十三、フレミング侯爵領 10、
「初めて本場で食べる、肉系パエリア。楽しみだわ。しかも、飛び地限定のものだなんて。それに、デザートもたくさん種類があるのね」
完璧な防音措置を施してあるという、モーリス自慢の個室に落ち着き、うきうきと注文を終えたアイリーンは、尚もメニュウを手放さず、嬉しそうに見つめたまま、表情を裏切らない、明るい声を出す。
「好きなだけ食べていいよ、アイリーン。何なら、僕と半分にする?そうすれば、たくさんの種類を食べられるだろう?」
「わあああ。ありがとうございます。ブラッドフォード様が、輝いて見えます。是非、そうしたいです」
「おいおい。ふたりとも、何の話を・・って。いや。好きなだけ食っていいけどさ。それに、俺も美味しそうだと思っているけどさ。ここに来た理由、忘れてない?本題も、ちゃんと覚えている?」
祈るように、うっとりとブラッドフォードに向かって手を組んだアイリーンに、アシュトンが、呆れたような声を出した。
「なんですか?アシュトン様。ここに来た理由・・あ」
「本当に、忘れていたのか」
「ごめんなさい、モーリス様。決して、飛び地のことを軽く考えていたわけではないのです。でも、メニュウを見たら、すべての思考が料理で埋め尽くされてしまって」
『美味しいものは正義であり、罪でもあるのね』と首を横に振るアイリーンに、クリスが提案だけどと、手を軽く挙げる。
「それとは別件なんだけれど。アイリーンは、いつもゲームの知識をブラッドフォードに話して、ぼく達にも話すかどうかの確認をしているみたいだけど、そのシステムを改変しないかなと思って」
「ゲームの知識。システム、改変。ブラッドフォード様」
予想だにしないクリスからの提案に、アイリーンは主要と思われる単語を抜き出して、そのままブラッドフォードを見た。
「おお。アイリーン。ブラッドフォードに丸投げする気だな?」
「自分の意見は?」
アシュトン、モーリスにも言われ、アイリーンは、困ったように指をくるくると動かす。
「丸投げ、自分の意見、と言われましても。ブラッドフォード様には、婚約した当時、私が覚えていた限りのことは話してあるんですけど。また、後から思い出したこととかもあって。己の記憶ながら、自分でも、繋がりがよく分からないことがあるんですよ・・色々抜けているというか、こう、こんがらがった感じがするといいますか」
くるくると回していた指を絡めて見せるアイリーンに、ブラッドフォードが口元を緩めた。
「確かに、前後不明で断片的な記憶も多いものね。でもまあ、二度手間になるっていうモーリスや、クリスの言いたいことも分かるから。今回、みんなでアイリーンの話を聞いてみて、それからどうするか決めるのでも遅くは無いと、僕は思うかな」
「おお。流石、婚約者は余裕だな」
「なるほど。アイリーンを一番理解しているのは、自分だという自信ということか」
「それじゃあ、アイリーン。さっき、誰について思い出したのか、聞かせてくれる?」
余裕のブラッドフォードを揶揄い、皮肉るアシュトンとモーリスに賛同しながら、クリスがそうアイリーンを促す。
「はい。思い出したのは、隻眼のデニスと呼ばれる騎士が居たことです」
「デニス?しかし、デニスは隻眼ではないぞ?」
アイリーンの言葉に、モーリスが首を傾げた。
「はい、それで。そこから色々思い出したこともありまして。まず、ゲームで、ヒロインがモーリス様と飛び地を訪れるのは、大森林の火災があった後なのです」
「それは、ぼく達も聞いたかな?つまり、その時には、彼は隻眼だったということか。ね、アイリーン。それって、いつくらいのことか分かる?」
「それが、分からなくて」
好感度にも依る、というのが大きいが、時期がよく分からないのだと、アイリーンは眉を下げる。
「大丈夫だよ、アイリーン。それで?他に思い出したことは?前に聞いたのは、森林火災のことと、秘密通路のこと、そして誰かが裏切るという話だったけれど」
「あ、はいブラッドフォード様。ゲームでは最初、火元は大森林の村だと言われていたんです。でも、ヒロインとモーリス様は、飛び地へ来る途中で寄った大森林の村の惨状を見て、それは誤りだったと気づくのです。だって、ほんとに・・っ」
その、痛ましい描写を思い出し、アイリーンは声を詰まらせた。
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