十三、フレミング侯爵領 11、
「アイリーン。焦らなくていい。ゆっくりでいいよ」
自分の椅子を寄せ、ブラッドフォードが、そっとアイリーンに寄り添う。
「すみません・・・。ゲームでは、大森林の火災が発生してから数日後に大雨が降って、それでなんとか鎮火したのだろうと、予測されるんです。というのも、フレミング本領でも飛び地でも、その火災に気づいていなかったのです。大雨の後、数日経って、村の人々が戻らないと訝しく思って、森へ入って漸く知れるという事態だったのですが。当然フレミング侯爵領は大きな被害を受けて。それで、ヒロインとモーリス様は、領地へ向かうんです。何か、自分達にも出来ることがあるんじゃないか、って」
「火元は大森林の村。ってことは、ゲームでも大森林の村は出来てるってこと?大森林の入口で聞いた話じゃ、アイリーンありきで出来たっぽかったけど。違うのか?俺の勘違い?」
首を傾げて言うアシュトンに、アイリーンも、釣られるように首を傾げた。
「あれ?そういえば、そうでしたね。でも、ゲームでも村の痕跡を辿るという場面がありましたよ、そういえば」
「アイリーン?記憶が断片的なうえ、時系列も曖昧、っていうブラッドフォードの言葉を、今ぼくは、しみじみと噛みしめているよ」
「すみません」
クリスに困ったように言われ、アイリーンは素直に謝罪の言葉を口にする。
「いや、謝る必要は無い。きちんと村の形を取ってはいなかったが、彼らが作業時の宿とするような小屋がいくつかあったし、その周辺に井戸を作る許可も出していたから。そこを村と呼んだのだろう」
恐らくその場所のことなのだろうとモーリスに助け船を出され、アイリーンも、なるほどと頷いた。
「ゲームでは、ヒロインとモーリス様は、本領から大森林に入ります。その途中で、火元と言われる村・・場所を見るのですが。そこで、彼らがその場に居たからこそ、大森林の火災を食い止めることが出来たのではと推察するに至るのです」
「火元と言われていたのに、ということだね?」
「そうです。ブラッドフォード様。彼らは、大森林を覆う炎を少しでも沈めるため、木を切り倒し、井戸の水を懸命に運んだ。その動きのまま、誰かも分からないほどに焼かれて、息絶えていたのです」
そこでひとつ息を吐き、跳ねる鼓動を鎮めたアイリーンは、祈りを捧げるよう、瞳を閉じる。
「本領側ではなく、飛び地側に向かう場所で男たちと思しき遺体が、そうして、井戸から男たちの遺体がある場所まで、女性や子供と思われる遺体があったそうです。恐らく、皆で繋いで水を供給していたのだろうと。皆、自分が逃げることを考えず、森を守り、延焼を食い止めることだけを考えたゆえのことだと・・そう」
そこまで言って息を詰まらせたアイリーンの背を、ブラッドフォードが優しく撫でる。
「結果として、鎮火したのは大雨のお陰と思われます。けれど、大きな火が迫るなか、どれほど恐ろしい思いをしながら、愛する森を守るため、消火作業をし続けたのか。それが、あの大森林の村で出会ったみんななのだと思うと、犯人を、とても許せない気持ちになります」
「その悲劇を生む原因が、裏切り」
ハンカチで涙を拭うアイリーンを見つめ、モーリスが低く呟いた。
「デニス様は、未だ隻眼ではありませんでした。だとしたら、未だ間に合う。いいえ、絶対に間に合わせて、大森林を、大森林の村のみんなを守りたいです」
「もっぢろんだよ、あいりーん。そんなごと、なったら、あの村のっ、子たちが、井戸から懸命に、水を汲んで、火が迫って、ひっ・・来る恐怖に耐えて・・ひっ・・それで、さいごは・・ああああ。そんなのゆるぜないいい」
それまで黙ってアイリーンの話を聞いていたアシュトンが、滂沱の涙を流しながら首をぶんぶん振り回す。
「アシュトン。お前、カイルのしゃべり方の、可愛くないバージョンみたいになっているぞ。だが、我が領のことで、それほど胸を痛めてくれて、感謝する」
「アシュトン。ありがとう。アシュトンのお陰で、涙が止まったよ、ぼく。アイリーン。そうだよ、これからなんだから、泣くことはないんだよ。そんな悲劇は、絶対に防ごう」
「確か、デニスは不意打ちで怪我をするけれど、詳細は分からない、だったか」
ブラッドフォードが、以前聞いた話をすれば、アイリーンが深く頷いた。
「はい。それで、デニスを襲った武器は、矢だったことを思い出しました。普段行っている見回りの最中、矢を目に受けて、神殿に運ばれるのです。そして、そこでひとりの女性に手厚い看護を受けるのですが。その女性というのが、前年の記念日にデニスが保護した女性だったのです」
一気に覚醒したように話すアイリーンに、その場の全員が真剣に耳を傾けた。
ありがとうございます。




