第18話 丸山道
日本の工兵隊が切り開いた『丸山道』を俯きながら歩いて行く五人。
木原少尉がボソッと一言。
「情けないのぉ・・・」
関元曹長が、
「? 何か言いました」
木原少尉は俯いて、
「俺はどうしてこんな時代に生れて来たんだろう」
「はあ? そんな事ですか? それは、俺に聞いても分かりません。・・・木原少尉は陸大出ですか」
「いや・・・」
「イヤ? ・・・将校さんは皆んな陸大卒かと思いましたよ」
「俺はただの大卒だ」
「ほう。どちらの大学で?」
木原少尉は関元曹長の耳元に小声で、
「帝大だ」
関元曹長は驚いて、
「てッ、テーダイッ!」
「悪いか・・・」
「あ、いや。帝大出の少尉殿なんて初めてなもんで」
「・・・スカウトされたんだ」
「スカウト? 何ですか、それは」
関元曹長は木原少尉の顔を見る。
木原少尉が、
「うん? うん。実はな、突然、ある学校に入れられた」
「ガッコウ? ああ、優秀だから陸軍学校ですね」
「違う。中野学校だ」
「ナカノ? トツー、トツーの通信隊ですか?」
「通信隊? ・・・ああ、隣がな」
「トナリ?」
「そうだ。通信隊の隣に『戦死してはいけない学校』があるんだ」
「戦死しちゃいけない? 木原少尉は兵隊でしょう?」
木原少尉はきつい眼で関元曹長を見て、
「・・・何でも良い。ところで関元はどこの生まれだ」
「アッシ(私)? アッシは向島です」
「江戸っ子か? 何で仙台の部隊に」
「女房がこっちなんですよ」
「オマエ、婿か」
「か? かって言うのは何ですか。バカにしちゃいけませんよ。こう見えても昔は列記とした大工ですからね」
関元曹長は、やつれた顔で木原少尉を睨(二ラ)む。
「怒るな、腹が減る。・・・俺の実家は広瀬川の近くの春日町と云う所に在るんだ。生きて帰れたら家を建て直そうと思っている。来れるか」
「おお、そう云う事なら、やらせてもらいましょう。浅草から腕の良いヤツを三人ばっか引っ連れて行きます。しかし、ヤツ等はビルマ行きですから生きてるかなあ」
木原少尉は天を仰いで、
「ビルマ?・・・インパールか。帰れるかなあ。・・・おい、少しその辺で休もう。腹が減って」
「そうですね」
関元曹長は遅れて来る福原軍曹、河野上等兵、大宮上等兵の三名に、
「おい、少し休もうや。芋が消化しやがって、力が出ねえ」
関元曹長が放屁をする。
三人は呆れた顔で関元曹長を見る。
太い樹の根元に腰をかける木原少尉達五人。
少し離れた樹の根元に、同じように俯いて兵士が座って居る。
木原少尉が顎で指す。
「おい。あれ・・・」
四人は木原少尉が顎で指す先を見る。
福原軍曹が、
「何処の兵隊でしょう」
重い腰を上げて兵士の傍に寄る福原軍曹。
兵士の周りに沢山の蠅が飛んでいる。
「おい、キサマ! 起きろ。大丈夫か」
揺り動かす福原軍曹。
兵士の「鼻の穴」から蛆がこぼれる。
死臭が鼻を突く。
福原軍曹は腕で自分の鼻を塞ぎ、破れた軍服の「腕章」を見る。
「『3』か。川口の残兵だな・・・。可哀そうに」
福原軍曹は合掌して木原少尉の所に戻り報告する。
「川口部隊の兵隊です。・・・抜け殻ですわ」
木原少尉は一点を見つめ、
「この間の突撃で残った兵隊だろう。一撃で死んだ方が良かったのになあ」
続く




