十四、ひとりだけ、違う世界を生きている 2、
「これは。予想通りとはいえ、凄いね」
ベティ・コーツが、あちらこちらからお金を貰わねばと宣言してから数日。
学院の昼休憩の時間に、食事を摂りながらクリスが苦笑して言うのに、ブラッドフォードやアシュトン、モーリスも頷きを返す。
「まあ、あの物知らずのことだから、小売りに突撃するのだろうとは思ったけれど」
「予想違わず、見事に、品物を置いてくれている店に行ったみたいだねえ」
「『いきなり現れて、権利があるのだから金を払え』と、追剥のようなことを言われたそうだよ」
「予想通りだな」
すべて想定内と、四人は苦笑して、肩を竦めた。
もちろん、各店は驚愕しながらも、ブラッドフォード達の指令で素早く動いた学院の生徒たちや、騎士の活躍で、そういった『おかしな人物』が現れたら、即座に騎士団に連絡をしてほしいこと、困るような事態になれば、それも報告してほしいことを伝達した結果、大きな混乱には至っていない。
店側からすれば、ブラッドフォード達と同じく、ただ『何だ、こいつ』である。
「でもさあ。凄いよね。自分が居るから存在する、って考え。アイリーンも、あれくらい図太くなればいいのに」
「はは。アイリーンこそ、そう言っていい立場だよね」
「まったくだ。もっと権利を主張して欲しいとは思って来たけれど。ああいうのを見ると、げんなりするよ」
「ああ。知識あるのが、アイリーンでよかった」
クリスやアシュトン、モーリスの言葉にブラッドフォードがしみじみと続き、一同が頷き合うなか、アイリーンだけは、納得のいかない表情で報告書を見つめた。
「コーツ男爵令嬢が。ヒロインが、こんな風に権利を主張して、金銭を求めるなんて。しかも、その最初がクリス様」
ベティ・コーツの様々な顔を見て来たものの、それらはすべて、みんなに好かれようとする、ゲームのヒロインの行動をなぞっているようでもあったのに、これはと、アイリーンは、哀しみに満ちた表情で首を横に振る。
「まあ、驚きはしたけれどね。好きだとかそう言った感情をぶつけられるより、ずっといいと、ぼくは思うよ」
「えええええ。そんな、はっきり。でも確かに。あのときのコーツ男爵令嬢は、強かな金貸しの如くでした」
ゲームのなかのヒロイン、ベティ・コーツは可憐で可愛く清楚だったのにと、嘆くアイリーンの肩を、ブラッドフォードが、ぽんと叩く。
「アイリーン。気持ちを切り替えて。元気を出して」
「だって、ブラッドフォード様。コーツ男爵令嬢が、クリス様に愛を求めるのではなく、金銭を求めたのですよ?しかもあんな、あからさまな言葉で、犯罪とまで」
まさか、攻略対象を犯罪者扱いするとはと、アイリーンは、しょんぼりとうなだれた。
「ええと。ごめんだけど。俺は、アイリーンがそこまで衝撃を受ける理由が、分からないんだけど?」
「そうだね。もとより、そういうひとだったよね。不愉快おん・・令嬢は」
「そうは言っても。アイリーンは、ゲームをしていたから。未だ、夢があったんだよね?」
「ならば、早く覚めろ」
ブラッドフォードの慰めもばっさりと断ち切り、モーリスは、アイリーンに決意を促す。
「覚めろ。確かに、そうかも、しれませんけど。でも、私、あのゲームが凄く好きだったので、そこが、割り切れなくて。コーツ男爵令嬢は、あのゲームのヒロインとは違うと、分かってはいるつもりなのですが」
そんなアイリーンの言葉に、アシュトンが、うーんと唸った。
「そもそもがさ。そこなんだよね」
「「「ああ」」」
「え。みんなして、なに?」
腕組みをしてアイリーンを見るアシュトンと、同じような視線をブラッドフォード達からも向けられて、アイリーンは、目を瞬かせる。
「俺たちからしたら、そのゲームのヒロインも同じだってこと。だってさ。複数の男を相手に恋愛するなんて、正気じゃないだろ。しかも、辺境伯家、侯爵家、公爵家ときて、極め付きは王家だよ?完全に狙ってんじゃん」
「そもそも男爵家では王家に嫁げないし、高位貴族も難しいと思うよ」
「そこを捻じ曲げて・・もとい、可能にすることで、創作としては人気があるのかもしれないけれどね」
「まあ、実現すれば相当な玉の輿ではあるな。本人の実力が伴えば、だが」
現実に生きている高位貴族の面々の言葉に、アイリーンは、ぽかんと口を開けた。
「みんな、辛辣。ってか、それが現実、ではあると、分かっては、いるのよ。だから私、伯爵家に生まれることが出来てよかったな、って思っているから」
公爵家に嫁ぐのに、伯爵家の出身であれば充分であると考えられ、容認される。
しかもアイリーンの場合、婚約したのが早かったことで、かなり早い段階で公爵家に相応しい作法を教わることが出来た結果、今ではアーサーズ公爵夫人からも太鼓判を押される所作を身に付けることが出来た。
そこは本当に感謝だと、アイリーンは小さく息を吐く。
「・・・・・まいったな。不意打ち」
「惚気、か」
「モーリス、頑張れ!」
「ああ、まあ。なんか、こうなるんだね」
アイリーンの言葉にブラッドフォードが片手で顔を覆えば、モーリスは遠い目をし、アシュトンはそんなモーリスの肩を思い切り叩き、クリスは、これも日常かと、苦笑して果実水をひと口飲んだ。
ありがとうございます。




