↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『聖剣リコール ~その聖剣、次に振れば折れます~』  作者: 心瑛タケハル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/15

第15話 不合格の先に

 防衛戦から数か月後。


 王都の告示板に、一枚の公文書が掲示された。


『製造ロットE-731・全点使用停止および正式回収命令』


 式典で破断した旗艦聖剣の破片、証拠品となったギルバートの聖剣とミラの聖弓、そして大広場で緊急停止された九十七点。


 軍の臨時封印庫で、最後の番号が確認された。


 軍司令部付きの記録官が、回収台帳へ最後の数字を書き入れる。


《製造数――百点》


《所在確認――百点》


《未回収――零》


 ルノアは、その数字を静かに見届けた。


 破損品も含め、すべての武具が処分を保留され、再検査と解体調査の対象として封印された。


 その後に公表された調査報告書により、事件に関わった者たちの責任も明らかになった。


 ゲイツは判定の手動上書きと、再検査申請の不当な却下により、役職と検査資格を剥奪された。防衛戦での全記録開放と協力は考慮されたが、過去の違反とは明確に切り分けて処分が下された。


 短縮工程の採用を決定した王立工房の製造責任者たち、北方詰所の生存者へ虚偽証言を強要した当時の軍関係者も、それぞれ別に処罰を受けた。


 資格を失ったゲイツは、監視官の立ち会いのもとで最後の製造記録を提出した。


 かつてのように武具へ触れることは許されない。


 提示された書類と記録についての質問に答えることだけが、彼に残された役割だった。


 ルノアとアレンの立入禁止区域への侵入や軍令違反についても、正式な審査が行われた。


 違反の事実自体は記録に残されたものの、証拠保全と人命救助、そして王都防衛のために必要な行動だったと認定され、処罰は行わない決定が下された。


 *


 王都北部の丘に建つ慰霊碑。


 ジークの公式記録は、


《盾を捨て、戦線から逃亡》


 から、


《欠陥のある聖盾を最後まで掲げ、部下を守って戦死》


 へ正式に改定されていた。


 元部下の男は、刻み直されたジークの名を見上げ、深く頭を下げた。


「隊長……遅くなりました」


 ルノアは、返還された聖盾の破片を両手で取り出した。


 黒く焼け、歪んだ金属へ、指先でそっと触れる。


「兄さん。あの音は、ちゃんと届いたよ」


 破片を、慰霊碑の台座へ静かに納める。


 風が丘を吹き抜けていく。


 ルノアは元部下と並び、ジークの名へ深く頭を下げた。


 *


 製造部門や軍から独立した機関《独立武具検査院》が設立された。


 臨時封印庫に置かれていたE-731全百点も、正式に検査院へ移管された。


 検査院の壁には、新しい判定規定が掲げられている。


《使用禁止》


《条件付き使用》


《検査合格》


 いかなる判定も、現物の再検査と複数の検査官の承認なしには変更できない。


 審査委員の机の上には、かつてルノアがゲイツへ返した銀の三級検査官胸章と、アレンが石畳へ置いた黄金の勇者章が並べられていた。


 ルノアは返還された古い胸章を受け取り、使い古した検査帳とともに鞄へ収めた。


 続いて審査委員から、独立検査院の新しい胸章が差し出される。


 ルノアはそれを、現場主任検査官の証として胸元へ留めた。


 一方、アレンは差し出された勇者章と、きれいに折り畳まれた純白の外套を受け取らなかった。


「勇者でなくても、守ることはできる」


 アレンは勇者章を机へ残した。


 *


 独立武具検査院の検査室では、朝からいくつもの検査槌が鳴っていた。


 武具を抱えた依頼人が検査台の前に並び、検査官たちが一本ずつ状態を確かめている。


「主任、第三検査台の判定をお願いします!」


「今、行きます!」


 若い検査官に呼ばれ、ルノアは人と武具の間を縫って第三検査台へ向かった。


 台の上には、使い込まれた聖剣が置かれている。


 ルノアは打診記録へ目を通し、自らも鍔元へ検査槌を振り下ろした。


 チィン――。


 一拍遅れて。


 ギィン……。


 ルノアは記録へ、出力と使用回数を書き込んだ。


「《条件付き使用》です。出力二割、連続五秒以内。残り三回」


 若い検査官が黄札へ条件を書き写す。


「持ち主へ直接説明してください。そのうえで、使うか、通常武具へ持ち替えるかを選んでもらいます」


「はい!」


 若い検査官は、検査台の向こうで待つ兵士へ向き直った。


 判定と条件を一つずつ読み上げ、貸し出し用の通常剣も隣へ並べる。


 兵士は二本の剣を見比べ、しばらく考えた。


「今回は通常剣を使う。聖剣は修理へ回してくれ」


「承知しました」


 黄札の聖剣が保管台へ運ばれ、検査合格印のある通常剣が兵士へ渡された。


「主任、第五検査台もお願いします!」


 呼び声に振り返ったルノアの目に、開け放たれた扉の名札が入った。


《現場主任検査官 ルノア・フェルト》


 ルノアは、胸元の新しい章へそっと触れた。


 いつか一人前の検査官になり、自分の検査室を持つ。


 師匠についていけば叶うと信じ、破門された日に失ったと思った夢だった。


 それは今、師匠の背中の先ではなく、ルノア自身の名の下で、いくつもの槌音を響かせている。


「主任?」


 若い検査官が、不思議そうにルノアを見ていた。


 ルノアは胸章から手を離し、検査槌を握り直した。


「今、行きます!」


 小さく笑い、次の検査台へ向かった。


 *


 夕刻。


 最後の依頼人が武具を抱えて帰り、検査官たちも一人ずつ部屋を出ていった。


 重なり合っていた槌音が消え、検査室に静けさが戻る。


 ルノアが最後の台帳を閉じた時、扉を叩く音がした。


 顔を上げる。


 アレンが、新しい鋼の長剣を携えて立っていた。


「ルノア。新しい剣だ。診てくれるか?」


「はい」


 ルノアは長剣を受け取り、木製の検査台へ置いた。


 鍔元を確かめ、刀身に歪みがないかを見て、切っ先へ目を移す。


 腰の検査鞄から、小さな検査槌を引き抜いた。


 息を整え、まっすぐに振り下ろす。


 チィィン――……。


「合格です。今の状態なら、安心して使えます」


「今の状態なら、か」


「使えば状態は変わります。だから、また持ってきてください」


「ああ。また来る」


 昼間の槌音が消えた検査室に、澄んだ一音だけが長く残っていた。


(完結)

最後まで『聖剣リコール』をお読みいただき、本当にありがとうございました!


アレン「これで、すべて終わったな」


ルノア「いいえ。まだ大切なことが残っています」


アレン「大切なこと?」


ルノア「私たちの物語を、最後まで見届けてくださった皆さんへお礼を伝えることです」


ルノア「ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました」


アレン「この物語が少しでも心に残ったなら、いいねやブックマークで応援してもらえると嬉しい」


ルノア「作者ページには、ほかにも物語があります」


アレン「気になる作品があれば、そちらも覗いてみてくれ」


皆さまの応援が、次の物語を書く大きな力になります。


ほかにも完結作品や連載作品がありますので、気になるものがありましたら、ぜひ作者ページから読んでみてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。