十四、ひとりだけ、違う世界を生きている 4、
『違うわ。コーツ男爵家として、じゃないの。あたしは、あたしとして招かれるのよ。あたしだから』
『個人で招かれるほど、コーツ男爵令嬢は、国に大きく貢献したということでしょうか?』
『そうよ!あたしが生まれた、ってことがもう!貢献なのよ!』
うっとりと言うベティ・コーツに確かめるように聞けば、彼女は胸を張って答える。
周りは、そんな馬鹿なという目をあからさまに向けているし、アイリーンも彼女らに賛同しているが、ベティ・コーツのなかでは、それが真実らしいと、アイリーンは現実と照会していく。
『では。それを王家がお認めになり招待状を送られた、ということで合っていますでしょうか』
建国記念日の舞踏会。
その招待状は、既に各家、各人の手元に届いていることを踏まえて、アイリーンは静かに尋ねた。
『そうよ。あたしがこっちに来た、それを称えて。むしろ、あたしが主役なのよ』
『そうでしたか。では、ドレスや装飾品についても、自身で用意するのは難しいとおっしゃれば、ご準備いただけるのでは、ありませんか?』
ベティ・コーツが個人で招待されている事実など噂にもなっていなかったはず、とは思ったが、それはそれ。
ベティ・コーツが招待状を受け取っていると言う話を受け止める形で、アイリーンはその提案をした。
下位貴族や平民でも、国に大きな利益をもたらせば王城に呼ばれ、叙勲されることがある。
その際、本人が王城に出向くに相応しい装いを揃えるのが難しい場合、王家の方で貸すという形で、仕度を整えてくれることを知っているアイリーンが言えば、ベティ・コーツの目が丸くなった。
『そうなの!?』
『はい。招待状に添付されている別紙に、そういった記載があるかと思いますわ』
穏やかなまま、アイリーンが言い終わるか言い終わらないうちに、ベティ・コーツは、その場を走り去っていた。
「ふーん。アイリーンは、それで喜んでいるってこと?はあ。アイリーンって、たまに馬鹿になるよね」
「なっ。だって、舞踏会のための費用が欲しいから、あのように守銭奴の如き発言をしたのだと思えば、かわいいというか、そういう気持ちになるじゃないですか」
呆れかえったアシュトンの言葉にアイリーンが反論するも、誰も同意しない。
「ならない」
「うん。まったくならないよ、アイリーン。そんな風に考えるアイリーンが可愛いと、僕は思うけど」
「言ったよね?あの不愉快令嬢は、出世欲というか、名誉欲が強いのだと」
モーリスやブラッドフォード、クリスもアイリーンのその思考は理解不能と首を横に振った。
「そもそも。アイリーンから聞いている舞踏会の内容と、随分違うと思うのだけれど?」
「ああ。それは、そうなのですブラッドフォード様。本来、攻略対象の誰かのエスコートを受けての招待、という形になるのです。それで、その方がドレスや装飾品も用意くださるわけで」
そもそものゲームでも、ヒロインが個人で招待されるという設定は無い。
あくまでも、ヒロインと親しくなった攻略対象が、建国記念日の舞踏会という特別な場で、彼女を紹介したいという発想から成り立つイベントだった。
ゆえに、誰からもドレスを贈られないという段階で、舞踏会のイベント事態、発生しないと思っていたと、アイリーンはブラッドフォードたちに微笑む。
「アイリーンは、ゲームをしているとき、誰からもドレスを贈られないこと、あったの?」
「はい。親密度の調整に失敗してしまって。でも、その時はドレスを用意してもらえないだけでなく、舞踏会自体に行けませんでした」
「それは、正しいと思うよアイリーン。王家は、あの不愉快令嬢を招待なんてしていないから」
苦笑して言うアイリーンに、クリスが真顔でそう告げた。
「え?」
「だから。招待自体、あの不愉快令嬢の妄想だよ」
「確かに、噂にもなっていないのはおかしいとは思ったのです。でも、招待状は、既に受け取っているようでした。もしかしてなのですが、クリス様がご存じないところで、招待状が送られたのではないですか?生意気を言ってすみません。ですが、自分で用意するのが難しければ、ドレスを借りられるとお教えしたら、嬉しそうに走って行かれましたので、あれは本当に招待状をお持ちなのではと、思うのです」
それに、あの守銭奴仕様。
あれは、招待状を持っているからこその焦りではと思うアイリーンには、納得が出来ない。
「まあ、それは確認するとしてさ。そもそも、そのとき教師は何をしていたの?」
「え、あ、はい。ひとり、具合の悪くなった方がいらして、養護室に」
アシュトンの問いにアイリーンが答え、ベティ・コーツの舞踏会の参加の件は、そこで打ち切りとなった。
ありがとうございます。




