十三、フレミング侯爵領 13、
「わあ。本当に色々な露店があるのね。目移りしてしまうわ」
不可侵条約締結記念日、当日。
アイリーンは、瞳を輝かせて視界いっぱいに広がる露店を見つめた。
「確かに広いね。迷子にならないように、手を繋ごうか?アイリーン」
「俺達も居ること、忘れなんなよ?ブラッドフォード」
「まあ、でも確かに広いね。それに人も多くて賑やかでいいね」
「稼ぎ時でもあるからな」
そんなアイリーンの隣にブラッドフォード、そして、その前をクリスが歩き、両脇をアシュトンとモーリスで固めている。
「ああ。いい匂いもする」
「何か、気になるものがあれば、遠慮なく言ってね。アイリーン。クリス達と別行動しても、大丈夫だから」
少々勝手なことを言い、前を行く三人から、やや遅れようとするブラッドフォードに、アイリーンは苦笑した。
「流石にそれは・・って、あ!ブラッドフォード様、あそこ!」
「ん?アイリーン。どうかした?」
「デニスが、女性と話をしています!」
「なに」
アイリーンのそのひと言で、皆一斉にそちらを見る。
「本当だ。デニスが、女性と話をして・・あ、誘導して行くみたいだね」
「行ってみましょう」
今、デニスが誘導している女性が件の女性かは分からない。
しかし、確認する必要はあるだろうと、五人は揃って歩き出した。
「ところで、アイリーン。ゲームでデニスが保護して、その後、神殿預かりになる女性の特徴って覚えていないの?髪の色とか、瞳の色とか」
「髪や瞳の色ですか?・・・うーん。そこに居たとしか、記憶が無いです」
アシュトンに言われ、少し考えてみるも、へのへのもへじのようにしか思い出せないと、アイリーンは、謎の言葉を口にする。
「なに?へのへのもへじ、って」
「アイリーンは、時々、謎の言葉を発するよね。コロボックルとか」
きょとんとしてアイリーンにアシュトンが問えば、ブラッドフォードもおかしそうに笑いながら頷いた。
「ああ。コロボックル。アイリーンが、コロッポルの親戚みたいに思っていた、小人の一族のことだね」
あった、あったと言いながら、クリスも笑う。
「なんか、酷いですよ、みんな」
「どうする?このまま、デニスに声をかけるか?」
膨れるアイリーンに苦笑しつつ、距離が迫ったと、モーリスが判断を仰ぐ。
「いや。このまま付けよう」
「そうだね。それで神殿に行くようなら、要注意かな」
ブラッドフォードとクリスが言い、五人はデニスと女性に気づかれないよう、そろそろと、追跡を開始した。
「・・・おお。見事に、神殿に到着、と」
「うん。そして、ふたりは神殿に消えた、状態だね。現状」
「さて。じゃあ、デニスが出て来るのを待って、詳細を聞こうか」
アシュトンとクリス、そしてブラッドフォードが頷き合うのを見たアイリーンは、もうひとつ、確認したいことを口にする。
「デニスには、何か説明しますか?その、この後、怪我をするのは彼なので」
「うーん。アイリーンの言いたいことも、分かるけれど。説明するにしても、どう言うかが、問題だよね」
危険なのはデニスなのだから、と言うアイリーンに、ブラッドフォードが難しい顔になった。
「告げる必要は無い。現時点で、裏切りの確率が高いのは、デニスだからな」
「そうだね。告げることで、何か逃げ道を探されても難儀だしね」
「ゲームと違う展開を求めるにしても、僕達が望まない方に転んだら、事だしな」
「厄介ごとは、少ないに限る、ってことで!」
そして、四人に揃って言われ、アイリーンも頷く。
「そっか。それで、火災の時期や侵攻の時期が早まってしまったら、困るものね」
「そういうこと。でも、デニスが怪我をしないようには、しようね」
「はい。ブラッドフォード様」
そうか、そうすればいいのかと、活路を見出したように微笑むアイリーンの頭を、ブラッドフォードは、ぽんぽんと優しく撫でた。
ありがとうございます。




