第十四話「おいしい話、不穏な話」
前回、ベルナルドの活躍により、セントラルマウンテンから岩塩を運び出すフローが完成されました。
しかし、だからと言って、無限に塩を採取できるわけでも、すぐに国が大金持ちになるわけでもありません。
岩塩の採掘作業は多くても、週2~3日程度で、作業の際は、毎回ヌシにお酒を献上する必要があります。そのため、収入や酒の入荷が安定するまでは、作業回数は限定的となってしまいます。それに、山のヌシがアルコール中毒になってはいけませんからね。
セントラルマウンテンの岩塩坑から採掘された岩塩は、純度の高いもので、そのまま出荷して高値で取引できるものでした。しかし、国王たちはこれをそのまま取引に出すことはせず、わざわざ水に溶かし、塩水を煮詰めて再結晶化したものを市場に出すことを選択しました。
この点について、ベルナルドはWhy?となりました。
Why, King?
「なぜ、岩塩をそのまま売らないのだろうか?」
ベルナルドはガルド国王へ疑問を投げかける。
「ベルナルド殿のご意見もごもっともです。利益と手間を考えれば、純度の高い岩塩をそのまま市場に出すことが最適でしょう。しかしそうすると、岩塩の出所が我が国であることが、すぐに知れ渡ってしまいます。そうなった場合、中流国家だけでなく上流国家にまで目をつけられてしまうかもしれません。そうなると、このような小国では対処することができず、現在の慎ましい平和ですら維持することができなくなってしまうでしょう」
「そういうことか……」
「目先の利益に目が眩むと、大切なものを失ってしまうことになりかねないのです」
国王の意見も、ごもっともですね。
♢♢♢
ニックとヒッチも、岩塩の採掘フローを手伝っているようです。
担当するパートは固定ではないようですが、今はミッドマウンテンから城へ岩塩を運んでいます。
「しかし、やはりベルナルド殿はすごいね。今度はヌシを手懐けて岩塩採掘に着手できるようにするなんて」
ニックは、ベルナルドに感心しています。
「ああ、あのヌシ相手にうまく手綱を握るなんて、俺には絶対にできないね」
ヒッチも、ベルナルドに大変感心しています。
「十分な塩が得られるとなると、ペシミールの懐具合も改善しそうだ」
ニックは、ペシミールの財政に関心を示しています。
「十分な塩が得られるとなると、塩漬け肉の供給も改善しそうだ。肉には下味がついているのといないのとでは、段違いだからな。塩漬けの肉がたくさん食えるようになるといいな」
ヒッチは、自分の胃袋に関心を示しています。
「なんとか、うまくいくといいね」
「なんとか、うまくいくといいな」
2人とも、ビジネスがうまくゆくことを願っています。
♢♢♢
さて、以前、ハブ町に行った時に聞いたマルティンの話では、香辛料は高値で取引されているとのことでした。そのため一度、キパールがある程度の抽出した塩を持っていき、商談を行うことにしました。本格的なビジネスが開始するのは、その後になります。
「よし、初回はこれくらいあれば十分だろう。それじゃあ、そろそろ出発します」
「この国の未来がかかっていますので、頼みますね」
大きな期待を寄せたモーラに見送られたキパールは、大いなる国の期待を積んだ馬車を走らせます。
♢♢♢
「おや、キパールじゃないか。ついこの前来たばかりだと思ったが、今日はどうしたんだい?」
「こんにちは、マルティンさん。今日はちょっと、いやとてもおいしい話を持ってきました」
キパールは、マルティンの店を訪ね、商談を開始します。
「お前さんの方から、そういう話を聞けるなんてね。空から酒でも降るんじゃないか?」
マルティンはキパールをからかいます。
「いやいや、マルティンさん。うまくいけば、酒だけじゃなくイノシシも降らせることもできるかもしれませんよ」キパールは、マルティンの冗談に乗ります。
キパールの目が冗談を言っていないため、マルティンは身を乗り出します。
「その話、詳しく聞かせてもらおうじゃないか」
マルティンが商談モードに入ったため、キパールは袋から塩の一部を取り出します。
「!?塩じゃないか!ペシミールに塩があるなんて初めて聞いたぞ。山中で見つけたのか?」
どうやら、ペシミール国内に岩塩層が存在することは、外部には秘密だったようです。
「ええ、そうですとも。これから、ペシミールでは本格的に塩の採取に乗り出すことを考えています」
「素晴らしい、素晴らしいじゃないか!!今はどこも香辛料を欲しがっている。これは大仕事になるぞ」
マルティンの商人魂に火がついたようです。
「どれくらいの採取量が見込めるんだ?それに、今日はどれくらい持ってきてる?」
「まあまあ、落ち着いてください。全く慌てる必要なんてありませんよ。塩は走って逃げたりしませんからね。今日は、商談用の分を数袋程度持ってきた程度ですよ」
「全く、なんで君の方がそんなに落ち着いているのか、不思議だな。ペシミールにとっては、金が湧いてきたようなもんだぞ」
「全くその通りですよ、マルティンさん。だからこそ、落ち着いて取引きをしなければいけないんです。焦ってしまうと運気が逃げてしまいますからね」
「君の言う通りだよ、キパール。これじゃあ、私の方が子供みたいだな」
マルティンは、少し冷静になりました。
「やっと落ち着いてくれましたね。とりあえず、今回は持ってきている分と交換で、採取や生成用の道具と酒と麻などをお願いしたいと思います」
「道具だろうが酒だろうが馬だろうが、なんでも持っていってくれ!」
マルティンは、まだ興奮しているようです。
……
この後はさっさと店閉まいをし、2人は塩の取引きに集中することになりました。
……
そして、取引きも一通り終わりに差し掛かった頃……。
商談の最後に、キパールはマルティンから忠告を受けます。
「どうやら、最近この辺に盗賊たちが出たという目撃情報が複数ある。このタイミングだ。お前さんも、十分に気をつけなよ」
嫌な予感がしますね
嫌な予感、略してイヨカン




