第九話「騎士団」
一晩を宿で過ごしたベルナルド一行。
今日は朝から商談予定のようです。
商談は、殆どマルティンとキパールとの間で進められます。
その間他の者たちは、側で大人しく話を聞いて過ごしています。
「大体、例年通りだね」
「ええ、安価な食材を多めにもらえると助かります」
「まあ、食材なら何とかなるけどねぇ」
「できれば、狩猟道具なんかもそれなりに欲しいところなんですが……」
「そっちは需要が多いから……」
「そうですよね……」
やはり、予算がきつそうですね。
殆ど食材しか購入できないようです。
「ベルナルド様は何か聞いておきたいことはありますか?」
キパールはベルナルドに話を振る。
「香辛料は扱っていないのだろうか?」
ベルナルドは、料理の味付けを気にしています。
「あるにはあります。しかし、香辛料は比較的高値で取引される傾向にあります。殆どは、中流国家以上でないとまともに取引できないものです。下流国家だと、普通に食料や生活必需品を購入した方がましだと考えますからね。実際、王族や貴族や裕福な商人などごく一部の者しか購入することはできませんよ」
「そして特に、今年は値上がりしてきています」
マルティンはダメ押しするように、体を少し前に出して回答する。
その話を聞いて、ベルナルドは料理の味付けについては諦めました。
♢♢♢
その日の午後。
キパールは一日取引きにかかりっきりとなるため、他のみんなで町を見て周ります。
といっても、ずっと一緒に固まって行動しているという訳ではありません。
ニックは農具、ヒッチは靴、マリアは陶器類、ベルナルドは魚など。
各自、気になるものは異なるようです。
みんな、思い思いにウィンドウショッピングを楽しんでいたのですが、その時間も長くは続きませんでした。
向こうで何やら、マリアと男たちが会話をしているようですが、フレンドリーな雰囲気ではないように見えます。
「ここら辺じゃ見ない顔だな。姉ちゃん俺たちと飲もうぜ」
「どこに雇われてるんだ?俺たちのところへ来ないか?こっちの方が待遇いいぜ」
マリアに話しかけているのは、昨日見かけたミッドナイト騎士団の兵士たち。
女性をお誘いするには不適切な発言です。
「私はペシミール国王の従者です。あなたたちの国には興味がありません」
マリアは毅然とした態度で対応します。
「ペシミール?ハッハッハッ、下級国家じゃないか。万年貧乏国って聞くぜ、あそこにいても末代まで中級国家には這い上がれないだろう。あんなところのどこがいいんだ?」
「俺たちと中級国家ライフをエンジョイした方が楽しいに決まってる!賢く立ち回った方が人生お得だぜ」
これは、他の国家に対して失礼な発言です。
「そういう所なんですよね」
マリアはため息をつく。
この態度に兵士たちはムッとしてしまいました。
「何だその態度は、俺たちに逆らっていいのかい?やはり賢明な判断はできないようだな」
一気に不穏な空気が漂います。
そこへニックとヒッチが割り込んできました。
「ミッドナイト騎士団の方々とお見受けします。我々はペシミール国の兵士です。皆さんのご活躍は、お伺いしております。我々は事を荒立てるつもりは毛頭ありません。ここは、穏便に済ませていただけないでしょうか?」
「お互い面倒ごとはやめましょうよ」
「おいおい、ペシミールごときがミッドナイト騎士団に立てたらどうなるか、分かってるのか?」
「邪魔をするなら容赦しないぜ」
男たちは全く引くつもりがないようです。
ゾロゾロ。
やり取りをしていると、相手の騎士団の仲間たちが合流してきました。
ヌッ。
こちらはベルナルドが背後から顔を出しました。
「な、何だ?」
相手の兵士たちは驚きます。
「おいおい、何だこの男は?ははーん、用心棒ってことか。だから今まで強気だったって訳だな」
「確かに強そうだが、俺たち相手に1人で何ができるっていうんだ?」
騎士団のヘイトは完全にベルナルド1人に向きました。
どうやら、彼を倒せば話が済むと考えたようです。
ザザッ。
騎士団たちは一旦距離を取ります。
ヌッ。
ベルナルドは前に出ました。
「図体だけデカくても、数はこちらの方が上だ。こちとら毎日過酷な訓練をしてるんだ、田舎者に負けるわけがねえ!」
そう言うと、6人一斉にベルナルドに飛びかかりました。
!?
