十三、フレミング侯爵領 15、
「米料理があるのも、フォーの屋台があるのも自分のお陰って。なにそれ。破廉恥はどこまでも破廉恥なんだな。あらゆる面で、破廉恥。つまり、全面恥知らずってことだな」
「ああ。不愉快おん・・令嬢の極みといったところか」
「なあ、クリス。もう不愉快女でいいんじゃないか?いつも、言い直しているじゃないか」
アシュトンの言葉に己の言葉を連ねたクリスに、ブラッドフォードが苦笑して続く。
「誘惑しないでくれないか、ブラッドフォード。他の者の前で、最低限の体裁が保てなくなったら困るじゃないか」
「なるほど」
苦笑に苦笑で返したクリスに、モーリスが納得と頷いた。
五人でいる時のクリスは大抵こんな感じだが、他の貴族の前では、それはもう、王子然とした仕様となる。
「クリスは、外面がいいものな」
「それ。ブラッドフォードだけには言われたくない」
「あ。デニスが出てきました」
四人の話を笑顔で聞いていたアイリーンが、神殿の入口を指して言った途端、四人も真顔になった。
「どうする?ここで、デニスに勤務報告をさせるか?」
神殿の入口からは死角となっているので、今ならデニスに接触せず、神殿に確認をする方法もあると、モーリスは四人を見やる。
「そうだな。デニスが、彼女に対してどのような感情を抱いているか、それを確認するのはいいと、僕は思うけど。アイリーンは、どうするのがいいと思う?」
「そうですね。デニスは、最終的に大森林の火災が起こった後も、保護した彼女が犯人ではと疑うのではなく、彼女が大森林の火災に巻き込まれなかったことを喜んでいました。もし、彼女が巻き込まれていたら、自責の念に耐えるられなかっただろう、と。ですから、デニスの心情を確認するのは、大事だと思います」
アイリーンの言葉に、モーリスは不快そうに眉を顰めた。
「領民より、大森林より、犯人の心配をしたのか」
「そりゃ、普段のデニスを知る必要もありそうだな。んじゃ、行くか」
騎士としての為人、それ自体を見極める必要があると、アシュトンも厳しい表情になる。
「さて。自然な動きに見えるように、少し移動してから声をかけようか」
「だな。こっから行ったら『見張っていました』って言っているようなもんだからな」
クリスの言葉にアシュトンも頷き、五人は、不自然にならないよう、少しの距離を空けてデニスに声をかけるタイミングをはかった。
「デニス」
「これは、モーリス様」
モーリスが後ろから声をかければ、振り返ったデニスがすぐさま礼を取る。
その視界には、確実にクリス達の姿もあって、彼の有能さが伺えた。
「巡回、ご苦労。何か、問題は?」
「問題というほどの問題は、今のところありません。ただ、アキナスの女性を保護しました」
「保護の理由は?」
「夫の暴力に耐えかねて離縁したいものの、許さず、わが国への亡命を希望するとのことでしたので、無碍にすることも出来ず、神殿に預けました。両国の火種になどならないよう、きちんと精査する予定です」
はきはきと答えるデニスには、後ろめたい様子は微塵も無い。
そして、彼女の訴えを鵜呑みにするのではなく、きちんと精査するとも言っている。
このデニスからは、彼女に傾倒して、領民までも蔑ろにするような印象は受けず、アイリーンは首を傾げるばかりだった。
「そうか。ご苦労だったな」
「いえ。これも、役目ですから」
そう言うと、デニスは、もう一度きちんと礼をしてから去って行った。
「なんか。立派な騎士様でしたね」
ぽつりと本心を漏らしたアイリーンに、四人も同意と頷く。
「今は問題無いように見える、ということは、この後、怪我をしてからが問題ということかな」
「僕もそう思う。というわけで、行こうか」
「そうだね。行こう」
「よろしく頼む」
クリスの言葉にブラッドフォードが頷き、アシュトンとモーリスも当然とそれに続くのを聞き、実際に動き出そうとするのを見て、アイリーンは、焦りの声をあげた。
「ど、どこに行くというの?」
「何処。何処が一番有力かなあ。俺は、神殿の森のどっかだと思うけど。まあ、矢だっていうなら、射程期よりと角度を考えれば、割り出せると思うよ」
「アイリーン。デニスが怪我を負う際の通常の見回りというのは、馬だったか?それとも、徒歩だったか?」
アシュトンの答えに目を回していたアイリーンは、モーリスに改めて問われて、こくりと息を呑む。
「馬か、徒歩か?・・・あ、そうか。角度」
「モーリス。それを、アイリーンに聞く理由は?フレミング侯爵領では、通常の巡回方法が決まっていないということか?」
問われた内容が、凄く大事だと理解しつつも、即答できないアイリーンを援護するよう、ブラッドフォードがそうモーリスに尋ねた。
「ああ。馬か徒歩、その場に即してとなっている」
「今日みたいに、特別な日じゃなくってもってこと?」
アシュトンの問いに頷いたモーリスに、アイリーンは、益々焦る。
「アイリーン。デニスは、矢に射られた後、落馬した?それとも、手綱を握って堪えた?」
「いいえ。そのような場面は、ありませんでした。矢を受けて、どさりと片膝を突くって描写があって」
どうにかして、その場面を詳しく思い出さなければと鼓動を激しくさせていたアイリーンは、ブラッドフォードの言葉に首を横に振って答えた。
「なら、徒歩ってことだね」
「さっすがブラッドフォード。アイリーンの扱いに長けてんな!」
にこりと笑って言ったブラッドフォードの肩を、アシュトンが流石と叩く。
「はあ。良かったです。ありがとうございます。ブラッドフォード様」
「・・・・ねえ。いいの?アイリーン。アシュトンてば、ブラッドフォードのことを、アイリーン使いのように言っていたけど」
心底安心したように、ブラッドフォードへと礼を言うアイリーンに、クリスがこそりと言うも、アイリーンは動じない。
「事実ですからね。でも私、それでいくと特殊な動物か、猛獣のようだということでしょうか」
「なんだか、嬉しそうなんだけれど?」
「だって、すっごく強そうじゃないですか!」
なぜか目をきらきらと輝かせて、アイリーンはそう言った。
ありがとうございます。




