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死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


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62/66

十、標的 7、



「このような幼い子を悪し様に罵って。あまつさえ、暴力を振るうだなんて」

 王妃陛下の言葉に、後ろに続く貴婦人たちからも厳しい視線を向けられるも、ギャレット侯爵夫人もヒル男爵夫人も怯む様子は微塵も無い。

「恐れながら、そのような事実はございません」

「ございません」

 むしろ、ギャレット侯爵夫人は真っすぐに王妃陛下を見返して傲岸な態度で答え、ヒル男爵夫人も、口元にいやらしい笑みをたたえてそれに続いた。

「おうひ、しゃ・・さま。おはなし、する、きょか、を、くださ」

「まあ、さもしい。こんな小さな頃から、王族に(おもね)る術を知っているなんて」

「親が親なら、ということですわね」

「恥知らずなのね」

「馬鹿だから、しょうがないんだって」

 緊張からか、少々たどたどしくはあるものの、きちんと礼を通すカイルを、ギャレット侯爵夫人とヒル男爵夫人が卑しめ、アンドレア達令嬢もホレスも揃って嘲笑う。

「まあ。何をおっしゃいますの?王妃陛下に発言の許可を求めるのは、当然のことでしょうに」

 王妃陛下の後ろに居る夫人のひとりが眉を顰めて言えば、まさか、こんな初歩的な礼儀作法も身に付いていないのかと、驚きが広がった。

 因みに、この王妃陛下の一陣には、ドレイク伯爵夫人もアーサーズ公爵夫人も居ない。 

 まずは、身内が関わらないことで公平性を示すこと、そして、この問題が既に当該家同士の話し合いで済む範疇を越えているという意思表示でもあった。

 尤も、今回の場合、王家さえも当該家となるので、ギャレット侯爵家、ヒル男爵家の受ける被害は計り知れない。 


「本当に、嘆かわしいこと。カイル、発言を許可します。ここで何があったのか、何を言われたのか、説明できますか?」

「はい、おうひ、しゃ・・さま。こちらの、ごふじんがた、が。かいる、の、おねさまと、おとさまと、おかさまの、こと。うそつき、いったの・・れす。しょ・・そのような、じじつ、は、ないに、も、かかわりゃ・・りゃ?じゅ・・・れす」

 言葉は未熟ながら、首を傾げそうになるのを堪えて話す、その凛とした立ち姿を見て、アイリーンは、カイルの覚悟を思って胸が熱くなる。

『きょう、は、かいるの、おはなし、きいてくれゆかも』

 一度、酷い態度を取られたのに、カイルはそこで切り捨てると騒がず、再びの機会を持つことを望んだ。

 しかし結果は、カイルの望むようにはならず、同じように貶されることになってしまった。


 カイルは、残念だったでしょうに、立派だわ。

 私なら、初回で速攻怒り狂っているでしょうね。

 まあ、態度に出したら負けだから、そこは堪えるけど。

 ・・・あれ?

 それって、私よりカイルの方が、一枚上手ってこと?

 はあ。

 カイルが嫡男で、本当に良かった。


「アイリーン嬢。そろそろ、わたくし達の出番ですわね」

 もしかして、自分よりカイルの方が懐が深いのではないかと思い至り、アイリーンが、伯爵家を継ぐのが自分でないことを、自分のためにもドレイク伯爵家のためにも幸福だったと感謝していると、アイリーンと共にカイル達を見ていたメロディ達が動き出す。

「王妃陛下。こんな、未だまとも話すことも出来ない子供の言うことを、真に受けるというのですか?証人も無しに?そのような愚行を、王妃陛下が?」

 そして聞こえて来る、侮蔑を含んだギャレット侯爵夫人の声。

 それは、臆さず告げたカイルへの嘲笑であり、それを真面目に聞くなど愚の骨頂と、王妃陛下へ対する侮蔑をも含む態度で、王妃陛下に従う夫人たちは、余りの愚行に息を呑んだ。

 しかし、ギャレット侯爵令嬢やヒル男爵夫人、ホレスやマドリン達は、ギャレット侯爵夫人と同じく、カイルを嘲笑し、王妃陛下を軽んじる笑みを浮かべている。

「王妃陛下。発言の許可をくださいませ」

 そこへ、メロディ達令嬢と子息達が到着し、揃って貴族の礼を取った。

「許可します」

「感謝します、王妃陛下。先ほどのお話でございますが、証人なら、ここに。わたくしたち、そちらで聞いておりましたので」

「はい。何とも酷い言いようで。酷い言葉で幼い子を責めたてているようでしたので、すぐにも出ようかと思ったのですが」

「一応は、様子見ということで、皆で見守っていました」

 次々述べられる証言に王妃陛下が頷くのと反対に、ギャレット侯爵夫人は、目を吊り上げて抗議する。

「なっ。覗き見なんて、はしたない!うちのアンドレアを見倣いなさいな、あなたたち!」

 しかし、叫んだ途端に、周りの空気が白けた。

「まあ、ギャレット侯爵令嬢を、ですか?」

「失礼ながら、何を、見倣ったらよいのでしょうか」

「確か。礼儀作法の最初の試験。なかなか合格できずにいらしたかと」

「ああ。わたくしも聞き及んでおりますわ。然程難しい内容でもありませんでしたので、侯爵家のご令嬢が?と、耳を疑いましたもの」

 令嬢達から口々に言われ、アンドレアは、ずいと一歩前に出た。

「あたくしは、侯爵家の人間だから、本来試験など受けなくていいのよ。それを、見本も必要だからと、大きな心で受けてあげているというのに。勘違いも甚だしいわ」

「え。本気で、言っていらっしゃいます?」

 思わず素で驚いたメロディの言葉に、アンドレアは力強く頷きを返す。

「もちろんよ。あたくしは、侯爵令嬢なのですからね。そんな特別なあたくしのことより、アイリーンでしてよ。あれでどうしてSクラスなのか。不正以外に考えられませんわ。皆さんも、そう思いますでしょ?ですので、あたくしたちで」

「「「「「不正など、思いませんわ」」」」」

 揚々とアンドレアが提案するより早く、令嬢達は一丸となってその言葉を発した。


ありがとうございます。

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