十一、フレミング侯爵領に忍び寄る危機 3、
「この状況。さっきの逆ね」
すっかり固まってしまった三人を見て、アイリーンが満足そうに笑う。
「うちの領の森が燃やされると言ったな、アイリーン。どの辺りだ?」
「隣国アキナスに面している方よ」
「あちらか。しかし、あそこは」
大森林を抱える領地の子息らしく、モーリスは素早く地図を展開し、言葉を切った。
うーん
ここで話すのはまずいのかな。
ゲームの知識を話すだけだからとはいえ、フレミング領としては、他領に知られたくないことだったかも。
「モーリス。この件には、フレミング領の秘密も多分に含まれていると思う。だから、アイリーンは、この場で話してもいいか迷っているんだ」
「はいいぃ!?俺んところの時は、コロッポルの乱獲なんておっそろしい秘密を、ぽろっと言ってくれちゃいましたけど!?」
先にアイリーンより話を聞いているブラッドフォードが言えば、アシュトンが目を見開いて抗議した。
「コロッポルの秘密を、ぽろっと」
「アイリーン。笑うところじゃないからね?」
「すみません」
「分かれば、よろしい」
思わず言葉遊びのようだと思い、口元を緩めてしまったアイリーンに、アシュトンがわざとらしく厳しい声を出す。
「本当にごめんなさい。言い訳させてもらえるなら。あの頃、私、本当にコロッポルのことを知らなかったのよ。でも、あれから色々勉強して、流石にみんなの領地のことは分かるようになったから」
「アイリーンは、アーサーズ公爵領の事業にも、既に大きく関わっているしね。領のみんなから、次代の公爵夫妻も安心だ、って言われているんだよね」
十二歳のあの頃より、流石に分別も知識もついたというアイリーンに、ブラッドフォードが嬉しそうに付け加えた。
「あー、はいはい」
「本当に、ブラッドフォードは変わったよね。それで?モーリス。ぼくたちが居ない方がいいのなら、席を外すけれど?」
そんなブラッドフォードにアシュトンが呆れたような声を出し、クリスも、同意しつつもモーリスの意見を求める。
「聞いて構わない。というか。もう、うちの領に、秘密の何かがあると、ふたりとも知ってしまったじゃないか」
「あ」
モーリスに指摘され、アイリーンは、思わず口を開けた。
「大丈夫だ。アイリーンが、わざと、この場で発言をしたとは思っていない」
「なんだよ、モーリス。その目は。まるで、僕は、この場で話し始めると、秘密に関することに触れると、クリスやアシュトンに気づかれると、分かっていたみたいじゃないか」
しれっと答えるブラッドフォードにため息を吐き、モーリスはアイリーンに向き直る。
「それで?あれが、関連するということは。その森林火災、自然発生というわけでは、無いのだろう?」
「うん、そう。フレミング侯爵領の飛び地。あそこからの秘密通路が暴かれてしまうの。そのうえ、アキナス軍を領内へ引き入れてしまうのよ」
モーリスの言葉にこくんと頷き、アイリーンは、そう説明した。
「アイリーンの知識は、恐ろしいな。飛び地への秘密通路など。オレも近頃、教えてもらったばかりだ」
「嫡男のモーリスでさえ、そうなのね。あの地形で、あの抜け道は、ちょっと考えづらいわよね」
フレミング領の飛び地。
便宜上そう呼ばれているそこは、大森林地帯を抜けた先にある、峻険な山を更に越えた場所で、隣国アキナスとの国境にあたる。
それゆえ、飛び地を取られることがあっても、その山を越える前に防ぐことが出来るという地の利が、アンブラー王国にはあった。
「いざというとき、飛び地の領民が逃げられるようにって、トンネルを作るなんて。フレミング家のご先祖様は素敵ね」
「使うことがないに、越したことはないと思ったが」
まさか、隣国の侵攻の足掛かりにされるとはと、モーリスは難しい顔になる。
「アイリーン。今の話によると、かなりの秘密事項みたいだけど。いったい、誰が裏切るの?名前は?地位は?」
「うん。飛び地の、偉い人よ」
「「「・・・・・」」」
堂々と言い切ったアイリーンに、三人は何とも言えない顔になった。
「アイリーンが言うには、飛び地内で何か問題があって、神殿が絡むことになるそうだ。その時の騎士が、裏切るらしい」
「・・・・・飛び地で問題があって、対処する人間」
「モーリス。飛び地にある砦の指揮官は、たしか叔父上だったよね?」
クリスに確認され、モーリスは頷きを返す。
「ああ、そうだ。しかし、叔父上が裏切るなど、絶対に有り得ない。たとえ、天地が入れ替わっても」
「だとすると、叔父上に近しい存在ということか?」
「・・・・・確認は、取る。何か連絡があれば、また、よろしく頼む」
苦渋の表情を浮かべ、モーリスは、アイリーンにそう言った。
ありがとうございます。




