十三、フレミング侯爵領 12、
「今のところ。デニスが、女性を保護したと言う記録は無い。ああ、もちろん。即日解決するようなものなら、あったが」
「うん。神殿に、そういった女性が滞在しているという事実も、無かったね」
「となると。長期保護対象の女性が、何処か他の場所に滞在していて、そこから神殿まで出向いて、恩あるデニスの看護にあたった、なんていう予測も出来るっちゃあ、出来るけど」
「未だ、その女性を保護していない、と考える方が、自然だろうな」
砦にある資料とこれまで纏めた情報を元に、この先の作戦を練ろうと、砦の一室に集まった五人。
そして、その話し合いのなかで四人が至った意見を聞き、アイリーンは、ほっと息を吐く。
「ということは。今年以降の記念日に、その女性は保護される、ということですね。あ、もちろん。大森林の火災が発生して、という、その一連の事件が起こるという、前提ありきですけれど」
「ん?アイリーン。ちょっといいか?前提は分かるが、今年以降とは?ああ。ここでも、三年の幅が存在するのか」
アイリーンの言葉に疑問を持つも、自身で正解に気づき、ため息と共に言ったモーリスに、アイリーンが、ぽんと自分の胸を叩いてみせた。
「大丈夫ですよ、モーリス様。既にその女性が存在するのなら、火災は今年と決まりですけれど、そうでないということは、幅があるということなのですから。より、余裕があるというわけです」
「アイリーンの言う通りだ。そして、そこから数えるとすると、大森林の火災はその女性が現れた翌年、そしてアキナスの侵攻は更にその先と予測できるから」
「正に、余裕で間に合う計算になるね」
アイリーンが言えば、ブラッドフォードとクリスも同意だと口を揃える。
「よっし。ぜってえ、間に合わせっぞ」
「頑張りましょうね、アシュトン様、ブラッドフォード様、クリス様、モーリス様」
「なんか。そうやって、ぼく達ひとりひとりに言う姿を見ると、カイルを思い出すね」
ひとりひとりにきちんと。
真横に座るブラッドフォードにも、きちんと向き直って言ったアイリーンに、クリスがくすくすと笑いながら言った。
「カイルかあ。俺達みんないなくて、寂しがってんじゃないか?」
「そうですね。こんなに長く離れることは、あまりないですから。実は、私も寂しいです」
アシュトンの言葉に、アイリーンが苦笑しながら答えれば、ブラッドフォードがすぐさま案を出す。
「何か、お土産を買おう。カイルが喜びそうな、とびっきりのお土産を。それを選んでいる間、何をあげようかと考えている間は、アイリーンも寂しくないだろう?」
「それなら。それこそ締結記念日には、アキナスの行商も入るから。その市を見て回るといい」
モーリスも付け加えるように言い、アイリーンは、はしばみ色の瞳を輝かせた。
「アキナスの行商。ということは、やっぱり野菜もあったりするんですか?」
「ああ。ある」
「うわあああ。それじゃあ」
「アイリーン。今は未だ夏だよ」
アイリーンがアキナスの何について、これほどときめいているのか気づいたブラッドフォードが、呆れたようにその騒めきを止める。
「夏でも、茄子はあります。むしろ、夏野菜ですしね。あ、でも。夏の頃の茄子が美味しいと、何かあったような」
「なんだよ、アイリーン。ちゃんと思い出せ。そういうの、すっげえ気になんだろが」
「そうだね。ぼくも気になるから。頑張って思い出して、アイリーン」
はて、と考え込むアイリーンに、アシュトンが催促の言葉を、クリスが応援の言葉をかけた。
「うーん。夏に食べた茄子が、秋の茄子のように美味しかったから、夏の気候のおかしさに気づいた・・?でも、それだと、夏に食べて夏の気候に気づくっておかし・・あ!そうだ、そうそう。初夏に食べた茄子が、秋の茄子みたいに美味しかったから、今年は冷夏になるって予測した偉いひとがいたんでした」
そうだった、そうだったと、満足そうに言うアイリーンに、四人揃って首を傾げる。
「冷夏って、なに?アイリーン」
「あ、はい。冷夏というのは、平年より気温の低い夏のことを言います」
代表して尋ねたブラッドフォードに、アイリーンは、お茶を淹れようと動きながら答えた。
「ちょっと待って!それって、作物・・稲が育たないってことでしょ!?冷夏って言い方は知らないけど、夏に気温が上がらないってことなら分かるよ!それなのに、なに、落ち着いてんの!」
「アシュトン。お前が落ち着け」
「そうだよ、アシュトン。それは、初夏の茄子が美味しいときだって、今アイリーンが言ったよね?」
「あ、そっか」
椅子を蹴り倒して立ち上がり、気色ばんで叫んだアシュトンに、モーリスとクリスが冷静な声を出せば、アシュトンも途端に冷静さを取り戻し、椅子を直してすとんと座る。
「驚かせてすみません」
「ほんとだよ。ああ。びっくりした」
大仰に萎れた様子で、アシュトンは、アイリーンが手渡すカップを受け取った。
「アキナスの市か。美味しい茄子が食べられるといいね。アイリーン」
「はいっ。それに、アキナスの品物や、フレミング侯爵領の飛び地の品物を見られるのも、すっごく楽しみです」
そんなアシュトンを気にもせず、ブラッドフォードが言えば、アイリーンは即座に満面の笑みを浮かべる。
「アキナスと交流があるのは、この飛び地だけだからね。ぼくも、興味があるかな」
「俺も。何かしら、うまいもんもあるだろ」
「ああ。楽しんで行ってくれ」
それぞれが期待に胸を膨らませる様子を見て、モーリスが静かに微笑み、そう言った。
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