村晋介(伍長)が葡匐で早坂の傍に来る。
「はいッ!」
早坂が、
「今の位置は?」
「はッ!」
野村伍長は図嚢カバンを開けて、早坂に地図を見せる。
「多分・・・この辺に居るはずです」
地図を凝視する早坂。
「・・・飛行場までもう直ぐだな。よし、斥候を二人出せ」
「はッ!」
野村伍長が匍匐で木陰に戻る。
近くの木陰に佐籐 勇(上等兵)と菅井信次郎(上等兵)が伏せている。
野村伍長が小声で、
「佐籐、菅井! 斥候に行け。先を見て来い」
二人は片手を挙げて野村伍長に応える。
ジャングルの奥へと葡匐で前進して行く二人。
岩陰に早坂と渡部悟一(二等兵)が隠れて居る。
早坂が小声で渡部二等兵に、
「おい。あれから二日目だな」
渡部二等兵は銃を構えながら、
「いえ、三日目です」
「三日?」
早坂は渡部二等兵をチラッと見て、
「・・・腹が減ったのう」
「いえ!」
早坂が渡部二等兵の尻を蹴飛ばす。
渡部二等兵は驚いて、
「あッ、はいッ! 減りました」
「キサマ、糧秣は有るのか」
「いえ、失くしました」
早坂は小声で厳しく、
「バカ者!」
「はいッ! すいません」
「弾とメシと、どっちが大事かッ!」
渡部二等兵は銃を構えながら、
「たぶんメシでありますッ!」
早坂がきつい目で渡部二等兵を睨む。
暫くして斥候の佐籐上等兵と菅井上等兵が戻って来る。
佐藤上等兵が早坂の傍に来て、
「報告します!」
「うん・・」
「ここから一キロ先に飛行場などは見えません」
早坂は怪訝な顔で、
「見えない?・・・」
早坂は再度、野村伍長を呼ぶ。
「野村ッ! 来い」
野村伍長が早坂の傍に転がって来る。
「おい、もう一度、地図を見せろ」
「はッ!」
図嚢から地図を取り出し早坂に渡す。
早坂は地図を開き、方位計を胸ポケットから取り出し地図上にあてる。
「・・・おい」
「はい」
「この方位計は合ってるのか?」
野村伍長は早坂の傍に寄り、自分の方位計を取り出し地図の上に載せる。
「・・・間違いないと思います」
「地図が間違っているのか?」
「・・・」
野村伍長は答える事が出来ない。
「いったい俺達は何処に居るのだ」
ジャングルに鳥の声が木霊する。
早坂は佐籐上等兵と菅井上等兵を見て、
「キサマ等、敵と会わなかったか」
「会いません」
早坂はボソッと一言。
「・・・孤立したか」
野村伍長は地図を見ながら、
「戻りましょうか」
「モドル? 何処へ」
「もと来た場所へ」
早坂は少し考え佐藤上等兵と菅井上等兵をもう一度、傍に呼ぶ。
「オマエ等、もう一度行って友軍を捜して来い」
「はいッ!」
二人は、またジャングルの中に消えて行く。
早坂は宙を睨み少し考え、
「全員集まれ!」
兵士達が早坂の周りに転がって来る。
「どうも孤立したようだ。斥候が友軍を捜しに行っている。今夜は此処で夜営をする。全員、糧秣を出せ」
「はいッ!」
兵士達は岩陰で背嚢をといで、糧秣を早坂の前へ並べる。
早坂は周りの兵士達の顔を見回し、溜息まじりで、
「・・・これで何日持つか・・・」
兵士達は俯いてしまう。
続く




