十三、フレミング侯爵領 9、
「ブラッドフォード様!私、飛び地の衣装を見てみたいな、なんて」
飛び地の砦に案内され、それぞれ泊まる部屋に荷物を置いて暫く。
アイリーンは、甘えるような声を出して、ブラッドフォードの元を訪れた。
「いいよ。行こうか、アイリーン」
なぜか、くすりと笑ったブラッドフォードは、それでも何も言わずに部屋を出る。
「いやいや。茶番が過ぎるだろ」
「アイリーンは、演技に向かないんだね」
「大根」
しかし、そこからいくらも進まないうち。
というか、各々の部屋の扉を開けて立っていたアシュトン、クリス、モーリスに行く手を阻まれた。
「え。どうして?」
「さっき、出迎えてくれたひとのなかに、見覚えのあるひとが居たんだよね?それか、気になるひと」
くつくつと笑いながらブラッドフォードに言われ、アイリーンは尊敬の眼差しをブラッドフォードに向ける。
「流石です!ブラッドフォード様!」
「いやいや。俺達も分かったから」
「うん。だから、こうしてアイリーンが動くのを待っていたわけだしね」
「二度手間になるだけだ」
それぞれに言われるも、アイリーンは難しい顔をした。
「でも。モーリス様にとっては、不愉快な話になると思うのですが」
「裏切者が出ると聞いているんだ。覚悟は出来ている」
『そのうえで、最善を尽くす』とモーリスに言われ、アイリーンは、それならと頷きを返す。
「では。どこでお話ししましょうか」
「砦ではない方がいいだろう。それこそ、街の散策のついでに」
モーリスの提案で、五人は飛び地の街へと繰り出した。
「結構、広いですよね」
「ああ。服飾品や雑貨を扱う店も揃っているし、市場や養鶏場もあれば、劇場もあるからな」
平地繋がりの隣国アキナスとの交流は、年に一度だけ。
同じフレミング侯爵領とはいえ、本領とは峻険な山に阻まれている。
そんななかでも、人々は楽しみを見出し、日々の暮らしを営んでいるのだと、モーリスは誇らしげに言った。
「それに今は、木版やパエリアをはじめとした物流が本領で盛んになったことで、山越えをしてでも、本領と行き来する商人も少なくなくなった」
『お陰で、峻険な山なのに、しっかりと馬が通れる山道が出来た』と言うモーリスは何処か楽し気で、アイリーンまで嬉しくなってしまう。
「色々な物が手に入るようになると、楽しみも増えるわよね。人もたくさん行きかって。素敵な街だわ」
「本当だよね。ほら、アイリーン。あそこに、山を見ながらお茶が出来る場所があるよ」
「ああ。確かにあそこは、絶景が臨める、が」
「今日は、流石に無理よね」
話そうとしている内容が内容だけに、テラス席は有り得ないと、アイリーンは物わかり良く諦めた。
「だから。時間が出来たら、僕と行こう。それなら、いいだろ?」
「はいっ!楽しみにしています」
アイリーンを誘うブラッドフォードを見て、クリス達は『そういうことか』と、生暖かい目で見つめる。
「それなら今日は、個室のある店に行こうか」
「そこ、ぜってえに声が漏れないか?」
「機密会合も、行う部屋だ」
きらりと瞳を光らせたアシュトンに、モーリスが『任せろ』と言わぬばかりに答えた。
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