↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/20

第五話「里の幸、山の幸、その先」

「素晴らしい!」


メッテの肩を掴んだまま、もう一度同じセリフを繰り返す。


メッテは、思わず手を払い、後ずさる。


そんなことをされるのは生まれて初めてであったため、大いに戸惑った。

(一体何なんだ、この人は?)


「良ければ、その保存食を見せてはもらえないだろうか?」

食い気味に質問される。


「ええ……、いいですけど」

お目当ては保存食だと、改めて認識し安心する。


外にある木造の乾燥貯蔵庫へ案内し、中身についてざっと解説を済ませる。


「うちの貯蔵庫は2つです。この木造の乾燥貯蔵庫とは別に半地下の芋蔵があります。こっちには、ライ麦や豆類などをメインに、チーズや塩漬肉と燻製肉などを少々置いています。その他、食用のものだけでなく、種籾や種豆なども保管してあります」


「これらの食料はどのくらい保つのだろうか?」

「うちは毎年収穫までは保ってはいますが、そんなに余裕があるわけではありません。農作物としては、これからの方が食料事情は厳しくなります。特に芋など、痛み始める食材から優先して食べていくことになります」


流石のベルナルドも、貧しい農家の貴重な食料を分けてもらう訳にはいかず、少ししょんぼり。

でも、すぐに気持ちを切り替え、食料問題の解決策を考えようとします。

流石はベルナルド。


「この品種の生育環境は?収穫量は?収穫サイクルは?保存期間は?」


次々と質問が繰り出され、どんどん答えていく。

このようなやり取りが何度か繰り返され、もう十分だろうと思った辺りで落ち着く。


「休耕地がもったいないのだが……」

「そうなんですよね……」

先ほどまで、もの欲しそうに見えていたのは気のせいだったかもしれない。

と、メッテは思った。


「ネックは土地の栄養か……」

「家畜は山で食事をした後、農地で糞を回収します。それに藁・枯草などを混ぜて発酵させたものを肥料として使用していますし、人糞も活用しています。やることはやっているのですが……。」

(こちらとしても、できることなら畑をフル回転させたい)


困ったなぁ、困ったなぁ。ベルナルドの筋肉たちも困り果てている様子です。

このままでは、自慢の筋肉たちが大変なことになってしまうかもしれません。

がんばれ、ベルナルド!


「ふむ、ありがとう」

「いえ、お役に立てず申し訳ございません」

ようやく、お役御免となりそうだ。


「急なところ押しかけてしまい申し訳ない。丁寧なおもてなしと案内、感謝する」

「ありがとう、メッテ。助かったよ」

「じゃあな」

そういうと、勇者様御一行は窮屈で退屈な我が家から去って行った。


「勇者様がこの国の問題を解決してくれるといいねぇ」

母は大きな期待を込めて呟いた。

「そうね」

あの人は、単に食いしん坊なのかもしれない。だって、あんなに大きな体をしているもの。

と思いながらメッテは呟いた。


さて、次に勇者一行が向かうのは、牧場、ではなく裏山。

城から見て、左からレフティマウンテン、ミッドマウンテン、ライティマウンテン。

とりあえず重要なのは、真ん中のミッドマウンテンであり、他はそこまで重要ではなくそこそこという話だった。

そういうわけで、ミッドマウンテンへと向かう。


畜産業については、ミッドマウンテンを目指す道中に、ニックの分かりやすい解説を聞いて済ますことにした。

ニックの解説は分かりやすいからね。


「畜産についてですが、まず動物については、数が多い順に鶏、羊、山羊、牛、豚、馬となります。殆どが、国内の食料関係での消費になりますが、数少ないこの国の交易品として、繊維があります。羊毛から取れるものを加工して買い取ってもらっていて、この国にとっても貴重な収入源となっています」

ニックは何だか嬉しそうな様子で解説する。

「肉をもっと食えると良いんですけどね」

ヒッチは何も解説しない。

「肉は重要だ」

ベルナルドはヒッチに同意する。


「肉についてですが、冬を前に、老いた個体、成長の悪い個体、余剰個体など越冬を考慮して屠殺したものが殆どです。数的にも羊が一番多いですね。そして、それらの殆どを保存食として加工します」

