第11話 飢 え
一発の銃声がジャングルに響く。
「ターン・・・」
森 二等兵は驚いて伏せる。
匍匐で音の方向に向かう。
森 二等兵が藪の中からそっと顔を出す。
渡部二等兵が野豚の上に腰かけている。
森 二等兵は安心したかのように周囲を見回して立ち上がる。
豚を見て、
「おおッ! 仕留めたな」
「うん。オマエは何処に行ってた?」
「! すまん。・・・兵隊と会ってな」
「ヘイタイ?」
森 二等兵は渡部二等兵の傍に来て
「うん。・・・住吉部隊の戦車兵だ」
「スミヨシのセンシャヘイ?」
力無く驚く渡部二等兵。
「お別れをして来た」
「オワカレ? ああ、そうか。昨夜の声の主だな・・・」
「そうだ。さっきの銃声はオマエか」
「うん?・・・そうだ」
「敵に見つかるぞ」
「敵なんか怖くねえ。餓死の方がよッぽど切ねえや」
渡部二等兵の足元に蟻の行列が通る。
先頭の蟻が地面に出て来たミミズに噛み付く。
ミミズは暴れている。
蟻達は見る見るうちにミミズに喰らいつく。
森 二等兵はその蟻を見ながら
「餓死か・・・」
渡部二等兵は仕留めた豚の尻を叩き、立ち上がる。
「よしッ! 運ぼう。これで三日ぐれえは生き延びられる」
森 二等兵と渡部二等兵はブタの両手足を棒に通しヨタヨタとジャングルの中に消えて行く。
痩せた兵士達が俯きながら樹の根元に座って居る。
藪を掻く音がする。
西山軍曹が、
「誰か来るぞ、伏せろ!」
兵士達が38銃の槓桿(遊底)を下げて照準を合わせる。
市村上等兵が小声で、
「ヤマ・・・」
「カワ!」
藪の中から森 二等兵と渡部二等兵が出て来る。
二人は棒の間にブタの足を通し、担いでいる。
「何だオマエ等か」
市村上等兵はブタを見て眼の色が変わる。
「おおッ! ぶッ、 ブタだ」
その声を聞いた西山軍曹が唾を飲みながら木陰から出て来る。
「おい、今ブタと聞こえたぞ?」
痩せ細った木村一等兵もブタと聞いて岩の後ろから顔を出し、
「さっきの銃声はオマエ等か」
渡部二等兵が、
「すまん。ブタが居たので」
西山軍曹と(元)相澤中隊の残兵四名がノソノソとブタの周りに集まって来る。
全員、ブタに視線が集中する。
唾を飲み込む兵士達。
西山軍曹が、
「おい、野々宮。中隊長に知らせて来い」
「ハイ!」
早坂と木原少尉と野々宮一等兵がホラ穴営舎の中から出て来る。
早坂の顔は青白く眼が窪み、まるで『幽鬼』の様である。
早坂は焦って、
「豚はどこだ!」
野々宮一等兵が、
「あそこです」
木原少尉は横たわるブタを見て、
「おおッ! ブタだ。 勲章もんだ」
野々宮一等兵が、
「まことに、そうであります!」
早坂はブタの周りに集まる痩せた兵士達を見て、
「おい、 急いでメシの支度をしろ」
どよめく兵士達。
早坂が、
「おお、そうだ。佐籐ッ! 営舎の隅に俺の集めたイモがる。あれを全部持って来い。それでブタ汁を作れ。これが喰い収めに成るかも知れんからのお。ハハハ」
「はいッ!」
佐籐上等兵が急いでホラ穴営舎に入って行く。
続く




