第十六話「盗賊狩り」
ペシミール国の兵士たちが進軍を開始したのは陽が沈んでから。
開けた場所を移動する際は、何人かで固まり、布で灯を隠しながら歩みを進めます。
部隊の案内役として斥候が先頭に立ちますが、目標地点へはヘンゼルとグレーテルのように目印となるものを残してきているため、その目印を追っていきます。
進軍時は、先頭を斥候2名が担当し、その後ろを兵士たち5~6名*7のユニットで構成されていますが、ベルナルド&ニック&ヒッチは、真ん中より後あたりの立ち位置となります。
「こんな夜中に、いや、ペシミール軍が正式に動くこと自体何年ぶりだろう?」
「まさか、夜間に出撃することになるとはね」
ニックもヒッチも意外です。
「しかしまさか、我々の慎ましい資源を盗賊が標的にしてくるなんて……」
「こんな小国だからといって、舐められたもんだな」
ニックもヒッチも心外です。
「ベルナルド殿は疲れていませんか?」
「日中体を動かしていると、夜は休みたいんじゃないですか?」
ニックもヒッチも心配しています。
「いや、問題ない……」
ベルナルドは例外です。
「僕は、こういう風に夜中に出歩くのは、昔からあまり好きじゃないな」
「俺は、こういう風に正式な作戦として行動するのは、未だに好きになれないね」
ニックもヒッチも、こういうのは苦手なようです。
(真夜中の遠足は初めてだ……ワクワク)
ベルナルドは、遠足気分を楽しんでいるようです。
……
盗賊の動きが確認できるくらいの場所で、一旦進軍を止め待機します。
明かりは灯っていないため、殆ど目視では状況確認不可能。
場所自体は把握できているため、部隊を複数に分割させ、退路を断つようできる限り包囲できるように展開。
ここで休息しつつ、タイミングまで待つことになります……。
♢♢♢
さて、夜明けが近いてきた頃……。
ここからは、襲撃モードに部隊を組み替えます。
部隊は大きく分けて2部隊でそれぞれ20名ずつ、突撃部隊とサポート部隊で役割が分かれています。
突撃部隊の多くは、普段訓練場にたむろしている者たちで構成されており、ボルドーが突撃部隊の指揮をとります。
そして、上記とは別で、ベルナルド&ニック&ヒッチは遊撃隊として行動することになります。
襲撃時に一気に包囲網を狭めていきます。
ザザザッ。
ドタドタドタ!
ガッ!
「な、なんだ!?」
「て、敵しゅぅー!!……ぐっ」
「きゃっ!」
夜明け前。
ペシミール国の部隊による突撃。
盗賊の一味は、完全に油断をしていた。
虚を突かれた集団は次々と取り押さえられる。
1人、2人と身柄を抑えられていく。
「ペシミール国軍だ、大人しくしろ!」
「観念しろよ、盗賊共!」
盗賊団は取り押さえられていく。
ササッ!
周囲を喧騒に包囲されつつある中、うまく闇を纏った男が、なんとかこの場を切り抜けようと模索している。
ボサボサの黒髪に無精髭、他人に対する敵対感を露わにした目つき、体格は大きな方ではないが、動きは軽やかだ。
着ているものは上下長袖だが動き易さを考慮しており、薄汚れてはいるが他の者よりは明らかに良い布地のものである。
「くそっ、捕まってたまるか!」
身軽な男は、闇に紛れながら最適な脱出ルートを探しつつ草を掻き分けていく。
ザザザッ!
「!?」
「お前が賊の頭だな」
男の前に立ちはだかったのは、ボルドー。
彼は、頭を抑えることを目的に行動していた。
他に兵士を2人連れている。
そして、体格はボルドーの方が大きい。
「観念しろ、もう逃げられんぞ」
「ちっ!」
足場の悪い中、互いに間合いを測る。
ボルドーは剣を片手に相手に間合いを詰めていき、2人の兵士は左右からにじり寄っていく。
頭領は後に下がらざるを得ない。
「はっ!」
間合いに入った途端、ボルドーが切り掛かる。
ひらりっ。
頭領は右に体を躱して、相手を突き飛ばす。
ドンッ!
