十三、フレミング侯爵領 8、
「・・・・・え。なにこれ」
フレミング侯爵領の秘密の通路。
その大森林側の入口に到着したとモーリスに言われ、馬から下りた五人は、まずは、入口に施されている目くらましの位置を教わった。
しかし、ここが最初の難関。
流石秘密通路と言うか、そうでなければ役目を果たせないと言うべきか。
そこは、モーリスが居なければ、この場所に通路の入口があるなど、とても分かりようもないほど、複雑に雑木や雑草が入り組んでいた。
それでも何とか五人で協力して、目くらましに使われていた雑木や雑草を退かし、現れた鉄扉を見て、アイリーンが呆然と呟いたのが、先の言葉。
「何、とは?アイリーンは、この秘密通路のことを知っていたではないか」
「そうだよ。だから、少数精鋭編成、ってか俺達だけでここまで来たんじゃん!なのに、その顔。まるで、屋外演習場を見たときの破廉恥みたいだよ」
呆然と鉄扉を見上げるアイリーンを見て、モーリスが不思議そうに言い、アシュトンが笑いながら補足する。
「だって。峻険なる山に通された秘密の通路、っていうから。大きな岩が入口になっているのかなって思っていたんだもの」
「そうすると、開けるのが大変になってしまうよ、アイリーン。少人数では、とても無理だって、分かるよね?それでは、非常用なのに用を成さない」
「だから!『開けごま!』とでも言うのかな、って楽しみにしていたんです!ブラッドフォード様!」
真剣な顔で、ブラッドフォードに言われたアイリーンは、これまた真剣な顔で言い返した。
「ん?開けごま、って言うと、どうなるの?」
しかし、言われたブラッドフォードには意味が分からず、目で問われたクリスやモーリス、アシュトンにも分からない。
「岩の扉が、ごごごご、って動いて開くんです!」
ついでに、アイリーンが、瞳をきらきらさせる理由も分からない。
「・・・もしかして、僕達が何もしなくても開くってこと?」
「もちろんです!そういう、言葉なんですから」
「「「「・・・・・」」」」
自信たっぷりに言ったアイリーンに、四人は揃って絶句した。
「あれ?でもこの鉄の扉、どうやって開けるんですか?ドアノブとか取っ手がありませんけど」
四人を絶句させ、暫し行動の自由を奪った自覚のないアイリーンは、鉄扉のあちらこちらを観察すると、そのまま首を傾げて言った。
「・・・変わった造りになっているんだ。ゲームの知識のあるアイリーンなら、知っているかと思っていたんだが」
そんなアイリーンに何とか苦笑して答えたのは、このイベントの主役であるモーリス。
「ああ!そうなんですね。私、中の通路がすっごく広かったことは、よく覚えているんですけれど」
「他は、ブラッドフォードの話じゃないから、覚えてない?」
「・・・はい。すみません、モーリス様」
残念そうなモーリスに、流石にアイリーンも申し訳ないと小さくなる。
「なあなあ、アイリーン。そんなんで、飛び地に行ったからって、何か分かるのか?」
「アシュトン様。それは、私が一番心配です」
『大丈夫なのか?』と不安そうに問いかけるアシュトンに答え、アイリーンは、モーリスによって鉄扉が開かれるのを見た。
その先には、数百のひとが入れるほどの空間が広がっているのが見える。
「それでもいいと言って、来てもらったのはオレなんだから。謝ることはないよ、アイリーン。では、行こうか」
「はい、モーリス様。ですが、この場所を造るため、多くの知恵と勇気、そして労力を必要としたことは、私にも分かります。フレミング侯爵領の祖先の皆さまに、心からの敬意を表します」
そう言うと、アイリーンは通路の入口に向かって深く一礼した。
「あんな風にされると、怒れなくて困るね、モーリス」
「クリス。オレは、そもそも怒っていない」
「そうだよな!落胆しただけ、だもんな!」
礼をするアイリーンに倣い、四人も礼をした後、再び馬に乗って空間に入ったところで、クリスがモーリスに囁き、アシュトンもそれに乗る。
「しかし、あんな風に祖先の苦労を偲ばれるというのは、いいものだ」
そう呟くと、モーリスは空間の奥へと向かって馬を進めた。
「アイリーンも、罪作りだねえ」
「アイリーンが、何も気づいていないのが、せめてもかな」
アシュトンとクリスも、そう呟き合ってモーリスを追う。
「この木の扉も、大きいわね」
「もの凄い木工技術だ」
「流石フレミング領ね」
空間の先にある大きな木の扉を前に、アイリーンとブラッドフォードが感動したようにため息を吐いた。
「では、開ける」
ひとり馬から下り、その扉に施されている特殊な鍵を開けると、モーリスは扉を押し開く。
「凄い広さだね」
「荷馬車も通れるようにと、造られたと聞いた」
クリスが感心したように言えば、モーリスが答え、五人は馬を並べて飛び地への通路を進んだ。
「お戻りなさいませ、モーリス様。皆様、お待ち申し上げておりました」
飛び地への出口を抜けると、そこにはフレミング領、飛び地の主要人物が揃って出迎えていた。
「叔父上、ただいま戻りました。そしてこちらが、話をしていたオレの仲間です」
そう言って、モーリスが丁寧にひとりひとりを紹介しはじめ、最後となった自分の番の時には、アイリーンも一歩前に出て挨拶をする。
「アイリーン・ドレイクです。お世話になります」
「こちらこそ。モーリスがいつもお世話になっています」
すると、モーリスの父の弟だという飛び地の砦の主ノーマンが、にこやかに挨拶を返してくれた。
あれ?
あのひと。
アイリーンは、ノーマンの隣に立つ人物に覚えがあるように感じて、眉間にしわが寄りそうになるのを堪えて考える。
どこかで見た。
どこで?
「ノーマン様の副官をしています、デニスと申します」
っ!
ああ!
思い出した!
隻眼のデニス!
隻眼じゃないけど!
ゲームでは隻眼だったデニスが、その美しい両目を開いてアイリーンを見ている。
その事実に、アイリーンは心のなかで叫んだ。
ありがとうございます。




