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第16話 早坂中隊の崩壊

 霧雨は雨に変わり、暫くすると大雨に変わった。


早坂中隊は関元曹長を先頭に、川に変わったジャングルの道を飛行場まで粛々と進んで行く。

ルンガ(ヘンダーソン)飛行場の灯りが雨にしぶいて見えて来る。

兵隊達の鉄帽(ヘルメット)から雨水が流れ落ちている。


 中隊の十七名が息を殺して雨の草むらに伏して居る。

数名の米兵達が、飛行場を囲む壕の中に蠢(ウゴメ)いている。


前方の窪みに早坂が腕時計を見ながら木原少尉と小声で話しをしている。


暫くして、木原少尉が関元曹長の傍に転がって来た。


木原少尉が胸ポケットから懐中時計を取り出す。

時計の針は「十九時二十分」を指す。


 「そろそろ始めるか」


関元曹長が米軍キャンプの灯りに照らし出された三台の戦車(M4)を指さし、


 「あそこに戦車が並んでいます」


木原少尉は関元曹長の示す方向を見る。


 「うん」


曹長は傍に隠れる『斎藤上等兵・大宮上等兵・井上二等兵・浅田一等兵』を呼んだ。


関元曹長の傍に四名が集まる。

曹長が、


 「俺とオマエ達で戦車(M4)をやる。工作車の方は木原少尉、お願いします」


木原少尉、


 「よし、分かった」


関元曹長は四名を見て、


 「分かったな」


四名、


 「はい!」


気合いの入った四名の掠れた声。


 木原少尉の周りに、『西山軍曹・市村上等兵・木村一等兵・野々宮一等兵』の四人が集まって居る。


 「よし。西山、市村、木村、野々宮! 俺に続け。目標はあそに見える六台の工作車(ブルドーザー)だ」

 「はい!」


早坂達数人が木原少尉と関元曹長の傍に転がり込んで来る。

木原少尉が驚いて、


 「あ、中隊長ッ!」

 「うん」


木原少尉が報告する。


 「関元、斎藤、大宮、井上、浅田の五人で戦車(M4)をやります。私と西山、市村、木村、野々宮の五人で工作車をやって来ます。後は宜しくお願いします」


早坂が、


 「分かった。俺と佐籐、岡田、河野、森で戦闘機をぶっ潰す。いいか!」

 「はい!」


早坂は周りに集まる兵士達をじっと見つめ、


 「みんな。死ぬなよ!」

 「はいッ!」


と突然、早坂の肩を叩く者がいる。

驚いて振り返る早坂。

佐々木AI兵、野村AI兵、高橋AI兵、濱田AI兵、鈴木AI兵、菅井AI兵、山本AI兵の七基が早坂の周囲を囲んでいる。

早坂が驚いて、


 「おお、キサマ等!」


その声に木原少尉と関元曹長以下全員が振り向く。

木原少尉が、


 「あッ! ご、ご苦労様です。これから始めます」


佐々木AI兵が、


 「中隊長。我々は先に行きます。用意が出来たら戦車の上から『青い灯』を点滅します」


早坂は丸腰の佐々木AI兵達を見て、


 「キサマ達、銃は持たんのか」

 「銃はいりません、皆さんを見取るだけです」

 「ミトル? オマエ達はこの間の戦いで敵の戦車を奪ったな」

 「ああ、あれは野村伍長の手柄です。今はそこに『再生兵(AI兵)』と変わって居(オ)りますけれど・・・」


早坂は振り向いて野村AI兵を見る。


 「・・・そうだったな。キサマも幽霊になってしまったんだな。・・・頼むぞ。俺達を見取ってくれよ」


野村AI兵は早坂を見て黙って頷き、笑った。

早坂は腕時計を見る。

時計の針が『十九時二七分』を指す。


 「そろそろ始めるか」


早坂が振り向くと佐々木AI兵達は消えている。

暫くすると戦車(M4)の砲塔から『青い灯り』が点滅する。

雨は更に激しく降りしぶく。

早坂はそれを見て、


 「おッ、佐々木だ。よし、 木原、関元! 頼むぞ」

 「はいッ!」


木原少尉が五名を見て、


 「・・・行くぞ。続けッ!」


大雨の中を中腰で走って行く『生きている兵士達』。

早坂が、


 「よし! 佐籐、岡田、河野、森。俺に続け」

 「ハイッ!」


四人の悲鳴の様な押し殺した声。

早坂の後を中腰で四人が続く。

関元曹長が、


 「よ~し、行くぞ・・・」


斎藤上等兵と大宮上等兵、井上二等兵と浅田一等兵が背を低くして雨の中を突進して行く。

