↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/40

第10話 再生出来ない兵士

 痩せ細った森 二等兵が、樹の株にもたれかかり虚な目をして座っている。


ジャングルに奇妙な声が木霊(コダマ)する。


 『オ~イ・・・ノブコー・・・タスケテクレ~・・・」


森 二等兵が、


 「・・・? おい・・・、誰か呼んでるぞ」


渡部二等兵は夕飯(ユウメシ)の支度をしながら、


 「鳥の声だろう」


 『オ~イ・・・タスケテクレー・・・』


森 二等兵、


 「?・・・いや、ヒトの声だ」


渡部二等兵、


 「南方の島には人の声を真似する鳥が居るそうだ。それにしても・・・。あの声を一晩中聞かされたら気が変になるな」


渡部二等兵が飯ごうの蓋(フタ)を持って森二等兵の傍に座る。


 「さあ、メシだ。喰え」


森 二等兵は蓋の中身を見て、


 「・・・何だコレは?」

 「ネズミだ」

 「ネズミ~?」

 「粥(カユ)と一緒に煮てあるから大丈夫だ」

 「カユ・・・米が見えんぞ」

 「一日十五粒! 中隊長の命令だ。だから十五粒入れてある」

 「十五粒か・・・。この白い蕎麦(ソバ)はオマエが打ったのか?」

 「それはミミズだ」

 「ミミズ?・・・」


森 二等兵は気持悪そうに、さ湯の様な「夕飯(ユウメシ)」を啜(ススル)る。

渡部二等兵は森 二等兵の顔を見て、


 「・・・旨いか?」

 「うん? 分からない。オマエも食え」

 「俺はいい」

 「いい? ・・・俺に食わせといてオマエは食わんのか。死ぬぞ」


またあの声が木霊(コダマ)する。


 『オ~イ・・・コロシテクレ~・・・』


森 二等兵が、


 「もし俺があの鳥の様に成ったら殺してくれよな。どうせ国には帰れねーんだ。幽霊に成ってこの島で永遠に戦ってやる」

 「俺も頼む。どうせ、国に帰っても家族なんて居やしねえし。ずっとここで幽霊に成って皆なと暮らした方が楽しいや」

 「佐々木准尉達(再生兵)の夜はどうして居るんだろうな」

 「あの人達は別の世界に居るんだ。腹も空(ス)かずに俺達の事を見てるんじゃなかな。何しろ一度死んだ人だから・・・」


森 二等兵が、


 「仏様は腹が減らねえのか・・・。俺も突撃して一度、死んだ方がましだったな。ここは生き地獄だ」


ため息を吐く森 二等兵。

渡部二等兵が俯いて、


 「焦らなくても明日は死ぬよ・・・」


 夜が明けて渡部二等兵が森 二等兵を起こす。


 「おい、森・・・。生きてるか」


片目を開ける森 二等兵。


 「・・・生きてるよ」

 「餌でも探しに行くか」

 「エサ? ああ、餌ね。・・・うん」


二人が銃を杖(ツエ)代わりにして起き上る。

すると『野豚』が獣道(ケモノミチ)を歩いて来る。

森 二等兵が、


 「? おい、・・・ブタだ」


渡部二等兵も驚いて、


 「あッ、ブタだ! つ、捕まえろ!」

 「待て。俺が先に廻る」


森 二等兵がジャングルの中を急ぐ。


 樹の根元にボロボロの兵衣を纏った骨と皮の兵士が俯(ウツム)いて座っている。


森 二等兵は兵士に近付いて声を掛ける。


 「おい!」


兵士はゆっくりと顔を上げる。


下半身から小便が流れ出した。


兵士は森 二等兵を見詰めて掠(カス)れた声で、


 「タ・・・ス・ケ・テ・クレ」


昨晩からの声の主(ヌシ)であった。

森 二等兵は兵士に、


 「何処の部隊だ?」

 「ス・ミ・ヨ・シ・・・」

 「スミヨシ?・・・住吉の戦車兵か。此処まで来ていたのか。他の兵は?」

 「ワカ・ラ・ナ・イ」

 「申し訳ない。俺はオマエを助ける事が出来ない。勘弁してくれ」

 「・・・ツ・レ・テ・ッテ・クレ」


森 二等兵は兵士に向かって手を合わせる。


 「すまん。・・・スマン」


兵士の窪んだ片眼から大粒の涙がこぼれる。

森 二等兵の目からも泪が溢れ出る。


兵士が握り拳(コブシ)を 森 二等兵に見せる。

その手を握る森 二等兵

兵士の拳(コブシ)の中から紙が覗く。

森 二等兵は兵士の拳(コブシ)を開くと、クシャクシャに成った紙が出て来た。

その紙を取り、開く森 二等兵。


 『写真』であった。


写真は『出征時の写真』である。

女と乳飲み子が映っている。

森 二等兵が兵士を見て、


 「・・・ヨメさんか?」


兵士は首を縦に振る。

森 二等兵は兵士を暫く見詰め、


 「・・・分った・・・分かったぞ。・・・そうか。そうか・・・」


森 二等兵の目から泪が溢れて止まらない。


兵士は、か細い声で、


 「ジュウショ ハ・・・ウ・シ・ロ・・・・」


兵士は力無く俯(ウツム)く。

森 二等兵は突然立ち上がり、兵士に向かって『不動の姿勢で敬礼』をする。

そして唇を噛み締め、


 「もし、俺が生きて帰れたら・・・この写真のヨメさんにキサマの最期を伝えてやるッ!」


と叫(サケ)ぶ。


堰を切った様に涙が溢れる森 二等兵。


そして、


 「頼むから、俺を恨まないでくれ。恨むなよ」


の言葉を残して森 二等兵が、淋しく急いで立ち去って行く。

                          続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。