ニックが追加で説明する。

「もちろん、山で取れた獲物は別口です」

ヒッチが追加で口を挟む。

「なるほど」

ベルナルドは、今朝食べた肉の味が、元の世界のそれとは全くの別物だった理由について納得した。


そうして、一行が肉のことを考えているうちに山の麓に到着しました。

標高500mの麓に。


「さて、ここからは俺の出番だな」

「頼むよ、ヒッチ」

選手交代しながら、ヒョイヒョイと山へ入っていく2人、その後をスッスッとついて行くベルナルド。


「このミッドマウンテンの標高は1200m。大して高い山じゃないですが、冬場だと雪はそれなりに積もりますね」

「まず、ここら辺には木の実なんかがついたりしますが、人間には食べられないものもありますし、量も少ないです。家畜や子供の遊び場といったところです。実がついていれば分かりやすいんですが、葉っぱだけ見ても素人には区別がつかないでしょう」

「タイミングは良くないですが、ここら辺は雪がそんなにないだけまだマシですね」

ヒッチが生き生きと説明し始めた。

まるで別人のようだ。


道はそれなりに人が歩きやすいようになっている。

獣道ではない。

しかし、もちろん階段や手摺は用意されていない。

必要最小限の手入れはされている感じ。


人工物の一切ない山の中に入り込むと、普段とは別世界に迷い込んだようにも感じます。


周りを見ても、植物たちはまだ目が覚めて間もない様子。

目覚まし時計が鳴ったばかり。

山に入り、はじめましてと自己紹介をする。

山を登り、おはようと挨拶をかわす。

彼らが起き上がって来るまであと少し。


「タイミング的には良かったようだな」

ベルナルドは独りで納得した。


「えっ、何か言いましたか?」

「いや、独り言だ」


ひとまずの解説を終えた後、3人は粛々と山を登っていく。

やはり、ヒッチは山に慣れているようで、進むペースは早めだ。

ニックも遅れをとることなく後に続いているが、ヒッチほどの軽快さは感じられない。

ベルナルドは2人の後をついていきながら、思案する。

(ここはジョギングコースにちょうど良いかもしれない)


3人がようやく頂上に着いた時には、昼食時はとっくに過ぎていた。

ここで遅い昼食をとる。

食べるのは、ニックとヒッチが持ってきていた携帯食。

しかし、お腹は空き過ぎていたし、景色は良いし空気も美味しいので、質素な携帯食でも彩りは十分だった。


食後の景色と空気を堪能した後で、ヒッチは山の解説を再開した。


「城のちょうど反対側に見えるのが、セントラルマウンテン。ここより標高が高いです。あの山はここより資源が豊富ですが、ここからでも3時間はかかるので、今日行くのは無理ですね。もし朝から出発しても日帰りなら、まず山頂までは行けません。あの山にも色々あるので、案内するのであれば、またの機会になります」


(セントラルマウンテンか、気になるな)

ベルナルド・センサーが反応を示したようです。


ヒッチは再び先導しながら、別ルートでの下山を開始しました。


「今更ですが、その格好でよく寒くないですね」

「今回は我々も勢いで来てしまいましたが、山登りの際に軽装は絶対に避けた方が良いです。暖かくなってきてからも危険が増えたりしますので」

「気をつけよう。忠告感謝する」


下山中に、ベルナルドは2人から注意されました。

山登りは危険がいっぱいだからね。


サクッサクッ。


山を降りている途中、少し離れたところで何かが動く気配がしました。

3人が一斉に視線を向けた先にいたのは、雪の上を散歩している兎でした。


「兎か、惜しいな。今日は装備を持ってきてない。ちゃんと準備ができていれば、いい土産になったんですがね」

「今の時期だと、兎なんかはチラホラと見かける程度でしょうか。これから徐々に賑やかになっていきますよ」

「ふむ」

3人とも残念そうに兎をチラ見する。

(全く土地勘がないところで、足場の悪い場所に残雪か……。今日のところは、挨拶だけとさせてもらおう)

何かを感じ取ったのか、兎は素早く視界から去って行きました。


ヒッチによる山登りツアーが終了したのは、15時過ぎといったところ。

もう夕方が開始していました。

今の時期だと、日の入りが早いようです。


こうして、ベルナルドによるはじめての視察は終了を迎えました。

残念ながら、プロテインサーチの結果として、プロテインそのものの獲得には至りませんでしたが、初日に得られる情報としては十分な収穫です。

今回の情報を元に、ベルナルドは計画を練ることにしました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。