十三、フレミング侯爵領 18、
「なんかもう、黒ってことでいいのではないでしょうか」
装置を発見してから三日目の昼過ぎ。
今日も、装置に女が来たという騎士からの報告を受けたアイリーンは、そう言ってブラッドフォード達を見た。
「確かにね。まさか、実行に及ぶ前。毎日装置を確かめに行くとは思わなかったから、驚きだし、黒確実だろうとは思うけど。決定的な瞬間で捕らえた方が、問題にならないからね」
「うん、うん。現行犯、ってやつだな。確認しているだけだと、それこそ『何かと思って見てしまって。危険な物なら、報告しないと皆様が大変だと思ったんです』なんて、お為ごかしが成立してしまうわけだ」
調子よい声音と口調に反する、苦虫を噛み潰したような顔のアシュトンが、ブラッドフォードの言葉に全面賛同し、クリスとモーリスも頷きを返す。
「はあ、なるほど。それに、デニスも神殿に近寄る様子が無いっていうのが、なんとも。まあ、それは良いことかも知れないですが」
デニスには、装置の件は秘匿されている。
というより、装置の件を知っているのは僅かな人数だけで、この案件は、アキナスからの侵入ありという機密事項として処理されていることではあるのだが、騎士団の中核に居るデニスにとって、その事実は、知れば衝撃というか、屈辱だろうということは想像に難くない。
「今のところ、デニスは彼女を保護しただけだね」
「そういやあの女、なんて言ったっけ?」
「カーラだ。アキナスの平民とのことで、苗字は無い。保護理由は夫の暴力で、確かに傷や痣があるし、所持品にも、あやしいものは無かったと聞いている」
これが、ゲームでも同じだったのかは分からない。
だが、この先、デニスが怪我をするようなことがあれば、ゲームのストーリーに乗っていくのかもしれないと、アイリーンは案じていた。
「怪我をして、心細い時に心を込めて看病されれば、そりゃあ、信頼もするわよね」
「片目を損失しているとなれば、依存もするだろうとは、俺も想像できるけど。だからといって、領の機密を漏らしていいことにはならないよね」
「それは、そうね。もっともだわ」
アシュトンの言葉に頷いて、アイリーンは、指折り数える。
「アイリーン?何を数えているの?」
「ああ、ブラッドフォード様。あと、どれくらいでロープが切れるのかなと思って」
アイリーンの疑問に、アシュトンが首を捻った。
「あのロープ、なかなか切れないと思うぞ。そういう造りにしたのかも知れないけど、切断が遅すぎる気がする。それに、切れたからといって計算通り飛ぶとも限らない」
「僕もそう思う。となれば、切りに来るだろうね」
「切りに来る?・・あ!それで、現行犯!」
カーラがロープを切りに来たところを捕らえる。
そう言っているのだと理解して、アイリーンは、ぽんと手を叩いた。
「そして、本当に来るのね。手に、ナイフを持って」
「髪飾りに隠しナイフって。あいつ、プロだろ」
更にその翌日。
『そろそろだろう』というブラッドフォードやアシュトンの言により、ノーマンら騎士団と共に装置の傍で潜んでいたアイリーンが言えば、アシュトンも呆れたような声を出した。
「プロって、騎士ってこと?・・・あ、切るわ!」
声を潜めつつも、アイリーンは、その瞬間をじっと待つ。
髪飾りに忍ばせた折り畳みナイフを見事にあやつり、カーラがロープを切る。
解き放たれた矢は、勢いよく飛び出し、同時に展開された木の壁に突き刺さった。
「え!?なに、これ!」
「それは、フレミング侯爵領特製の盾だ」
驚き叫ぶカーラの前に出たノーマンの、静かな声にカーラの顔が嫌悪に歪む。
「嵌めたのね?」
「悪党が、何を言う」
カーラの嫌悪など意にも介さず、ノーマンは騎士に銘じてカーラを捕縛した。
「ちょっとっ!放しなさいよ!偉そうに!っていうか、あんた誰よ!?デニスはどうしたの!?ほんとなら、保護してくれてから毎日煩いほど会いに来て、巡回のルートや時間も聞き出せるはずなのに、そもそも来ないってどういうことよ!」
「何故俺が、会いに行かねばならんのだ」
漸く、今日になってこの件について聞かされたデニスは、カーラに取り込まれる可能性を重視して、機密から外されていたと知り、不機嫌に極みを体現したような表情でカーラを見る。
「あ!デニス!なによ、いるんじゃない!早く助けてよ!」
「何故」
「何故、って、え?なんで?」
デニスの行動が信じられない様子で、カーラは混乱の瞳をデニスに向けた。
「確かに、お前のことは俺が保護した。だがそれは、このアンブラー王国の規定によるもの。それ以上でも以下でもない」
夫や父親に心身に暴力を受けている者に助けを求められた場合、それが、たとえ他国の者であったとしても、一時保護して、状況を精査する。
その方針に従ったまでだと、デニスは淡々と語った。
「・・・嘘でしょう。デニスなんて、すぐにカーラに絆されて、馬鹿みたいに信じて、一途な愛を捧げるから。この任務、簡単だと思ったのに」
「俺は浮気などしない」
カーラの言葉にデニスが、今まで以上に不快な様子で返す。
「はあ!?恋人がいるですって!?なに裏切ってんのよ!」
「デニス。お前、尋問の際も傍にいろ」
「はっ」
デニスの話とカーラの話が一部擦り合わないため、そう決断したノーマンにデニスが一も二も無く頷いた。
ありがとうございます。




