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死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


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99/100

十四、ひとりだけ、違う世界を生きている 8、



「アーサーズ公爵領で、事件が起こる、か。それももう、アイリーンが回避してくれているのにね」

 アイリーンの隣でブラッドフォードが呟く、その声も聞こえづらいほど、ベティ・コーツは、大声で訴え続ける。

「ブラッドフォード!協力は必要なの!ドレスが必要なんだって、言っているでしょう!ねえ!ドレス・・なっ・・ちょっ・・なによ、あんたたち!放しなさいよ!放せってば!」

 叫び、暴れて、猪の如くブラッドフォードへ突進しようとするベティ・コーツ男爵令嬢を、護衛として控えていたアーサーズ公爵家の女性騎士が連行して行くのを、アイリーンは振り返り見つめて、目を丸くした。

「・・・凄く、もの凄く抵抗しています。でも、女性騎士さん、びくともしません・・あ、ほぼ抱え上げられました!女性騎士さん、凄いです、格好いい」

「アイリーン?」

「はい、ブラッドフォード様。わっ。今度は蹴りを華麗に躱しました!抱き上げている状態で、蹴られそうになるのを避けるとか、お見事です。はあ、ほんとに凄い。体幹が強いんでしょうか。全然ぶれません」

「ア、イ、リーン」

「え?あ・・っと。そうですね。アーサーズ公爵領の落盤事故。起こる前に問題の箇所を発見、補修出来て、良かったです」

 まったく興味を示さないブラッドフォードとは違い、女性騎士の、ベティ・コーツの扱いを振り返りながら見て、感動しつつ実況していたアイリーンは、ブラッドフォードの声が低くなったことにも気づかぬ様子でいたが、ベティ・コーツを抱える女性騎士の姿が視界から完全に消えたことで、漸くブラッドフォードに向き直った。

「はあ。そんなに目をきらきらさせちゃって。なんか。僕より気にしている?拗ねようかな」

「わああ。拗ねるブラッドフォード様も、きっと可愛い」

 脅すように言っても、どこ吹く風。

 むしろ、期待するかのよう、嬉しそうに瞳を輝かせるアイリーンを見たブラッドフォードは、仕方ないと苦笑を浮かべた。

「惚れた弱みというか、より深く惚れた方が負けというか」

「それなら、私の負けですね、ブラッドフォード様。それこそ、完敗です。私のブラッドフォード様への想いは、海より深く、空より高いですから」

「・・・・・・・・・・」

 にこにこと言われ、ブラッドフォードは片手で顔を覆う。

「また、不意打ち。なんか、もう」

「ブラッドフォード様?」

「ああ、いや、なんでもないよ。ただ、アイリーンが可愛いなって」

「ブラッドフォード様は、格好よくて可愛いです・・・あの、ところで。先ほど、カフェを予約したと言っていたと思うのですが」

 カフェと聞いて、そわそわしていたのに、とんでもない襲撃を受けたとアイリーンは困ったように笑った。

「それって。楽しみにしてくれているってこと?」

「はい!とても。ブラッドフォード様とカフェに行くの、とても好きです」

「じゃあ、仕切り直し、しようか」

 そう言ってブラッドフォードがアイリーンを連れて行ったのは、表通りを一本入ったところにある、赴きある一軒の店。

 その個室に、アイリーンがブラッドフォードと並んで座ると、すぐに薫り高い紅茶と、特別仕様と思しきケーキが運ばれて来た。

「わあ。素敵」

 滑らかで真っ白なクリームと、淡くコーヒーが香るチョコレートで造られた花々、そして、レースのような飴の細工が合わさって、まるで小さな庭園のようになっているケーキに、アイリーンは目を奪われた。

「それに、紅茶のカップも素敵だし、味も最高」

 見栄えは至福、そのうえ、味も絶品だと頬を綻ばせるアイリーンを嬉しそうに見たブラッドフォードは、その表情に緊張を孕ませて、懐から小さな箱を取り出した。

「よかった。それで・・これも、気に入ってくれるといいのだけれど」

「ブラッドフォード様がくださったもので、気に入らないものなんて、ありません」

 そう、微笑み言ったアイリーンは、ブラッドフォードが開いた、その箱に収まっている品を見て、言葉を失う。

 そこで煌めいているのは、見事な星が見えるサファイアの指輪。

 そして、サファイアの周りでは小粒のブルーダイヤが煌めきを添えている。

「僕の瞳の色。今は、このくらいかなと思って。それに、アイリーンは青色を好むから」

 アイリーンが青系の色を好む。

 それは、他ならぬ自分の瞳の色だからということも嬉しく理解しているブラッドフォードが言えば、アイリーンが、大きく息を吸った。

「素晴らしい、お品ですわ」

「サイズは、どうだろう」

 きちんと合わせて造ったけれど、不安でもあるブラッドフォードは、震えそうになる手を押さえて、そっとアイリーンの指に、その指輪を嵌める。

「ぴったり、です。ブラッドフォード様」

「ずっと、傍に居てね。アイリーン」

「はい。わたくしの永遠を、貴方に」

 迷わず告げたアイリーンの唇に、ブラッドフォードは、そっと自分のそれを重ねた。







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