第十二話「あさ、よる」
「おい、聞いたか、あの話?」
「ああ、もう国中その話でもちきりだ」
「王令なんて何年ぶりだ?」
「いや、しかし国王の命令とはいえ無茶苦茶じゃないか?」
「一体何をしようってんだろうねぇ」
何だか国中がざわついています。
王令が出たとのことですが、内容は下記の通りです。
「今週中に国中から麻を集めること。
一糸たりとも隠してはならん。
もし隠すと、大変なことになるぞ。
衣類もできる限り、できるだけで良いから持ってきて。
急にこんなこと言ってごめんね。
ガルド国王より」
「ガルド王も突然すぎるよな」
「急に言われても困るのよね」
「うちだって全然余裕ないわよ」
「でも、ごめんねって言ってるしなぁ」
「っていうか、王令ってこんなのだっけ?こんなのでいいの?」
突然こんなことを言われたので、国中大騒ぎです。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
国民たちはワタワタしています。
でも、王からの命令であるため、何とかしなければいけません。
タンスの引き出しを全て開け、部屋中の荷物をひっくり返し、家全体の埃を集めるかのように大捜索します。
そのため、家の中にいたネズミたちは、全員家から追い出される羽目になりました。
しかし、国民たちの頑張りのおかげで、ペシミール城へどんどん麻が運び込まれていきます。
そんな中、ニックとヒッチは、麻の回収作業を担当しているようです。
「国中の麻を集めて何をしようとしているんだろうね」
ニックは事情を知らないようです。
「せめて、俺たち兵士には事情を教えてくれてもいいよな」
ヒッチも何も知らないようです。
「普通に考えると、ベルナルド殿がヌシを何とかしようとしているんだろうけど……」
ニックは推測します。
「麻を集めたところで、どうにかできるとは到底思えないね」
ヒッチも推測します。
「でも、王令まで発したからには、軽率な判断はできない」
ニックは自分の役割に集中します。
「俺たちは、兵卒としての仕事をこなすだけだな」
ヒッチは自分の役割に集中します。
♢♢♢
国中から麻が運びこまれた城内では、城中の者たちが忙しそうにしています。
あくせく、あくせく、あくせく。
兵士からメイドまで、城内はバタバタしています。
キパールも城内を走り回っています。
兵士たちが麻を運び入れ、メイドたちがそれを撚り合わせて縄を編んでいきます。
どんどん麻が運び込まれるため、どんどん作業をしなければ間に合いません。
女性だけでなく、当然男性陣も作業を手伝います。
「しかし、国中の麻で縄を作って何をしようとしているのかしら?」
「さあねぇ、俺たちは何も知らされてないからなぁ」
「ガルド国王って、いつもこうなんだから」
「あの方、サプライズ好きだもん」
「国民としては、そういうところが一番困るんだけど……」
「そういうのは身内でやってほしいよね。……あっ、私たちも身内ってこと?何か複雑な気持ち……」
「でも、ベルナルド様がこの縄をミッドマウンテンに運んでいるらしいぞ」
「ふーん、何をしようとしているのかしら?」
「俺の予想だと、セントラルマウンテンのヌシを捕獲しようとしているんだと思うね」
「あのヌシを?流石に無理じゃない?」
「いや、ベルナルド様ならできるんじゃないかな?分からないけど」
みんな、理由が分からないながらも、朝から晩まで頑張って作業を続けています。
そんな中、従者のマリアとメイド長のモーラは麻縄を編む担当のようです。
2人とも、テキパキと作業を進めています。
「よりにもよって、私たちが麻をヨリヨリしないといけないなんてねぇ」
「もう、夜ですね」
「朝は何をしていたんでしたっけ?」
「朝も麻をヨリヨリしていましたね」
「朝からヨリヨリ、夜までヨリヨリ、年寄りには辛いねぇ」
「朝から夜まで麻を撚るなんて、思いもよりませんでした」
どうやら、お喋りをしていた方が仕事が捗るようですね。
♢♢♢
その頃、ベルナルドはというと、城内で作られた縄を順番にミッドマウンテンへと運び入れています。
エッホ、エッホ、エッホ。
ベルナルドはドタドタドタと、慌ただしく縄を運んで行きます。
もちろん、縄は全て一本で繋がっている訳ではありません。
ある程度の長さで分割されているものを運んで、それを後から繋いでいく想定です。
山道を何往復もすることは、普通の人には大変な苦行ですが、ベルナルドにとっては良いトレーニングとなっているようです。
その様子を見てみると、大変生き生きとしています。
……
ベルナルドは走り、ベルナルドは運ぶ
草を分け、道を進む
山を登り、山を下る
人生は上り、人生は下る
国は翳り、国はどうなる
……
そんな日が何日か続いた後……。
ついにベルナルドは、麻で依られた縄を、セントラルマウンテンの麓あたりまで運ぶことができました。
しかしよく見てみると、山の麓まで運びこんだのは、どうも縄だけではないようです……。




