十三、フレミング侯爵領 17、
「・・・これは」
神殿の森に設置されたその装置を見たノーマンは、絶句したまま、既に発射を待つばかりになっている矢をじっと見つめる。
「これを設置したのは、アキナスからの入国者でした。正式な方法で入国し、即日きちんと出国しています」
「そうか。モーリス、よく発見してくれた。クリス殿下や、諸氏方にも感謝申し上げる。しかし、これで何をするつもりだったのか。怨嗟か悪戯か。いずれにしても、個人的な動きだと判断すべきだろうな」
仕掛けは、弓と矢が一対だけ。
確かにこれが放たれれば怪我人が出る可能性もあるが、国を攻撃するには弱い。
アキナスという国が絡まない可能性をノーマンが考えても仕方のないことだと言えた。
「それなのですが、叔父上。実は、神殿に保護されたカーラというアキナスの女性が、絡んでいる可能性があります」
すぐにも騎士達に銘じて装置を撤去しそうなノーマンを押しとどめ、モーリスは真剣な顔で申し出る。
「聞こう」
モーリスと、そしてその場に居るアイリーン達四人の顔を順に見たノーマンは、重々しい声でそう答えた。
「ノーマン様が、信じてくれてよかった」
その晩。
飛び地の滞在先である砦に戻ったアイリーンは、ブラッドフォードの自室でそう言うと、前へと腕を大きく伸ばした。
「まあねえ。随分怪訝な顔をしてたけど、クリスやブラッドフォードも居るし、絶対に無いとはいえない事態だからねえ」
王族と公爵だものねと、アシュトンも安堵の表情で続ける。
「後は騎士たちが交代で見張る」
「じゃあ、僕達は街見学をしようか。結局、お土産を買えていないし」
「あ!」
ブラッドフォードの言葉にアイリーンが目を大きく見開き、クリスがくすくすと笑う。
「もちろん、ぼく達も一緒に行くからね?」
「そうだな。いつ、連絡が来るか知れないからな」
「いいじゃん、アイリーン。お土産はアキナスの物じゃなくっても」
こきこきと首を鳴らしながら言ったアシュトンに、アイリーンはこくりと頷いた。
「それは、私もそう思います。ただ」
「アイリーンが心底残念なのは、野菜だよね?それなら、アキナスとは地形も似ているのだし、飛び地でも同じ物が収穫されているかもしれないよ?」
ブラッドフォードの言葉に、アイリーンの瞳が、きらきらと輝く。
「そうだ・・そうですね!流石、ブラッドフォード様!では早速、飛び地の方にお話を聞いて・・あ!厨房の方、今はお忙しいでしょうか!?」
「今の時間は、夕食の仕度に忙しいと思うから、突撃するのは止めようね、アイリーン。それと、別に、厨房に聞かずとも飛び地の人間なら知っていると思うよ?」
ブラッドフォードの言葉に、アイリーンは、モーリスをぐるんと見た。
「すまない。オレは、よく分からない」
「家庭菜園でもいいのですが!」
心底申し訳なさそうに言うモーリスに、斜め上の突撃をするアイリーンを、どうどうとなだめ、ブラッドフォードは自分へと引き寄せる。
「アイリーン。砦に家庭菜園は無いよ。でも、平民なら知っていると思うから。誰かに聞いてみようか」
「はい!ブラッドフォード様!お邪魔をしないよう、丁寧に聞いてみます」
『任せて』と言わぬばかり、アイリーンは強く拳を握った。
「ねえ、これ。野菜の種類というか、アキナスと同じものか確認したいだけ、だよね?」
「ああ。これほど気負わずとも、アイリーンに問われれば、使用人でも騎士でも、嫌がらず答えると思うが」
「だよねえ。でも、いいんじゃない?楽しそうだから。それに、アイリーンなら、他の食材でも美味しい物作ってくれるかもだし!」
まるで、これから重要機密でも聞き出しに行くかのようなブラッドフォードとアイリーンを見つめ、クリス、モーリス、アシュトンは、いつものことながらと言いつつ、それでも共に席を立った。
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