第19話 木原少尉の発狂
木原少尉が丸山道の一点を見詰めて動かない。
突然、奇妙な笑い声を発する。
「フフフ・・・ハハハ・・・地獄だ・・・」
関元曹長が、
「? 大丈夫ですか木原少尉。気をしっかり持って下さい」
木原少尉の眼付きが異常である。
突然、
「オイ、突撃するぞ!」
木原少尉は一人立ち上がり、丸山道を歩いて行く。
関元曹長はソレを見て、
「あ、木原さん! 待って下さい! 木原少尉・・・」
急いで後を追う関元曹長。
それを見て福原軍曹達三人が二人を追う。
道の先に飛行場が見えて来る。
木原少尉が突然、独り言を良いながら走り始める。
「突撃だ・・・突撃するぞ・・・トツゲキ、トツゲキ・・・」
木原少尉の血走った眼。
関元曹長が必死に木原少尉を追う。
「少尉! だめですよ。敵に見つかります。木原さん! オイ、皆! 少尉を捕まえろ」
関元曹長、福原軍曹、河野上等兵、大宮上等兵が木原少尉を取り押さえる。
関元曹長が、
「どうしたんですか。しっかりして下さいよ」
木原少尉が狂った様に、
「何をするか! キサマ等、着剣しろ。俺に続け!」
木原少尉は狂っている。
関元曹長は焦って、
「オイ! 皆。少尉をその樹に縛れ」
森 二等兵が、
「縛れって言われても、縛る物が無いです」
福原軍曹が、
「あ、そこに葛の蔓が有る」
急いで銃剣で蔓を切る福原軍曹。
関元曹長が、
「ヨシ。それで縛ろう」
四人は木原少尉を押さえつけ、樹に縛りつける。
関元曹長が、
「木原さん、申し訳ない。ここで待ってて下さい」
木原少尉が関元曹長に向かって大声で、
「キサマ、 軍規違反だぞ! 軍法会議だ」
木原少尉の血走った目。
関元曹長が、
「静かにして下さいよ。違反でも何でも構いません。とにかく少しの間、我慢して下さい」
木原少尉は急に力が抜けた様に黙り込む。
関元曹長が、
「よし。皆、行くぞ!」
関元曹長に続く兵士達が、
「はい」
木原少尉は虚ろな表情で地面に向かって、
「関元、・・・俺の家・・・頼むぞ」
関元曹長は驚いて振り向く。
木原少尉の顔を見詰めて、
「木原さん・・・。しっかりして下さいよ。皆で一緒に帰るんですから」
関元曹長の眼から涙が溢れ出る。
続く