痩せた兵士達の腰にぶら提げた手榴弾の当たる音が続く。


 空は猛烈な雨になる。


有刺鉄線の向こう側の壕に米兵達の懐中電灯の灯りが漏れている。

突然、夜空に閃光が走る。

壕の中の米兵と伏した日本兵が雨の中にはっきりと映し出される。

轟音と共に雷鳴が轟く。

早坂は暗い雨空を見詰めて、


 「・・・雷(カミナリ)か」


稲妻の中に戦闘機(F4Uコルセア)の機影が浮かび上がる。


 「よし、操縦席の中に手榴弾をぶち込め。一人一機(ヒトリイッキ)だ。かかれ!」


地下足袋(ジカダビ)の早坂が戦闘機(F4Uコルセア)の変形翼に登り風防を開く。

手榴弾を放り込み、急いで翼から飛び降りる。

残りの四名(佐籐上等兵・岡田一等兵・河野上等兵・森 二等兵 )も次々と戦闘機(F4Uコルセア)に走り寄り、翼に飛び乗る。

風防を開けて手榴弾を投げ込み飛び降りる。

手榴弾の爆発音が雷音にかき消され、米兵達は気が付かない。

戦闘機(F4Uコルセア)の周りが火の海に変わる。

火炎に気付いた監視塔の米兵が、探照灯(サーチライト)を回転させる。


稲妻(イナズマ)で三台の戦車(M4)の残像が眼に焼き付く。

関元曹長以下四名(斎藤上等兵・大宮上等兵・井上二等兵、浅田一等兵)が戦車に貼り付いて砲塔に上がる。

雷鳴が鋭く轟く。

関元曹長がハッチを開けて手榴弾を投げ込む。

壕の中の米兵達には爆破音が雷鳴に消され、全く気付かない。

関元曹長は戦車から飛び降り、中腰で次の戦車(M4)に急ぐ。

稲妻に照らし出される関元曹長。


斎藤上等兵が戦車のハッチを開け手榴弾を放り込む。

戦車(M4)から飛び降りる斉藤上等兵。


関元曹長が叫ぶ。


 「ヨシ、もう一両だ!」


大宮上等兵の悲鳴の様な声が。


 「ハイッ」


ドブ鼠の様な五名の兵士。


大宮上等兵が戦車(M4)によじ登り、ハッチを開け手榴弾を放り込む。


監視塔の探照灯(サーチライト)が戦車(M4)を照らす。

同時に激しい機銃掃射があちこちから起こる。

曵光弾が糸を引く。

『十字砲火』である。


木原少尉が工作車(ブルトーザー)のボンネットを開けて、片っ端から手榴弾を放り投げて行く。


 「急げ、急げ! 逃げろ~」


木原少尉の血走った眼。

激しい機銃掃射。

銃弾が木原少尉を掠める。

椰子の樹に銃弾が大量に刺さる。


テントの中に飛び込む関元曹長と大宮上等兵。

それを追うようにして木村一等兵と福原軍曹、森 二等兵が飛び込んで来る。

全員の息が荒い。

関元曹長が放心状態で、


 「斎藤と浅田は」


大宮上等兵が、


 「俺の後ろに居たのですが」

 「・・・その内来るだろう」


福原軍曹が、


 「野々宮も居ません」


 ◯ 忠魂碑に刻まれた名前

 早坂崇雄 三五歳 大尉中隊長(戦死)

 西山 徹 三六歳 軍曹(戦死)

 佐籐 勇 二七歳 上等兵(戦死)

 斎藤順次郎 二七歳 上等兵(戦死)

 市村金太 二八歳 上等兵(戦死)

 浅田菊雄 二二歳 一等兵(戦死)

 岡田卓巳 二十歳 一等兵(戦死)

 野々宮 博 十九歳 一等兵(戦死)

 渡辺吾一 二一歳 二等兵(戦死)

 井上博道 二二歳 二等兵(戦死)


 日下(A I兵)は鉄帽を被って早坂中隊長の死体の傍に立っている。

日下は早坂中隊長の死体に触れた。

閃光が早坂中隊長の身体に走る。


早坂は再生され、『早坂崇雄AI兵』として誕生した。


早坂AI兵の軍装は新しい物に変わっている。


他の鉄帽のA I兵が西山軍曹の死体に触れた。

閃光が全身を走り、西山軍曹は何も無かったかの様に立ち上がった。

軍装は全て新しい物に変わっている。


『西山 徹AI兵』の誕生である。


暫くすると鉄帽のA I兵に触れられた全ての死者が、閃光と共に『A I兵』と変わり、立ち上がる。

A I兵達の軍装は全て新しい物に変わっている。

探照灯(サーチライト)が十基のA I兵の群れを照らす。

A I兵の群れには影は無い。

                          続く

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