第三話「視察」
翌日、案内された客室で目が覚めた。
部屋は、王城の客室にしては質素だが、装飾品などは少し置いてある。
全体の色合いとしては落ち着いた印象で、派手さはない。
ゴシックスタイルにベースカラーが足されているような感じだろうか。
イギリス映画などで見たことがあるような派手なものではない。
しかし、小国としては十分なものなのだろう。
少なくとも、彼が日本で借りていた賃貸物件が小屋と思えるほどの広さがあった。
窓を開け、新鮮な空気を取り込みながら、ゆっくりと脳を起こす。
昨日の段階で最初の目的が明確になったベルナルドは、早速プロテイン収集、いや、情報収集のために国を見て回ることにしていた。
(権限を持っていそうな者に許可をとっておこう。)
「おはよう!」
「おはようございます。ベルナルド様」
昨日、城内の者たちには、名前で呼んでもらうよう念を押していた。
部屋の外にいたのは、マリア。ベルナルドのお世話係を拝命した従者だ。
この城で働いて8年は経つので、賓客の世話をするにも腕が立つ。
彼女は、相手がやりたい事を察知し、先回りして動くことを得意としていた。
そのため、怪しい動きをしていればすぐに報告するという役割も担っている。
優れた観察眼の持ち主だが、その観察眼をもってしてもベルナルドの思考は全く推測できないため、少し困惑していた。
(この方は、一体何を考えておいでなのでしょう……)
「朝食の準備ができております」
ひとまず、朝食の会場へと案内される。
朝食の場は、カチャカチャカチャと食器のコンサート会場だった。
厳かな雰囲気。
皆、普段から静かに食事を進めてはいるが、今回のそれは少し異質なもの。
勇者という伝説の存在と一緒に食事をしており、そこには戸惑いや緊張の空気が充満していた。
ベルナルドも、毎回食事の時は集中する。
食事は顎を鍛えるのに最適だった。
強く力を入れすぎてはいけず、噛み合わせがおかしくなってもいけない。
バランスの重要性。
胃腸への負担も考慮。
そのため、集中しながら咀嚼の回数をきちんとカウントする必要があったのだ。
食事も体作りの内。
彼にとっては、食事もトレーニングの一環だった。
しかし今回はそれだけでなく、食事を進める中で、不安が胃袋より大きく膨らんできていた。
朝食のメニューは、ゆで卵、豆が入ったスープ、蒸した芋、固いパン、肉少々……。
(やはり、足りないな)
異世界人同士の無言の朝食会が終わった後、大臣へ声をかけるベルナルド。
「唐突で申し訳ないが、一度この国を見て回りたいので、許可をいただきたい。よろしいかな?」
神経質そうな老人は驚いた。
「早速、この国を視察されたいと……。こちらからお願い申し上げようと考えておりました。しかし、この国にきたばかりですし、そんなに急がなくとも良いかと……」
「いや、早めに済ませておきたいと思ってな」
「流石はベルナルド殿!気概が違いますな。すぐに手配いたします!」
とうの昔に気力を失った老人の心にも、期待の灯火が宿る。
食後の休息の後、ニックとヒッチ、2人の兵士と共に城を出る。
ニックとヒッチは2人とも平民の出身で、幼い頃より国中を駆け回っており、国内を案内をするには最適な人材だった。
しかし兵士とはいっても、人手不足でレンタルされているようなものであり、今でも家業を手伝っている。
外へ出て町を見てみると、この国がどのような状態なのか、ベルナルド・ボディは瞬時に悟った。
城下には町が広がっておりそれなりに人の往来があるのだが、色々とおかしい。
色彩が足りない、と網膜が感じた。
活気がない、と肌が感じとった。
筋肉の総量が少ないよぉ、と筋肉が囁いた。
プロテイン要素が見当たらない、とブレインが察知した。
「これは、いけない……」
全ての情報が凝縮された一言。
ぞわっ!
「流石はベルナルド殿、一目見ただけで国内の状況が分かってしまうのですね!」
伝説の勇者の見識眼を目の当たりにしたニックは驚嘆した。
「これじゃあ、俺たちの出番はなさそうだな」
ヒッチは、鳥肌を摩りながら軽口を叩く。
「歩きながらでいい、この国の情報を教えて欲しい」
「はい。標高約500mに位置するこの国の人口は約3000、おおよそ2/3の者は農業や畜産業や林業を営んでいますが、現在、鉱業はほぼ廃業状態です。城下町で店を営んでいるのは200~300人程度でしょうか。皆んな色々助け合っていますが、いつもギリギリといった感じで余裕なんてありません。幸い、穏やかな性格の者が殆どなので、治安が良いのが自慢です」
ニックは整然と解説する。
「周囲を山に囲まれてるんで、山から獲れるものがメインですね。シーズン中は、うちの親は毎日山に入ってますよ」
ヒッチは、まだ腕を摩っている。
「この国は、山の恵で成り立っているといっても過言ではありません。山菜、動物、木材、鉱物などは山から収穫しています。農作物は畑で作っていますが、そんなに実りがよくありません。そのため、畜産業もそれなりの規模でしかやっていないという状況です」
ニックの解説は分かりやすい。
「この通りを出たら、後は畑が広がっているだけですよ」
ヒッチは、もう腕を摩っていない。
ベルナルドは、町を歩きながら周囲を観察する。
通行人の衣服は全部ヨレヨレだったりボロボロ。ずっと同じものを着ているのだろう。
建物もよく見ると、つぎはぎのように修繕された跡が多い。
道も雑草たちが自由に過ごしており、とても整備されているようには見えない。
人々の顔に笑顔があっても、どことなく元気がない。
プロテイン要素、いや、ポジティブ要素が見当たらなかった。
短い繁華街を早々に通り過ぎ、3人は一面畑の世界へと出る。
そこへ広がっていたのは、所々霜が降りている、うっすらと茶色がかった地味なキャンパス。
腰を屈めながら歩いていても、落穂も拾えなさそうなリアリズム。
当然、種をまく人も見当たらなかった。
「こんな感じなのか」
「こんな感じですね」
「ですね」
プロテインサーチの出だしから、ベルナルドは大変困ってしまいました。
「圧倒的プロテイン不足!」
ニックとヒッチの登場です。
この二人は、ポポロクロイス物語のドンとゴンを思い浮かべて書きました。
ポポロクロイス物語は名作ですね。
今の時代でも、もう一度体験したいあの物語!