次の瞬間、その場にいる者たちが全員固まりました。
輪の中心にいるベルナルド。
その周囲に飛びかかった騎士団の兵士たち。
それを見つめる観客たち。
何秒経過したでしょうか、誰一人として一歩も動かない、いや動けない状況が続きました。
観客たちはその異様な状況を凝視する。
飛びかかった兵士たちは必死に相手を倒そうとする。
ベルナルドは平然と仁王立ちする。
(ふむ……)
ベルナルドは、グッと力を入れて兵士たちを押し返しました。
ドドドッ!!!
一気に床に倒れていく兵士たち。
地面から立ち上がりながら、兵士たちは頭を回転させます。
おかしい、おかしいぞ。
戸を押せば開く。
酒を飲めば酔う。
犬も歩けば棒に当たる。
俺らが町を歩けば、皆避けて通る。
だけど、6人がかりでぶつかってもあの男は倒れない!
何かがおかしい!
兵士たちは、全く理屈が分かりませんでした。
まだ理解ができないため、兵士たちは再びベルナルドにぶつかっていきます。
今度は1人ずつ飛びかかっていきますが、ペシペシと順番にベルナルドに弾かれていきます。
再び地面に転がる兵士たち。
(あっ!これムリなやつだ)
流石に2回トライすれば、子犬でも力の差を理解できます。
彼らは、これ以上やっても勝ち目はないと判断しました。
「くそっ、次にあったらタダじゃおかないぞ」
そういうと、そそくさと彼らは去っていきました。
捨てセリフと共に、すごすごと去っていく彼らの後ろ姿といったら、なんともみっともないものです。
ドッ!!!
周りの人たちは大笑い。
拍手喝采に口笛も飛び交います。
あっという間に、ベルナルドの周りには壁ができました。
「あんたすごいな!何食ったらあんなことができるんだよ」
「あいつらのあんな姿初めて見たよ。ありがとう!」
「ペシミールの人なのかい?あの国にこんな逸材がいるとはね、一杯奢らせてくれよ」
「見たかよ、あいつらの顔。全くみっともない騎士団だったな」
人々はベルナルドに感謝を伝えます。
この場所を中心に、町の雰囲気は一気に変わり、その勢いのまま酒場へ移動しました。
「いやはや、ベルナルド殿の勇士には息を飲むのも忘れてしまいました。まさか、あの連中を簡単に片付けてしまうなんて思いもよりませんでしたよ。この町がこんなに盛り上がっているのは本当に久々です。私にも一杯奢らせてください」
マルティンは興奮気味でベルナルドを褒め称えます。
「ベルナルド殿には、改めて感謝いたします。我々だけではどうなっていたか……。国に戻った際には、改めてお礼をさせていただきたいと思います」
ニックなら、私がいなくても対処しただろう。
彼はそういう男だ。
「いやー、一時はどうなるかと思いましたよ。完全に俺たちの手に負える相手じゃなかった。ほんと、ベルナルド殿がいてくれて良かったです」
ヒッチなら、私がいなくても対処しただろう。
彼はそういう男だ。
「私のせいでご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございませんでした。私としたことが、軽率でした。今後このようなことがないよう、注意いたします」
「「「マリアさんは悪くないですよ」」」
全員の声が重なった。
♢♢♢
その後は、みんなでベルナルドを囲みながら酒場へと移動します。
町中の人間が集まっているのかと思うほどギュウギュウ詰めの酒場で、朝まで酒盛りが続きました。
そして、酒場で一晩を明かした後、ベルナルド一行はたくさんのお土産と共にペシミール国へと戻ります。




