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死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


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85/100

十三、フレミング侯爵領 13、



「わあ。本当に色々な露店があるのね。目移りしてしまうわ」

 不可侵条約締結記念日、当日。

 アイリーンは、瞳を輝かせて視界いっぱいに広がる露店を見つめた。

「確かに広いね。迷子にならないように、手を繋ごうか?アイリーン」

「俺達も居ること、忘れなんなよ?ブラッドフォード」

「まあ、でも確かに広いね。それに人も多くて賑やかでいいね」

「稼ぎ時でもあるからな」

 そんなアイリーンの隣にブラッドフォード、そして、その前をクリスが歩き、両脇をアシュトンとモーリスで固めている。

「ああ。いい匂いもする」

「何か、気になるものがあれば、遠慮なく言ってね。アイリーン。クリス達と別行動しても、大丈夫だから」

 少々勝手なことを言い、前を行く三人から、やや遅れようとするブラッドフォードに、アイリーンは苦笑した。

「流石にそれは・・って、あ!ブラッドフォード様、あそこ!」

「ん?アイリーン。どうかした?」

「デニスが、女性と話をしています!」

「なに」

 アイリーンのそのひと言で、皆一斉にそちらを見る。

「本当だ。デニスが、女性と話をして・・あ、誘導して行くみたいだね」

「行ってみましょう」

 今、デニスが誘導している女性が件(くだん)の女性かは分からない。

 しかし、確認する必要はあるだろうと、五人は揃って歩き出した。

「ところで、アイリーン。ゲームでデニスが保護して、その後、神殿預かりになる女性の特徴って覚えていないの?髪の色とか、瞳の色とか」

「髪や瞳の色ですか?・・・うーん。そこに居たとしか、記憶が無いです」

 アシュトンに言われ、少し考えてみるも、へのへのもへじのようにしか思い出せないと、アイリーンは、謎の言葉を口にする。

「なに?へのへのもへじ、って」

「アイリーンは、時々、謎の言葉を発するよね。コロボックルとか」

 きょとんとしてアイリーンにアシュトンが問えば、ブラッドフォードもおかしそうに笑いながら頷いた。

「ああ。コロボックル。アイリーンが、コロッポルの親戚みたいに思っていた、小人の一族のことだね」

 あった、あったと言いながら、クリスも笑う。

「なんか、酷いですよ、みんな」

「どうする?このまま、デニスに声をかけるか?」

 膨れるアイリーンに苦笑しつつ、距離が迫ったと、モーリスが判断を仰ぐ。

「いや。このまま付けよう」

「そうだね。それで神殿に行くようなら、要注意かな」

 ブラッドフォードとクリスが言い、五人はデニスと女性に気づかれないよう、そろそろと、追跡を開始した。



「・・・おお。見事に、神殿に到着、と」

「うん。そして、ふたりは神殿に消えた、状態だね。現状」

「さて。じゃあ、デニスが出て来るのを待って、詳細を聞こうか」

 アシュトンとクリス、そしてブラッドフォードが頷き合うのを見たアイリーンは、もうひとつ、確認したいことを口にする。

「デニスには、何か説明しますか?その、この後、怪我をするのは彼なので」

「うーん。アイリーンの言いたいことも、分かるけれど。説明するにしても、どう言うかが、問題だよね」

 危険なのはデニスなのだから、と言うアイリーンに、ブラッドフォードが難しい顔になった。

「告げる必要は無い。現時点で、裏切りの確率が高いのは、デニスだからな」

「そうだね。告げることで、何か逃げ道を探されても難儀だしね」

「ゲームと違う展開を求めるにしても、僕達が望まない方に転んだら、事だしな」

「厄介ごとは、少ないに限る、ってことで!」

 そして、四人に揃って言われ、アイリーンも頷く。

「そっか。それで、火災の時期や侵攻の時期が早まってしまったら、困るものね」

「そういうこと。でも、デニスが怪我をしないようには、しようね」

「はい。ブラッドフォード様」

 そうか、そうすればいいのかと、活路を見出したように微笑むアイリーンの頭を、ブラッドフォードは、ぽんぽんと優しく撫でた。




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