十三、フレミング侯爵領 19、
「・・・・・デニスって、恋人がいたのね」
「みたいだね。カーラという女が驚いていたのを見るに、ゲームの流れとは違うようだけれど」
引きずられて行くカーラと、その彼女を嫌悪の瞳で見つめるデニスを見ながらアイリーンがぽつりと言えば、ブラッドフォードも小さく答える。
「いや。恋人ではなく事実婚の妻だと、デニスは言っている」
「ええええ!じゃあ、もっと駄目じゃん!アイリーン、そのゲームって不倫ものなの?」
「多数の男を篭絡するだの、不倫だの。随分、倫理観に欠ける話なのだね」
モーリスが持ち帰った新事実にアシュトンが唸り、クリスも眉を顰めた。
「え。いや。そう言われれば、そうなのかも、だけど。その言い方だと、身も蓋もないような」
「多数の男を篭絡する、という面ではそうだけれど。デニスに事実婚の妻が居るのは、ゲームとは違うという話だっただろう?それに、そもそもアイリーンがしていたのはゲームであって、現実ではないのだから、気にすることはないよ」
ブラッドフォード一途だったとはいえ、自分が楽しんだゲームが倫理観に欠けると言われ、複雑な気持ちになったアイリーンに、ブラッドフォードが寄り添う。
「ま、なんにせよ。あの女・・カーラがアキナスから入国して保護をされ、協力者と共に弓の自動発射装置を作ってデニスを襲撃する、という計画は未然に防げた、ってことで大団円!じゃん!」
「ああ。デニスも怪我をすることなく、裏切ることもなく済んだ。それに、これで大森林の火災は防げた。もちろん、これからも警護は怠らないがな」
全身で喜びを表現するアシュトンに、モーリスも、ほっとしたように言葉を繋いだ。
「うん。それは、本当に良かったわ」
「アイリーンのお陰だ」
同じく安堵の笑みを浮かべたアイリーンに、モーリスが改まって頭を下げる。
「そんな。私、内容をちゃんと覚えていなくて。それは、本当に申し訳なかったわ」
「それでも、教えてくれた。そして、来てくれた。それに、デニスの相手は、他領から仕事の関係で来ていて、デニスと知り合ったそうだ」
にやりと、ひとの悪い笑みを浮かべたモーリスに、アシュトンが瞳を輝かせる。
「お。他領から。それってつまり、アイリーンがフレミング領に事業を拡げた結果、ゲームでは有り得なかった出会いがあった、ってことか!それは凄いな!アイリーン!俺にもそんな出会いをくれ!」
アシュトンの言葉にみんなが笑い、その場は、フレミング領の危機が無事回避された喜びに満ちた。
「アイリーン。美味しい茄子が食べられて、良かったね」
「はい!ブラッドフォード様」
飛び地を去る日。
ブラッドフォードに言われたアイリーンの瞳は、それはもう輝いていた。
「はあ。茄子をくりぬいて、その実と肉を味噌で和えたものを詰めて焼いたやつ。あれ、すっごく旨かった」
「ここの茄子とはちょっと違いますけど、王都で手に入る茄子でも作ってみますね。お肉も、色々変えてみたりして」
思い出しただけ、聞いただけでよだれを垂らしそうなアシュトンに、アイリーンは、嬉しそうに返す。
「叔父上も、舌を巻いていたからな。父上に報告が行って『レシピを』という話になると思う」
「ふふ。これからも、美味しい茄子を育ててくれれば、それでいいかな。それに、こちらの方が、お肉の種類は豊富なわけだし」
民間レベルで作る料理となるなら、みんなが美味しく食べてくれればいいと言うアイリーンに、ブラッドフォードは呆れたような顔をしながらも、何も言わずに頷いた。
「みんな、喜ぶ。ありがとう、アイリーン」
試食をした領民の、驚きと笑み零れる姿を思い出し、モーリスも自然と笑顔になる。
「アイリーン!王都で、色々作って試食、ってなったときには、絶対に俺も呼んでくれよな!」
「もちろんです!」
笑顔で、そんな話をしたアイリーンは知らない。
この土地で根付き、やがて名物料理となったそれが『アイリーン嬢のこだわり茄子料理』と名付けられ、この地を訪れる商人たちによって、全国へ発信されて行くことを。
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