三、婚約式 1、
「ねえ、アイリーン。ドレスは、わたくしとお揃いにするというのは、どうかしら?」
この度めでたく婚約が正式に整った、アーサーズ公爵家とドレイク伯爵家。
そして行われる婚約式について、具体的な内容について両家揃って相談が行われるなか、瞳を輝かせて言い出したアーサーズ公爵夫人シンシアの言葉に、ブラッドフォードが即座に反応する。
「母上。アイリーンと衣装を揃いにするのは、僕に決まっていますよね。母上は、父上と揃いにしたらいいではないですか。いつものように」
「っ。それは、確かにそうだけれども」
確かに夫と揃いの衣装で夜会に行くことの多いシンシアは、うっと詰まって夫であるブルーノを見た。
『ブルーノとの揃いも捨てがたいけれど、それでも、折角できた娘となるアイリーンと揃いにしたい』と、その目が訴えるのを、ブルーノは任せろと言わぬばかりに微笑んで見返す。
「はは。いいこと言うね、ブラッドフォード。シンシアは私と揃いにすべき。うん、確かにそうだね。でもそれなら、みんなで揃いにしたらいいんじゃないか?もちろん、ドレイク伯爵夫妻も含めて」
「あー!」
アーサーズ公爵が、にこにこと提案したその時、不満の声と共に大きく手を挙げたのは未だ二歳のカイル。
「お、これはすまない。もちろん、カイルも揃いにしような」
「う!」
「まあ、カイルったら。申し訳ありません、アーサーズ公爵」
にこにこと満足そうに笑うカイルの口を押さえ、慌ててアイリーンの母レイラが謝罪の言葉を口にすれば、シンシアが気にすることは無いと、カイルを抱き寄せた。
「カイルも、お揃い。楽しみね。どんなお衣装にしましょうか」
「アーサーズ公爵夫人。非情に勿体ないお申し出ではございますが、わたくし共までお揃いなど、烏滸がましいといいますか、恐れ多いと言いますか」
全員揃いの衣装で決まり、という雰囲気に、ドレイク伯爵夫人であるレイラが顔を青ざめさせ、不敬にならないよう懸命に言葉を選んで辞退を試みる。
「まあ。アーサーズ公爵夫人だなんて、他人行儀な。わたくし、レイラにどう呼んでほしいと言いましたかしら?」
「はい、あの。シンシア様」
「ふふ。よくできました。ねえレイラ。心配せずとも、きちんとあなたの意見も聞きますから、安心して」
『公爵夫人を名前呼びするなど、恐れ多いにもほどがある』とでも言いたげな、母レイラに対するアーサーズ公爵夫人シンシアの言葉や表情に、アイリーンはブラッドフォードとの血の繋がりを強く感じた。
わあ。
あの言い方といい、表情といい。
私に圧をかけるときのブラッドフォード様にそっくり。
流石親子。
「アイリーン?何を考えているの?」
「え?あ、いえ。な、なんでもありません」
『嫌な圧ではないし、仲良くなるのに、私の遠慮という殻を破ってくれているのだと分かるから、心地悪くはないのだけれど』などと考えていると、隣に座るブラッドフォードから、即座におかしみの籠った眼差しを向けられ、慌てて答えるも、その目は更に細められてしまう。
「何でもない。へえ?本当に?」
その声は本当に密やかなのに、アイリーンは逃げ道を塞がれた気持ちになって、必死に思考を巡らせた。
「え、えっと・・そ、そう!この席順は、どうなのかな、と思いまして」
これも、あながち嘘ではない。
婚約式に関する相談をするのに両家が揃った。
それは、当然のことである。
しかし、ふたりがけのソファにそれぞれ、両家の当主、両家の夫人、そして婚約者本人であるブラッドフォードとアイリーンが並んで座っている。
未だ幼いカイルが、誰かの膝の上に居るのは普通・・としても、それが、アーサーズ公爵夫人となればまた違うのではないかという思いが湧き上がると、アイリーンは小声ながらも熱弁した。
「ああ。それぞれの当主と夫人が、並んで座るのが普通じゃないかって?でもまあ、内々のことだから許してやって。母上は、アイリーンの母君を大層気に入ってしまったんだ。もちろん、アイリーンのこともね」
「わああ・・ウィンク・・凄い・・決まっている・・素敵・・格好いい」
「ありがと」
「え!?私、声に?」
『決め技のようにわざとらしく、それなのに嫌みなくウィンクを決めるブラッドフォード様最高!あざとさ万歳!』と、脳内で叫んだはずのアイリーンは、慌てて口を噤む。
「ふふ。出していたよ。僕を、凄く素敵、格好いいって。嬉しいな。もっと精進するからね」
心底嬉しそうに言ったブラッドフォードは、再び、ぱちんとウィンクを決めた。
「っ・・う・・ぐっ・・わ、私の心臓を止める気ですか!?」
「そんなに?」
「そんなにです。もう、今でもいっぱいいっぱいなのに、これ以上精進なされて、もっと格好良くなった暁には、私の心臓がもちません」
今の状態は、この至近距離で最高のファンサを受けているようなもの。
しかも、未だゲーム開始の年齢にも達していないのに、この破壊力。
それが、今以上に格好良くなったブラッドフォードから同じようにされたら、心臓への負荷がとんでもないことになると訴えるアイリーンに、ブラッドフォードは顔を近づけ、満足そうに囁いた。
「へえ。そうなんだ。じゃあ、もっと頑張って、この状態が普通だと思ってもらえるようにしないとだね。僕はアイリーンの婚約者なんだから、僕の最高の表情を間近で見せるのが当たり前。当然のことなんだから、慣れてね・・なんて。こんな僕は嫌い?追いつめ方が、母上に似ている僕は」
「嫌いなんてことあるわけが・・・っ!アーサーズ公爵子息、気づいて」
『流石親子。似ている』と考えていたことが、実はしっかりばれていたのだと知り、アイリーンはブラッドフォードを拗ねた様子で睨む。
「意地悪です。最初から、気づいていて揶揄うなんて」
「だって、アイリーンが可愛いから。それに安心して。今言ったこと全部、本気だから」
「・・・・・」
『それは、安心していいことなんだろうか』と迷うアイリーンを他所に、政略の色も濃いこの婚約を、当人達が幸せそうに受け入れている事実を間近に見て、両家の両親は安堵し、仲良く寄り添い合うふたりを微笑ましく見つめていた。
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