第十一話「セントラルマウンテン」
時は過ぎ、ペシミール国も草木が一番輝く季節となってきました。
今日は、朝早くから3人でお出かけの様子。
「さてと、行きますか」
「ベルナルド殿も準備は大丈夫でしょうか?」
「問題ない」
3人とも、きちんと長袖長ズボンという装いで荷物を背負っています。
どうやら、山へ向かうようです。
ミッドマウンテンの頂上まではいつも通り、2時間弱程度で到着。
そこから、セントラルマウンテンへと向かいます。
ミッドマウンテンを下り、セントラルマウンテンの麓に到着するまでも順調に進むことができます。
問題はここからです。
セントラルマウンテンへと足を踏み入れると、急に雰囲気が変わりました。
「空気が変わったな」
ベルナルドも少し警戒する。
「この空気感、いつ来ても苦手だな」
「事前にお伝えしたように、ここからは別世界だと考えていただいた方が良いです。気を抜かないでください」
3人は慎重に歩みを進める。
辺りは草木が覆い茂っており、素人目にはどこを歩いて良いのか分からない。
ミッドマウンテンとは違い、獣道を探しながら進んでいくような感じとなる。
住人たちも異なるようだ。よく分からない鳥のような鳴き声が聞こえるが、歓迎されていないことはハッキリと理解できる。
空気全体からプレッシャーを感じ、呼吸が重くなる。
そして、深い木々により、地面に届く光量はそう多くない。
ここは、深遠なる自然の世界。
(誰も来たがらないわけだ……)
休憩を挟みつつ頂上を目指すが、途方もなく感じる。
何時間経過しただろうか、3人は、やっと中腹を越えたあたりまで辿り着く。
そこにある、開けた場所に近づくと、ちょとした泉のようなものが見えてきた。
そこは、これまで歩いてきた場所とは異なる落ち着いた空気を発していた。
「ここが例のスポットです」
ベルナルドは、水辺へと近づき水を掬い口元へと運ぶ。
(しょっぱい!)
思わず顔をしかめてしまいます。
「ここが塩泉湖です。塩は国内でも使用していますが、場所のせいもあり大量に取り出して運び出すことが難しいですね」
「ペシミール国での貴重な資源の源泉なので、うまく活用したいところです」
「塩分か……」
「はい、そしてこの近くに岩塩層があります。あそこの洞穴から、少し様子を見ることができますよ」
「岩塩層自体あるにはあるのですが、実際採掘して運び出すことが困難です」
3人は岩塩層へとつながる洞穴を覗いてみる。
ゴツゴツとした硬そうな岩盤層が見える。
緑豊かな地上とは全く別の無骨な空間。
そして、奥の方までは光が差し込んでおらず、よく見えない。
かなり深そうな穴だ。
「岩塩層までは数十メートルといったところでしょうか。奥は結構深いですよ」
「色々と危ないですし、国内だけの消費であれば、そんなに岩塩を掘り出す必要もないです」
「確かに……」
塩泉と岩塩層のある洞穴を見学した後、休憩も兼ねて、暫くその場に留まります。
「国の人間が来るのも大体ここまでですね」
「それでも、危険なため、相当山に慣れた者しか来ません。私なんかはここまで来ないです」
「なるほど……」
セントラルマウンテン中腹より上。
濃く重たい空気。
とても遊びに来るような場所には見えない。
誰も好んで来ようとは思わない。
好んで来るのは、強き獣のみ。
3人は、周囲を警戒しながらも体を休めている。
すると突然、草を分けて大きな影が出現しました。
!!!
ベルナルドより大きな体。
薄汚れた毛並み。
威厳を示す巨大な牙。
そして、興奮を抑えられないような荒い鼻息。
強大なプレッシャーを放つ、神々しいイノシシ。
ニックとヒッチは完全に動きを止めます。
(これが、ここの「ヌシ」か……)
ベルナルドも肌でビリビリとプレッシャーを感じとります。
「絶対に目を逸らしたり、急激に動いたりしないでください」
「慎重に少しずつ下がりましょう」
小動物の気配、虫の羽音、草木の揺れる音すら聞こえない静寂のなか、ジリジリとした緊張感だけが場を支配する。
視線を逸らさず、動きを最小限にし、大きな音を立てずに後退しなければならない。
一呼吸すら神経を使う。
言葉の通じぬ獣への畏怖の現れ。
ジリジリと下がり始める2人。
ヌシは、ベルナルドに焦点を合わせている。
ベルナルドもその視線を受け止める。
2人の間で交わされる無言の会話。
2人だけの空間。
周囲の音も入ってこない。
この空間では、時間の流れも独立している。
どれだけの時間が経過したか分からない、強者同士のコミュニケーション。
……
……
……
ヌシはフイッと視線を逸らし、ベルナルドも後へ下がる。
唐突に訪れる緩和。
何が起きたのかは、他の者には分からない。
ベルナルドの額から、汗が一雫……。
3人は警戒を怠らず、山を下ります。
ここに止まることは大変危険です。
「まさか、この辺りまで徘徊しているとはね」
「ちょっと、いや、かなり珍しいことです」
今回の出来事は完全に想定外のようです。
「しかし、相手が引いてくれて助かった。かなり危ないところでしたよ」
「ベルナルド殿の胆力には、こちらも肝が冷えました」
「今回は運が悪いというか、良いというか」
「ご覧の通り、ここはヌシの縄張りです。我々も下手に踏み込めません。そもそも遭遇してしまうことが命取りになります」
ニックとヒッチはまだ緊張が抜けていません。
警戒しつつも、足早に山を下っていく3人。
……
簡潔に説明すると、このエリアはユニークボスモンスター(名前が赤色表示)が徘徊しており、下手にエンカウントしてしまうと全滅する危険性があるということです。
それに、ヌシは単体で行動しているとは限りません。
人間が全力で戦っても絶対に勝てません。
ペシミール国の兵士全員を率いても、討伐は不可能です。
ここは、流石のベルナルドも迂闊にジョギングコースにするわけにはいきません。
……
その後、3人は無事、城へと戻っていきます。
(ふむ、あの手を使ってみるか……)
♢♢♢
山から戻ると、ベルナルドはすぐに王様に相談に行きました。




