十三、フレミング侯爵領 3、
「アイリーンが行くというのなら、僕も一緒に行くよ」
アイリーンの視線を受けたブラッドフォードは、迷わずそう言った。
「ブラッドフォード様」
「アイリーンが、フレミング領の時計塔を見たいというのなら一緒に行くし、フレミング領で起こるかもしれない事件を未然に防ぎたいというのなら、一緒に行って協力するよ」
ブラッドフォードは当然だと言って、微笑む。
「ありがとうございます。心強いです」
「アイリーンは、僕の婚約者なんだよ?友人とはいえ、モーリスの領地にふたりだけでなんて、行かせないから安心して」
それこそ、王都の煩い噂好き雀たちに、好き放題囀られてしまうと、ブラッドフォードは茶目っ気たっぷりの仕草に、本気を覗かせて言った。
「ちょっと待って。ぼくも行くよ。王都の時には、みんなに助けてもらったんだから」
「俺の所は、事前回避できちゃったっぽいけど、当然、俺も行くから。秘密の通路なんて、わくわくする言葉を聞かされて、俺だけ除け者になんてするなよな」
クリスとアシュトンも当然行くと言い、結局五人とも、夏季休暇を使ってフレミング領へ行くことになった。
「アイリーン。他にもやることが多いと分かっているのに。更に忙しくさせて、すまない」
「モーリス様。私は、大丈夫です。それに、みんなと一緒にフレミング領へ行けるなんて、ちょっと楽しみなんです。事件が起こると言っておきながら、不謹慎ですみません」
律儀に頭を下げるモーリスに、アイリーンは小さく首を竦める。
「確かに楽しみでもあるよな。なあ、モーリス。アキナスの品も見られたりするのか?」
「ああ。行商が来るし、市も立つ」
「市かあ。今年は間に合わないけど、来年は、王都名物ひょうたん細工を売りに行けたらいいですね、クリス様」
ひょうたんの収穫は、夏まっさかりの頃だから、とアイリーンは来年に向けての皮算用を始めた。
「ところでさ。アイリーンは、隣国アキナスの名前をするっと出したけど。それは、勉強して知ったの?それとも、ゲームの知識として、最初から知っていたの?」
「ゲームの知識として、十二歳の時から知っていました」
アシュトンの問いに、アイリーンがさらりと答えれば、クリスもモーリスも意外そうな顔になった。
「え?そうだったの?ぼくはてっきり、勉強するうちにアキナスの名を知ったんだと思っていたよ」
「オレもだ」
「そういえば、三人とも出会いイベントは誰が誰だか分からないとか、言われたんだったっけ」
ブラッドフォードが、そうだったと愉快そうに言い、クリスたち三人が大きく頷く。
「そうだよ。俺なんて、最後まで思い出してもらえなかったんだからね!?それなのに、モーリスの領のことは・・・あれ?領の事件についての詳細は、覚えていないんだよね?それなのに、隣国の名前だけ憶えてたってこと?」
「だって、美味しそうな名前だったから」
「「「・・・・・」」」
話していたら食べたくなったと、うっとりするアイリーンを、三人はぽかんと眺める。
「アキナス。ええと、秋に食べる茄子はとっても美味しい、ってことで覚えていたんだって言っていたよ」
「ああ。そうなんだね」
「この上なく、アイリーンらしい理由だったな」
「言えている」
ブラッドフォードの追加情報に、三人は納得と頷いた。
「よっし。じゃあ、夏季休暇になったら、みんなでモーリスの領地に行くってことで決まりだな。ってことで、俺は腹が減った。今日は、何を食わせてくれるんだ?アイリーン」
「アシュトン。少しは、遠慮というものを・・とはいえ、ぼくも楽しみに来たんだよね」
「アイリーンの料理は、外れが無いからな」
「今日は、料理以外にも驚くと思うよ。ね?アイリーン」
アシュトンが明け透けに言えば、クリスとモーリスもそれに続き、ブラッドフォードが悪戯っぽく笑う。
「はい。楽しみにしていてください」
ブラッドフォードに笑顔で答え、アイリーンは、クリス達に部屋の移動を促した。
「え?今日は、ここで食べるんじゃないの?」
「はい。もう準備してありますので」
「そうなんだね。じゃあ、みんなでカイルを迎えに行こうか」
移動するなら、その途中でカイルと合流しようとクリスが言い、みんなもそれに賛成して歩き出す。
「アイリーン。カイルはまた、あれで遊びたいとか言い出すんじゃない?」
「言いそうです。すっごく気に入ったみたいで。あれで遊ぶのは駄目ですけれど、遊具として作ればいいんじゃないかと思っているんです」
ブラッドフォードが苦笑して言えば、アイリーンも打開策を考えていると答えた。
ありがとうございます。