「くっ!」
そのまま走り抜けようとする頭領を、右側にいた兵士が止めようとする。
「うぉぉ!」
「ふんっ」
ゲシッ!
兵士の攻撃もさらりと躱し、兵士を後ろに蹴り飛ばす。
「うわっっ!」
蹴り飛ばされた兵士は、後から追ってきていたもう一人の兵士にぶつかった。
「お前らみたいな鈍臭い奴らに捕まるかよっ!」
サササッ!
頭領は、ボルドーによる包囲網を難なく突破した。
暗闇の中、山の中をジグザグに走り抜ける。
段々と喧騒が後に遠ざかってゆく。
徐々に自由が広がってゆく。
ここを抜ければ、俺を捕まえる者はもういない。
山を駆けながら、そう思った時……。
ヌンッ!
!?
唐突に出現した大きな影。
(熊……?いや人か。民間人なはずがないが、包囲網からは距離があるぞ……)
突然のことに戸惑いながらも、気を取り直し、間合いを取りつつ周囲を警戒する。
(周囲に人の気配はない。単独行動?まさか……走って先回りしてきたとか言わねえよな?)
ゴゴゴゴゴゴ……
いかに大男であろうと、通常であれば華麗に切り抜けられるところ。
しかし、異様なプレッシャーは、これまでの経験では類がなく、感覚的にも非常に困難な壁が立ちはだかっているように感じられた。
(一体何なんだ、こいつは……)
双方自分からは仕掛けないが、頭領の方は不安と焦りが急速に攪拌されてきた。
(くそっ!)
ザッ、ザザッ、ザザザザッ!!!
自分から動くしかない頭領。まずはフェイントを交えながら左右にステップを踏むが、ベルナルドは腰を落としたサイドステップで難なくついてくる。
(でかい図体してる割に身軽かよっ!仕方ねえっ……)
頭領は、腰からナイフを取り出し左手で構える。
ヒュンッ、ヒュヒュンッ!
今度は、前後の動きも交えてナイフを振っていく、がベルナルドには当たらない。
今度は深めに踏み込んでナイフを突く。それも、ベルナルドは右に身を躱す。
ヒュッ!
からのナイフを左に振る。これはベルナルドの肌を掠める。
(今だ!)
その勢いのまま、頭領は右前方へと加速する。
ダッ!
(このまま一気に駆け抜ける!)
そう考え、少し斜面を上がった矢先……。
ガッ!
(はっ?)
足首を掴まれた感覚。
その瞬間、足枷を嵌められたかのように感じた。
そして、有無を言わさず引っ張られてゆく。
(おいおいおい、マジかよっ!!)
頭領は足首を持たれたまま、あっという間に逆さ吊りにされてしまった。
(ふざけんなっ!)
ブンッ!
頭領は逆さ吊りのまま、ナイフを大きく振る。
ベシッ!
ベルナルドは、片足だけ素早く動かして、相手のナイフを蹴り飛ばす。
これで頭領は、文字通り手も足も出なくなってしまった。
「くそっ、離しやがれ!!」
ジタバタジタバタ。
頭領は逆さ吊りのまま暴れるが、これ以上は状況が変化することはなかった。
ジーーーーーーーーー……
ベルナルドは、相手のふくらはぎをマジマジと見つめている。
「はぁはぁ……やっと……追いつきました。はぁはぁ……」
「ぜぇぜぇ……全く、急に走り出したと思ったらこんなところに……ぜぇぜぇ」
ちょうど良いタイミングで、ニックとヒッチが到着しました。
「「ところで一体、それは何なんです?」」
「活きが良い獲物だ!(ドン!」
こうして盗賊団は、ペシミール国の兵士たちとベルナルドの活躍により一網打尽となりました。




