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第四話「農家の一人娘」

メッテは、農家の一人娘だった。


髪の毛は母親譲りのツヤのある赤毛。

顔立ちは至って普通で、鼻を中心としてそばかすがある。

体型は昔からぽっちゃりしているのだが、それは太りやすい体質をしていたためだった。

普段から保存食を多めに摂取していたが、全く食べ過ぎと言うほどではなかった。

食事量は普通程度でも、自然とぽっちゃりしてしまう。

そのため、痩せ型の者が多いこの国では、少し浮いた存在だった。


似たような体型の母からは、農家向きの体型で良かったじゃないか、と言われた。

彼女自身は、物心がついた時から実家の農作業に専念しているため、あまり深くは気にせず気楽に過ごしていた。


メッテは畑仕事が大好きだった。

小さい頃から好奇心が旺盛で、何でも質問して両親を困らせていた。

少し大きくなると、周囲の大人も困らせた。

その後は、自分で本を読んだり試したりするようになっていき、仕事に関する知識はこの国一番と言えるほどのものとなった。


この国の畑全体は、彼女にとっては庭同然である。


メッテは、後継ぎとしての資質は既に十二分に備えていた。


しかし、両親にとっての唯一の心配事は、やはり娘の結婚相手の問題だった。

そのことは本人も十分理解していたが、今は恋愛には全く興味がもてなかった。

目下のところ、仕事の合間に、国内の蔵書を読み漁ることに情熱を注いでいるような状態である。


メッテは、今日も自室で本と向き合っている。

今は冬も明けたばかりで、農家としてはまだのんびり過ごしていた。

(さすがに、そろそろ新しい本が欲しいところね……)


コンコンッ!


玄関を叩く音が外から聞こえる。

(こんな時期に来訪者?一体誰だろう?)


最初に母親が対応したが、父を呼ぶ。

呼ばれた父が困惑し、私が呼ばれる。

一体どうしたというのだろう?


部屋を出るとニックとヒッチの姿が目に入った。

お馴染みの2人。

子供の頃は一緒に遊んだりもした。

今でも時々顔を合わせることがある。

この国は狭い。

狭すぎる。

この国の人に顔を合わせると、いつもそう思ってしまう。


(この時期は城の手伝いをしているんだっけ)

などと考えている場合ではなかった。


2人の後ろには見慣れない何かがいた。

(何?いや、誰?)

と思いながら、両親の説明を聞く。


「勇者様!?」

「しっ!声が大きい」

咄嗟に口を手で覆う。


おとぎ話に出てくる伝説の勇者様が、突然農家をお忍びで訪問すれば、この国の者であれば皆驚くか卒倒するかしてしまうだろう。

無反応を示すのは、ヤギか石ころくらいしか考えられない。

いや、伝説の勇者様ともなれば、ヤギの群れでさえ無言で跪き、石ころも道を譲るようなことがあっても不思議ではない。

何せ、伝説的存在なのだから。


しかし、後ろの人物は何だ?

巨躯。というだけではない。

筋肉質ではあるが、他の者と比較するとふた周り以上は大きく、本で見た彫像の絵のようなスマートなものではなかった。

そして、見たこともない奇妙な装いが、異様な雰囲気に拍車をかけていた。

明らかにこの国の者ではない。

だけど、この人物が伝説の勇者様だとは到底思えなかった。

(思っていたのと全然違う……)


我に返って、聞いた話を整理する。


昨日未明、唐突に勇者出現。

国王たちビックリ、2度ビックリ。

とりあえず、賓客として丁重に扱う。

朝食の後、勇者様が唐突に国を視察したいと言い出す。(2回目の唐突)

とりあえず、勇者様が突然現れても発狂しなさそうなウチにくる。(とりあえず2回目)


(分からないわ……)


伝説の勇者の視察というイベントに対し、無難にお茶でも出すべきなのか、踊りでも踊って歓迎すべきなのか。非現実には非現実をぶつける方が何となく良さそうな気もしたが、家には勇者相当の非現実的存在がないため、カードを切れない。


こんなことが起これば、本の中に出てくる名探偵でさえも問題解決できないだろう。

いや、割と普通にノリノリで首を突っ込んできそうな気がしないでもないかも。


とりあえず、1人だけ部屋に籠っている訳にもいかず、一家総出で応対する。

3人の珍客には窮屈そうに居間のテーブルに向かい合ってもらっているが、越冬したばかりの貧乏農家が緊急で対応できるだけのもてなしを頑張る。

超頑張る。


暫くして、皆が一旦気を取り直したところで、咳払いと共に依頼人が要件を切り出す。


「この国の農業関連の知識に関しては、メッテが一番詳しいといっても過言ではないだろう。是非、ベルナルド殿に現状を解説してほしい」

相変わらずのニック。

「博識なメッテなら朝飯前だろう?」

相変わらずのヒッチ。


母は、期待に輝いた眼差しで娘を促す。

父は、普段と変わらず無言で娘を促す。


(ふぅ)

国内の農業の解説をすれば良いだけ、という簡単な依頼に安堵したメッテは、自分が今なすべき役割に集中する。


メッテは少し早口で解説する。


「この国の耕地全体は約1400ha。農作物のおおよその割合としては、芋・根菜類が20%、ライ麦・大麦・燕麦が40%、豆・エンドウ15%、麻・真麻少々、休耕地20%となっているため、芋類、ライ麦、大麦、燕麦、豆類などが主食です。また、豆->ライ麦->芋・根菜->ライ麦・燕麦->休耕の輪作で回していますが、当然全ての畑で一様に同じものを育てているわけではありません。そして、農作物それぞれで収穫サイクル、収穫時期、保存期間などが異なるため、季節により食べられるものも異なってきます」


「今の時期はまだ農作業を開始していませんので、保存食で食い繋いでいる期間になります」


農作業はこれからという話を聞き、ベルナルドはほっとした。


「ちなみにだが、この家には、その保存食というのは残っていたりするのだろうか?」

「ええ、まだそれなりにありますよ」


ベルナルドは、スッと移動し、メッテの肩を揺すって感動を伝達する。


「素晴らしい!」

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