十三、フレミング侯爵領 16、
「猛獣だと比喩されて、強そうだって喜ぶ令嬢ってどうなの?」
「アシュトン様。令嬢とひと口に言っても、色々なのです。私は、守られるばかりでいるより、何かあったときに役立てる強い方がいいです。ほら、いざというときにブラッドフォード様を背負って歩けるとか」
嬉々として話すアイリーンは、それが可能だと言ってもらえたようで、心底嬉しくてたまらない。
「ブラッドフォードを背負うって・・しかも、その状態で歩くって・・ごめん、アイリーン。アイリーンに、そんな力は無いと思う」
予想外の方向に話が進んでしまったクリスは、困ったような表情になる。
ブラッドフォードが、アイリーンの性質を知り尽くしていて、その記憶さえよみがえらせることが出来る、そういった意味でのものだと理解している前提での話だったのだと、クリスもアシュトンも頷き合った。
「アイリーンに背負われる僕、か。まあ、アイリーンが試したいなら、いつでも試していいよ。あ、もちろん。ふたりきりの時にね」
ブラッドフォードの言葉に、すぐさま動きそうになったアイリーンは、最後のひと言で辛うじて動きを止めた。
「絶対ですよ?逃げないでくださいね。だって私、ブラッドフォード様を背負えるかもしれないんですから。わくわくの可能性です」
「ふたりの時なら、何度でもと約束する。さあ。位置の特定をしようか」
期待に胸を膨らませるアイリーンに力強く頷いて、ブラッドフォードは神殿の森と呼ばれる場所を見つめる。
「位置の特定、ですか?何の?」
「そうだな。弓矢の自動発射装置、とでも言えばいいかな。流石に未だ設置されていないだろうけれど、設置しているところを見張るにも、その場所を仮に設定しておいた方がやりやすいからね」
当たり前のように言うブラッドフォードに、アイリーンは首を傾げた。
「その装置を設置するのは、決定事項なんですか?」
「そう考えるのが妥当だろうね。射手をその場に待機させるのは、現実的じゃない」
それこそ、騎士団でもないのに武器を持ってうろついている者がいれば、すぐさま報告があがると言うブラッドフォードに、モーリスも続く。
「場所柄、武器の所持は厳しく規制されているからね。それに、飛び地の住人でない者の出入りも」
「そっか。記念日にアキナスから入国しても、居残ることは出来ないのね。なるほど、だからデニスは、保護した女性を神殿に預けた、と」
ふむふむと納得するアイリーンの髪を、ブラッドフォードが『よくできました』と言わぬばかりに、撫でた。
「それにね、アイリーン。そういう装置があった方が、事件を起こした後も、捜査を攪乱しやすいんだよ」
「操作を攪乱、ですか?」
「うん。もし、装置による矢ではなく、その場で射手が放ったものだとしても、装置があるということで、そこから射られたと仮定して捜査するのが常道だから、ってことだよアイリーン」
ブラッドフォードの説明に頷き、アイリーンは、神殿の前の道と、神殿の森の距離を目算する。
「分かりました。つまり今は、その装置を設置する前の段階で、犯人が装置を設置する場面で取り押さえようということですね」
「それは、どうしようか」
アイリーンの言葉を曖昧に流し、ブラッドフォードはモーリスを見た。
「設置する時ではなく、設置したものを見せて、叔父たちに報告したい」
「それがいいだろうと、ぼくも思うよ」
この飛び地を任されているのは、モーリスの叔父であるノーマンなのだから、それが正当だろうと、クリスを筆頭に、その場の全員が頷きを返す。
「それじゃあ、張り込みすっか」
「え?今日、これから?いくら何でも、早くない?」
当然と、肩を回して言うアシュトンに、アイリーンは目を瞬かせた。
「いや。さきほども言ったが、アキナス国民が滞在できるのは、今日一日だけだ」
「でも、モーリス様。もうデニスに保護された女性は、神殿に居ますよ?」
神殿で保護ならば、滞在が可能ではと益々怪訝な顔になるアイリーンの肩を、ブラッドフォードがぽんと叩く。
「装置の設置をひとりで、とは考えづらいからね。それこそ、見張りの役も居るだろうし、保護されたばかりで、元気に動きまわるのも、おかしな話だろう?」
「あ、なるほど!肝となる人物の送り込みには成功しているけれど、この先の計画を成功させるため、他にも協力者がいるってことですね!」
今度こそ、完全に理解したと、アイリーンは強い瞳でそう言った。
ありがとうございます。




