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死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


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80/100

十三、フレミング侯爵領 8、



「・・・・・え。なにこれ」

 フレミング侯爵領の秘密の通路。

 その大森林側の入口に到着したとモーリスに言われ、馬から下りた五人は、まずは、入口に施されている目くらましの位置を教わった。

 しかし、ここが最初の難関。

 流石秘密通路と言うか、そうでなければ役目を果たせないと言うべきか。

 そこは、モーリスが居なければ、この場所に通路の入口があるなど、とても分かりようもないほど、複雑に雑木や雑草が入り組んでいた。

 それでも何とか五人で協力して、目くらましに使われていた雑木や雑草を退かし、現れた鉄扉を見て、アイリーンが呆然と呟いたのが、先の言葉。

「何、とは?アイリーンは、この秘密通路のことを知っていたではないか」

「そうだよ。だから、少数精鋭編成、ってか俺達だけでここまで来たんじゃん!なのに、その顔。まるで、屋外演習場を見たときの破廉恥みたいだよ」

 呆然と鉄扉を見上げるアイリーンを見て、モーリスが不思議そうに言い、アシュトンが笑いながら補足する。

「だって。峻険なる山に通された秘密の通路、っていうから。大きな岩が入口になっているのかなって思っていたんだもの」

「そうすると、開けるのが大変になってしまうよ、アイリーン。少人数では、とても無理だって、分かるよね?それでは、非常用なのに用を成さない」

「だから!『開けごま!』とでも言うのかな、って楽しみにしていたんです!ブラッドフォード様!」

 真剣な顔で、ブラッドフォードに言われたアイリーンは、これまた真剣な顔で言い返した。

「ん?開けごま、って言うと、どうなるの?」

 しかし、言われたブラッドフォードには意味が分からず、目で問われたクリスやモーリス、アシュトンにも分からない。

「岩の扉が、ごごごご、って動いて開くんです!」

 ついでに、アイリーンが、瞳をきらきらさせる理由も分からない。

「・・・もしかして、僕達が何もしなくても開くってこと?」

「もちろんです!そういう、言葉なんですから」

「「「「・・・・・」」」」

 自信たっぷりに言ったアイリーンに、四人は揃って絶句した。


「あれ?でもこの鉄の扉、どうやって開けるんですか?ドアノブとか取っ手がありませんけど」

 四人を絶句させ、暫し行動の自由を奪った自覚のないアイリーンは、鉄扉のあちらこちらを観察すると、そのまま首を傾げて言った。

「・・・変わった造りになっているんだ。ゲームの知識のあるアイリーンなら、知っているかと思っていたんだが」

 そんなアイリーンに何とか苦笑して答えたのは、このイベントの主役であるモーリス。

「ああ!そうなんですね。私、中の通路がすっごく広かったことは、よく覚えているんですけれど」

「他は、ブラッドフォードの話じゃないから、覚えてない?」

「・・・はい。すみません、モーリス様」

 残念そうなモーリスに、流石にアイリーンも申し訳ないと小さくなる。

「なあなあ、アイリーン。そんなんで、飛び地に行ったからって、何か分かるのか?」

「アシュトン様。それは、私が一番心配です」

 『大丈夫なのか?』と不安そうに問いかけるアシュトンに答え、アイリーンは、モーリスによって鉄扉が開かれるのを見た。

 その先には、数百のひとが入れるほどの空間が広がっているのが見える。

「それでもいいと言って、来てもらったのはオレなんだから。謝ることはないよ、アイリーン。では、行こうか」

「はい、モーリス様。ですが、この場所を造るため、多くの知恵と勇気、そして労力を必要としたことは、私にも分かります。フレミング侯爵領の祖先の皆さまに、心からの敬意を表します」

 そう言うと、アイリーンは通路の入口に向かって深く一礼した。




「あんな風にされると、怒れなくて困るね、モーリス」

「クリス。オレは、そもそも怒っていない」

「そうだよな!落胆しただけ、だもんな!」

 礼をするアイリーンに倣い、四人も礼をした後、再び馬に乗って空間に入ったところで、クリスがモーリスに囁き、アシュトンもそれに乗る。

「しかし、あんな風に祖先の苦労を偲ばれるというのは、いいものだ」

 そう呟くと、モーリスは空間の奥へと向かって馬を進めた。

「アイリーンも、罪作りだねえ」

「アイリーンが、何も気づいていないのが、せめてもかな」

 アシュトンとクリスも、そう呟き合ってモーリスを追う。

「この木の扉も、大きいわね」

「もの凄い木工技術だ」

「流石フレミング領ね」

 空間の先にある大きな木の扉を前に、アイリーンとブラッドフォードが感動したようにため息を吐いた。

「では、開ける」

 ひとり馬から下り、その扉に施されている特殊な鍵を開けると、モーリスは扉を押し開く。

「凄い広さだね」

「荷馬車も通れるようにと、造られたと聞いた」

 クリスが感心したように言えば、モーリスが答え、五人は馬を並べて飛び地への通路を進んだ。




「お戻りなさいませ、モーリス様。皆様、お待ち申し上げておりました」

 飛び地への出口を抜けると、そこにはフレミング領、飛び地の主要人物が揃って出迎えていた。

「叔父上、ただいま戻りました。そしてこちらが、話をしていたオレの仲間です」

 そう言って、モーリスが丁寧にひとりひとりを紹介しはじめ、最後となった自分の番の時には、アイリーンも一歩前に出て挨拶をする。

「アイリーン・ドレイクです。お世話になります」

「こちらこそ。モーリスがいつもお世話になっています」

 すると、モーリスの父の弟だという飛び地の砦の主ノーマンが、にこやかに挨拶を返してくれた。


 あれ?

 あのひと。


アイリーンは、ノーマンの隣に立つ人物に覚えがあるように感じて、眉間にしわが寄りそうになるのを堪えて考える。


 どこかで見た。

 どこで?


「ノーマン様の副官をしています、デニスと申します」


 っ! 

ああ!

 思い出した!

隻眼のデニス!

 隻眼じゃないけど!


 ゲームでは隻眼だったデニスが、その美しい両目を開いてアイリーンを見ている。

 その事実に、アイリーンは心のなかで叫んだ。




ありがとうございます。

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