十三、フレミング侯爵領 7、
「ああ。小鳥の鳴き声が、早朝って感じで素敵ね」
澄んだ空気を思い切り吸い込み、アイリーンは、心地よさそうに微笑んだ。
「早朝に、ふたりきり。馬で散歩をするというのも、いいね。アイリーン」
「いや待て。ふたりきりじゃねえし、そもそも散歩じゃねえからな?」
護衛も含め、結構な人数で馬を連ねているにも関わらず、なブラッドフォードの言葉に、アシュトンがすかさず突っ込む。
「はは。でも確かに、空気が気持ちいいね」
「私、大森林って、もっと鬱蒼としていると、勝手に思っていたのだけれど、違うのね」
朝日が昇り、木漏れ日を感じるようになって、神秘的でもあると、アイリーンはうっとりと呟いた。
「アイリーン。やっぱり、一緒に乗った方がよくない?」
朝日を浴びながら馬に乗るアイリーンから、ブラッドフォードは目が離せない。
ゆらゆらと楽しみながら馬に揺られるアイリーンは、危なっかしくもないのに、ブラッドフォードはやはりふたりで騎乗したかった思いを捨てらずにいた。
「そんなに心配ですか?ブラッドフォード様と、馬を並べて歩きたくて、一生懸命練習したんですけど」
「まさか。アイリーンの乗馬技術に、不安はないよ」
しかし、ブラッドフォードの願い空しく、アイリーンはそんな風に言って、しょぼんとしてしまい、ブラッドフォードは慌ててそれを否定する。
「ブラッドフォード。未だ諦めていなかったんだね」
「お前。ほんっと、アイリーン関係になると馬鹿になるよな。残念っていうか」
「大森林の村を出る時にも、その遣り取りはさんざんしただろうに」
アイリーンと馬に二人乗りがしたい。
それだけなのに、アイリーンに誤解させてしまい、ブラッドフォードは慌てた。
「じゃ、じゃあ、アイリーン。少し速く走らせて、ふたりで少し歩くというのは・・いや、冗談だよ」
流石にそれは単独行動が過ぎると自覚したブラッドフォードは、大きなため息を吐きながらも、自らその案を引き下げる。
「ブラッドフォード様。私、いつかブラッドフォード様とふたりで馬を並べて、領内を見て回るのが夢なんです」
「っ!それは、いいね。絶対に、そうしよう」
秘密を告白するよう、恥ずかしそうに言ったアイリーンに、ブラッドフォードは、すぐさま活力を取り戻して即答した。
そんなブラッドフォードを見て、クリス達が、またも苦笑する。
「『アーサーズ公爵子息を動かしたくば、ドレイク伯爵令嬢を落とせ』とは、よく言ったものだね」
「でも実は、逆も然りってこと、俺達は知っているんだよね」
「まあ、何にせよ。よく眠れたようでよかった」
大森林の村では、モーリス達が視察に来る時に使う宿舎に泊まったのだが、その建物にアイリーンが大きく興奮して『こんなロッジの宿泊施設があったらいいと思わない?』と、いつもの如くに目を輝かせ、色々な案を出し始めるという事態が発生。
そして、こちらもいつもの如く、ブラッドフォードはじめ四人もその話を興味深く聞いて、このままでは眠る時間がなくなると気づくまで白熱した。
「しかし、アイリーンは面白い。話し始めるのもアイリーンなら、いきなり寝なければと言い出すのも、アイリーン」
「確かに。いきなりなんだよな、いつも」
モーリスの言葉にアシュトンも頷き、クリスは、仲良く話しているブラッドフォードとアイリーンを見る。
「あの状態。既に、ふたりで歩いているみたいなもの、じゃないかなと思うのだけれど」
「言えてる。お得意の、ふたりの世界だな」
「いつものことだ」
アイリーンが、何かを指さし、ブラッドフォードが、それに答える。
ブラッドフォードが、何事かを囁き、アイリーンと笑い合う。
「まあ、飛び地に着くまでの自由時間のようなものかな」
「言えてる。事件解決の糸口探しだけじゃなくて、アイリーンは、飛び地でも何か面白いこと考えつきそうだもんな」
「ロッジの案だけでも、充分だ」
そんなふたりを見ながら、クリス達も、ゆったりと馬を歩かせた。
ありがとうございます。




