第十話「春の宴、春の歌、春の花」
「これは、一体……」
馬車を迎えたメイド長モーラと料理長ヨクニールは呆気に取られた。
ズッシリとした酒樽、ギュウギュウ詰めの袋、うずたかく積み上げられた荷物、今にも転げ落ちそうな野菜。
2人が初めてみる馬車の造形。
それは、明らかに買い出しの想定を大幅に上回っていた。
「事情は私から説明します」
そう言って、マリアが二人の相手をする。
「長旅お疲れ様でした。ベルナルド様は部屋でお寛ぎください」
そう言って、キパールとニックとヒッチは荷卸しに取り掛かる。
(トレーニングでもするか)
そう考え、ベルナルドは一旦部屋へと戻っていった。
城へ戻ってきたのは夕方だったため、ベルナルドは晩餐までの時間を自重トレーニングをしながら過ごしました。
カチャ……
食器が置かれた後、ガルド王が口を開く。
「ベルナルド殿、この度は従者たちを助けていただき誠にありがとうございます。この国を治める者としお礼を申し上げます」
ガルド王はゆっくりとお辞儀をする。
「そして、今回結果として用心棒のようなことをさせてしまい申し訳ございません。本来であれば、我々がベルナルド殿をお守りしなければならない立場でした。深くお詫び申し上げます」
ガルド王と他の者たちが深く頭を下げる。
「いや、特にお礼を言われたり謝罪されるようなことはない」
ベルナルドは全く謙遜せずに言葉を返す。
「ベルナルド殿は懐が広いお方ですな。さて、こちらからお尋ねしたいことがございます。今回城へ持ち帰った食料ですが、これはベルナルド殿が手に入れたものです。一旦この城で保管させていただきますが、どのように使用されたいかご希望はございますか?」
ベルナルドは少し思案する。
「一人では食べきれないな」
「現在、この国の食料事情はどのような状況だろうか?」
「ご心配には及びません。幸い今年の収穫までの目処は、おおよそ立っております。山に入った者たちからも、今の所環境面は問題ないとの報告を受けています」
「ふむ、それでは宴の催しに料理を提供するというのはどうだろうか?」
「宴ですか、ベルナルド殿はそれでよろしいのでしょうか?」
「私は問題ないが……。ちなみに宴では肉料理はどの程度出るのだろうか?」
「食材を確認しましたが、お肉はモリモリでございます。ベルナルド殿のおかげで食材はたくさんありますので、遠慮せずにお召し上がりください」
「それは素晴らしい!」
パッと輝いたベルナルドの顔を見て、城の者たちは皆ニッコリする。
こうして、ペシミール城で宴が開催されることになった。
♢♢♢
翌日……。
城の者たちが慌ただしく宴の準備をしている間、ベルナルドは日課のお手伝いやトレーニングをして時間を過ごします。
そんな中、山から戻ったベルナルドがイノシシを担いで戻ってきたので、その姿を見た者たちは驚きました。
「確か、ベルナルド殿はトレーニングに行かれたのですよね?何も持たずに……」
「一体どうやって?……」
「えっ、そのまま担いできたんですか!下処理もせずに!?」
「流石にこいつを今日出すのは無理だ」
「しかし、この時期にイノシシっていうのもちょっと珍しいな」
城の広場で準備をしていた者たちは、頭に疑問符をつけながら獲物を運んで行きました。
♢♢♢
そして、宴の開幕。
宴の開催場所は、城門を抜けてすぐの広場。
この国では、こういう催しの際には門を国民に解放し皆で祝うようにしています。
隅には並べられた酒樽。
ニンジン、キャベツ、若ネギ、イラクサの若芽、ケールの新芽などの新鮮な野菜を使用した料理。
干しりんご、干しサクランボ、レーズン、オレンジ、レモンなど果実少々による色彩。
クルミ、ヘーゼルナッツなどのおつまみ。
そして、塩漬け豚肉、燻製豚肉、ソーセージといった肉料理が、円形や長方形のテーブルの上を彩っています。
そこに、邪魔にならない程度に所々配置された飾り付けと周囲から照らす照明により、人々の表情も明るく浮かび上がってきます。
準備が整ったところで、ガルド国王が立ち上がる。
「此度の催しは、ベルナルド殿のお心遣いにより開催されたものである。先日、ベルナルド殿はハブ町にて、我が家臣を守ってくれただけでなく、ご自身で手に入れた豊潤なる実りを我々に分け与えてくれることをご明断された。日々のご尽力、国民の守護、果実の分配。この国の誰に聞いても、ペシミールの勇者に他ならない存在である。この広場だけでは、ベルナルド殿のお心の広さには到底及ばぬが、せめて、我々の持て成しうる絢爛により、そのお気持ちにお応えしよう!この国一同より、ベルナルド殿に感謝を!」
