052⚫️’ポークチャップとクリームコロッケ定食’
’セブル’。政令指定都市の東端の区の片隅。
幹線道路の脇にある、カウンター10席だけの小さな店だ。
彼が初めて’セブル’を訪れたのは、まだ20代の頃。
当時の店は勤務先近くにあり、地方都市としては店構えも立派だった。
トンカツが異常にうまい。しかも安い。
土曜が半日勤務だった時代、同僚とよく通った。
だがある時、店は突然閉店した。
彼も職場の仲間も落胆した。
それから30年以上が経つ。
同じ地域で、同じ店名の看板を見つけた。
おそるおそる入って注文する。・・・うまい! 抜群にうまい!
あの味だ!
やはりあの店の主人だった。
友人の借金の連帯保証人となり、すべてを失ったという。
それでも情熱は冷めず、苦節数十年を経て再開業したのだ。
彼は折に触れて訪れ、時には元気だった妻も同行した。
A定食は白身魚のカツと魚介類。
B定食は白身魚のカツとクリームコロッケ。
C定食はトンカツとクリームコロッケ。
ライス、スープ、スパイシーな野菜サラダつき。
値段は・・・昔とほぼ変わらない。胸が熱くなる。
完全退職を数日後に控えた土曜日。
持病の診察を終え、彼はまた’セブル’へ向かった。
扉をスライドして入る。最後の一席が空いている。ラッキーだ。
厨房には店主と南米出身の妻さん。いつものままだ。
うん?注文を取りに来たのは、若いラテン系の容貌の女の子。
お孫さん?!驚きと嬉しさが胸に広がる。
彼は’ポークチャップとクリームコロッケ定食’にかぶりついた。
うまあい!!
幸せの土曜日である。
(なお、この’セブル’は実在の名店を元にしている。本当の店名は教えない。既に客で一杯であるし、誰かに教えて混み合うと困るのだ。彼はアキラよりダダッ子なのである。あれっ?全て架空のものです、っていってる第1部から12部までの「あとがき」に矛盾するって?信じるか、信じないかはあなた次第です。ひとそれぞれだからね。)




