第17話 七名の生存兵
兵士達は雨に濡れ、まるで『落ち武者』の様である。
木原少尉と河野上等兵が息を荒げて米軍の資材テントに避難して来る。
木原少尉は先に避難している関元曹長、福原軍曹、大宮上等兵を見て驚き、
「おお! みんな無事だったか。・・・中隊長は?」
関元曹長、
「分かりません」
福原軍曹は耳を澄まし、外の気配を伺う。
大宮上等兵はテントの端をそっと開け、外を覗く。
「よく燃えてますねえ。・・・もう一度、突っ込みますか」
福原軍曹が気合を入れて、
「よしッ、ヤルか!」
立ち上がる福原軍曹。
木原少尉が、
「待てッ!」
「は~?」
木原少尉は鉄帽を置きながら、
「全滅するぞ。とりあえず川口の残兵達の様子を見てからだ」
二十時。
北側滑走路の草むらから、数十人の川口部隊の集団が銃剣突撃をかけ始める。
稲妻が雨の中を突撃して来る兵士達を照らし出した。
ざわめきに気付いた監視塔の米兵が、狂声の方向に探照灯を回す。
交差する探照灯の灯り。
壕の中の米兵達の銃火器が一斉に火を吹く。
雨空に揚がった照明弾。
曵光弾が蜘蛛の巣の様に地面を覆う。
翌朝・・・。
工作車が二台で日本兵の骸を集めている。
草むらに隠れ、滑走路の工作車を眺めている早坂中隊の残存兵七名。
◯ 早坂中隊の生存兵(七名)
木原猛雄 (少尉)
関元雄三 (曹長)
福原源次 (軍曹)
大宮 滋 (上等兵)
河野源太郎 (上等兵)
木村武治 (一等兵)
森 秀雄 (二等兵)
関元曹長が情けない顔で、
「全滅ですか」
木原少尉が呆然としながら、
「・・・残ったのは俺達だけだな」
関元曹長も放心状態で一点を見詰めている。
森 二等兵が、
「死んだ方が良かった」
大宮上等兵は俯いて、
「死ぬよ」
苦しそうに咳き込む木村一等兵。
福原軍曹が心配そうに木村一等兵を見て、
「大丈夫か?」
「寒い・・・。風邪をひいた様です」
木原少尉が、
「カゼ? しっかりせい。こんな所で風邪などひいたら終わりだぞ」
木村一等兵は腕を組み、体を震わせてながら、
「大丈夫です。大した事は有りません」
関元曹長が一点を見詰め、
「・・・戻りましょうか?」
木原少尉が関元曹長を見て、
「何処へ」
「え?・・・あの洞穴に」
「戻ってどうする」
「・・・どうしましょう」
森 二等兵が切なそうに、
「腹が減ったなあ・・・」
河野上等兵が、
「海岸に行きましょうか。援軍が来るかも知れません」
木原少尉が関元曹長を見て、
「どう思う」
関元曹長、
「戻っても喰う物も無いし。・・・岬に行って魚や貝でも漁りますか」
木原少尉は惨めに、
「情けねえなあ」
福原軍曹が突然、思い出した様に、
「あッ! 俺、あの時、アメ功のテントから缶詰めをカッパラッて来たんです」
福原軍曹は肩に提げた米軍の簡易袋から缶詰めを取り出す。
それを見て六人が唾を飲みこむ。
木原少尉が、
「いくつ持って来た」
「五、六個入ってるんじゃないですか」
河野上等兵が、
「一日一個を七人ですか」
木原少尉が、
「福原ッ! これが有る場所は分ってるな」
「そりゃあ、勿論です」
関元曹長は木原少尉を見て、
「もう一度、突っ込みましょう!」
大宮上等兵が、
「曹長殿。俺、腹が減って走れません」
木原少尉が、
「おい、やっぱりいっぺん洞穴に戻ろう。作戦を練るんだ」
森 二等兵が、
「作戦? ですか」
木原少尉、
「そうだ。生きる為の作戦だ」
河野上等兵、
「生きるため?」
木原少尉が、
「敵の食料!」
森 二等兵はようやく理解して、
「あッ! 鼠ですね」
全員が笑う。
続く