「「「ベルナルド殿に感謝を!!!」」」
国王の音頭と共に、国民たちの温度が高まり、宴がスタートしました。
主賓であるベルナルド、大臣、ニック、ヒッチの4人は長方形のテーブルの端に、仲良く固まって座っています。
その方が落ち着くようです。
暫くすると、そこへボルドーがやってきました。
「……」
無言でベルナルドに酒をつぐボルドー。
サッ
酒をつぎ終わると、ベルナルドに向かってサッと腰を曲げ、ササッと去っていきました。
「ボルドーは不器用な男なんです。あれがあの男なりの敬意の表し方なのですよ。分かってやってくだされ」
「ボルドー殿のああいう姿は初めて見ました」
「やれやれですね」
さらに暫くすると、今度はメッテがやってきました。
「あの、こちらは両親に持たされたものなんですが、家にある上質な小麦で作ったパンとチーズです。お肉に合うと思います。よろしければ召し上がってください」
ベルナルドの前に料理を置くと、メッテはそそくさとその場を去っていった。
「これは、これは」
「さすが、メッテは見る目がある」
「ベルナルド殿も隅におけませんね」
ベルナルドは早速料理に手をつけます。
パンにチーズをつけて一口。
!!
「これは旨い!」
ベルナルドの瞳孔が開きました。
濃厚な旨みのチーズ、酸味の効いた酒、塩漬けの肉、上質な小麦で作られたパン。
モグモグモグモグ。
パンとチーズ、パンと肉、チーズと肉、と組み合わせを試していると、あっという間に目の前の料理はなくなってしまいました。
相当お気に召した様ですね。
「ふぅ……」
美味しい料理を堪能し一息ついていると、今度は派手な身なりの男がやってきました。
「あなたがベルナルド様ですね!お初にお目にかかります。私、吟遊詩人のラインマールと申します」
ラインマールと名乗るキザな男は、帽子を取り、丁寧にお辞儀をしながら自己紹介をする。
「吟遊詩人?誰が呼んだのじゃ?」
「ガルド国王の許可を得ております」
ラインマールは笑みを携えながら回答する。
4人が一斉に国王の方を見ると、指で作ったOKサインが返ってきた。
4人は前に向き直り、会話を再開する。
「聞いたことのない名前じゃな」
「吟遊詩人?初めて見たな」
「っていうか、あんた一体どうやってここまで来たんだ?」
「吟遊詩人には謎が多いのです。細かいことは気にしないでくださ〜い♪」
遠くで馬が鳴く声が聞こえた。
「ベルナルド様の隣町でのご活躍をお聞きしました。そのお姿を一目見ただけで、今回のご活躍とこの国に伝わる伝説が重なり、私の中でハーモニーを奏でました。私ラインマール、歴史の生証人となることができ、吟遊詩人として大変光栄でございます」
随分と大仰な男だ、と4人は思った。
「是非、この感動をベルナルド様、いえ、この国に献上させていただきたいです」
と言い出すとリュートを取り出し歌い始めた。
♪♪
小さな国に伝わりしおとぎ話
祠より顕現せし春光
除幕されしその勇姿
大いなる者の小さな一歩
小さき国の大いなる一歩
立ち会うものは歓喜し
語り継ぐものは耽美する
序幕に過ぎぬこの一詩
行く末は白紙のままで
♪♪
曲の余韻がスーーっと引いてくる頃合いになると、どこからともなくフィドルを取り出して、今度は場を掻き立てるリズムを刻み始めました。
みんな、吟遊詩人の奏でる音楽に乗せて、歌ったり踊ったりして楽しそうに過ごしています。
国王と大臣は、お酒を飲んで眠そうにしています。
ベルナルドは、座ったまま体を揺らしています。
メッテは、家族とにこやかに過ごしています。
そして、ニックとヒッチはそれぞれ女性と踊りを踊っているようです。
国中に、色とりどりな笑顔が咲いています。
ああ、この国でこんな夜を過ごすのは一体いつぶりだろう。
……。
「しかしあの吟遊詩人とやら、よそ者なのにこの国に伝わる伝説を知っているのか。一体何者なんだ?」
……。
こうして、春の宴は終わりを告げます。
これで、序盤は一段落です。
ここまで読んでいただければ、作品の面白さは一通り体験してもらえる想定です。
次回からは中盤に入りますが、新しい展開となります。




