十三、フレミング侯爵領 4、
「ふたりして、何の話?」
少し困ったようでありながら、楽し気でもあるブラッドフォードとアイリーンにアシュトンが尋ねれば、クリスとモーリスも考えるような顔になる。
「もしかして、さっき言っていた、今日ぼくたちが驚く料理以外のことと関係しているのかな?」
「夕食の席で用意、使用するもので、カイルが遊ぶ、のか?」
「見たら驚くよ。料理の提供の仕方も独特なんだ」
一体、どういうことかと首を捻る三人に、ブラッドフォードが笑顔で答えた。
「へえ。想像もつかねえけど、カイルが遊びたくなるくらい楽しいんだな」
「アシュトン様。カイルは、未だ小さいですから」
苦笑して言うアイリーンに、モーリスが、ゆっくりと首を横に振る。
「アイリーン、よく考えてみろ。アシュトンの精神年齢は、カイルのそれと変わらない」
「てめっ、モーリス!」
「そこ、で、こうまさん、が、ひひん、とゆって、こやりしゃ・・こやぎしゃ・・こやぎさん、が、めえ、と、なきまちた」
そんなことを楽しく言い合っていると、前方からカイルの可愛い声が聞こえて来た。
「カイル!」
「おねさま!」
侍女と歩いていたカイルは、アイリーンの姿を見つけるや否や、ぱっと明るい笑顔を浮かべて走り出す。
「カイルー!可愛いけど、お邸のなかで走っては駄目よ」
「きょう、は、とくべつ!」
「もう。カイルは、特別ばかりじゃないの」
言いながら、アイリーンはカイルをぎゅっ、と抱きしめてから頭を撫で、みんなへと向き直らせた。
「おにさま、こんばんは」
「こんばんは、カイル」
「かいるだいにおうじでんかにたま、こんばんは」
「うん。こんばんは」
「あしゅにさま、こんばんは」
「おう。こんばんは」
「もりすにさま、こんばんは」
「こんばんは」
ひとりひとりに丁寧に向き合い挨拶をして、カイルは、にこっと笑う。
「おねさま、かいる、ちゃんと、できた!」
「上手だったわよ、カイル」
貴族との挨拶を勉強中のカイルは、満足そうにアイリーンの手を取って、大きく振った。
「かいる、くるくる、たのしみなの」
「くるくる?カイル、くるくる、ってなんだ?」
「んとね、てーぶる、くるくる、するの」
くるくると言いながら、その場で自分が回って見せるカイルは可愛いが、何を言っているのかは皆目見当もつかないと、アシュトンはカイルの体をひょいと抱き上げる。
「テーブルが、くるくるする?なんじゃ、そりゃ。意味が分からないぞー!」
「きゃあ!」
抱き上げられ、自分で回っていた時よりずっと早くに回転されて、カイルがはしゃいだ声を出した。
「カイルが言った通り、テーブルが回転するんです。まあ、百聞は一見に如かずということで」
アシュトンと同じように、不思議そうな顔をしたままのクリスとモーリスを促し、アイリーンは食事の用意が整った部屋へと案内して行く。
「こちら、れしゅ。どうじょ」
「え?夕食なのに、丸いテーブルで食べるの?」
「それに、なんか二段になっているけど、ありゃなんだ?」
「塗りがきれいだな」
楽しみが勝るのか、言葉があやしくなったカイルが、邸の住人らしくみんなを部屋へと案内すれば、すぐに様々な声があがった。
「こちらの上の段に、大皿の料理を乗せて、小皿に取り分けて食べるんです。その時、こうやって」
「かいる、ちたい!」
アイリーンの説明を隣で聞いていたカイルが、ブラッドフォードに抱っこしてもらって、実際にその部分に触れて、動かす。
「え。回るの!?」
「すっげえ、おもしれえ」
「なるほど、これで遊びたがるというのは、分かる気がするな」
「おお、おお。モーリスも精神年齢があ」
「カイル、もう充分よ」
くるくると、際限なく動かしそうになるカイルを止め、アイリーンは子供用の椅子に座らせた。
「かいる、これ、のりたいの」
「これに、乗るのか?カイルなら、乗れるか。いや、乗れるもんなら、俺も乗ってみたい」
自分はそこに居るだけで、くるくる回るのは楽しだろうとアシュトンが言えば、クリスとモーリスも話に乗る。
「面白そうだね」
「アイリーン。何か考えがあると言っていなかったか?」
「うん。これのもっと大きいのを作って、そこに、馬とか馬車の造り物を載せて、そこにひとが乗る遊具を作れたらいいな、って思って。あとは、ティーカップにして、自分でも回転できるようにするとか」
ただ問題は、動力をどうするかだと言うアイリーンに、ブラッドフォードも難しい顔で頷いた。
「大規模なものは、難しいよね。でも、家で遊ぶ程度のものなら人力でも充分動くだろうから。その線で考えているところだよ」
「馬に引かせたらいいじゃねえか。馬車の造り物なんだろ?」
アシュトンがそう言ったところで、料理が運ばれて来て、全員の目が向く。
「とりさん、の、おうちの!」
「カイル、気に入っているものね」
春雨を揚げて鳥の巣を模し、そこに料理を乗せたものを見てカイルのテンションが上がるのを見て、ブラッドフォードも楽しそうに笑った。
「僕も好きだな。見た目もいいよね、カイル」
「うん!それに、おいし!」
二段の上の方に、幾つか料理が乗せられたところで、給仕が一旦去って行く。
「では、取り分けましょうか。これから、このテーブルを回すので、ご自分でお取りください」
「かいる、ちたい!」
「いいぞ。こぼさないよう、気をつけてな。ゆっくりでいいから」
「へえ。自分で取るなんて、新鮮だな」
「アイリーンは、クリスには失礼になるんじゃないか、って気にしていたんだよ」
「そんなことで、ぼくを仲間外れにしようなんて。アイリーンは、ひどいな」
ブラッドフォードに言われ、楽しそうに料理を取っていたクリスが、拗ねたようにアイリーンを見た。
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