十、標的 6、
「ほんっとうに生意気な子よね。あの忌々しいアイリーンにそっくり」
そう言って、ギャレット侯爵夫人と共に現れたのはアンドレア・ギャレット侯爵令嬢。
ブラッドフォードとアイリーンの婚約式で騒ぎを起こしたことを正式に抗議され、協力した両親と共にひと月の謹慎、及び終生に渡るアーサーズ公爵家及びドレイク伯爵家への接近禁止を申し付けられたことを不服に思っているとは、アイリーンも聞き及んでいる。
でも、凄いわ。
今でも、あの時の子爵家の令嬢ふたりはしっかりと取り巻きとして存在しているし、あの元ソープ子爵令嬢を侍女として傍に置くなんて。
何か、策略があるのかもしれないわね。
「アイリーン。あんなのは、他に居場所が無いから一緒に居るだけであって、何か深い意味を持つ集団ではないよ?」
そんなアイリーンの思考を読んだように、ブラッドフォードが真顔で言った。
「そ、そうでしょうか。それにしても、王妃陛下は凄いですね。ギャレット侯爵夫人は、絶対にあの薔薇の小径から来ると言い切っていらしたではないですか。本当に、その通りでしたわ」
この計画を練るにあたり、最終的にギャレット侯爵夫人も出て来てもらうためには、どのような布陣にしたらよいかという疑念に対し、王妃陛下は、あっさりと、そして、他など有り得ないと、きっぱりと言い切った。
『あの庭園で行うなら、薔薇の小径よ』
それは、未だ現在の国王陛下と王妃陛下が婚約する以前のこと。
当時の王妃陛下・・現在の王太后主催で、ある日、王城のひとつの庭園にて茶会が開かれた。
そこには、現在の王妃陛下・・当時のシャーリー・グローヴァー公爵令嬢はじめ、現ギャレット侯爵夫人となっているエース伯爵令嬢も来ており、その際、薔薇の小径を歩いている自分を、現国王陛下・・当時のギルバート王太子殿下が熱く見つめていたと、大騒ぎをしたのだと言う。
エース伯爵令嬢は、貴族院でギルバートに絡もうとしていたこともあり、このまま自由に叫ばせては、ありもしないことを事実のように広めることは確実と、当時の王妃陛下は息子である王太子殿下を呼び寄せた。
『申し訳ありません。シャーリーが、楽し気に薔薇と戯れているのが、何とも美しく、可愛らしく。バルコニーから、覗きのような真似をしてしまいました』
庭での騒ぎ・・エース伯爵令嬢の叫びを伝えないままに呼び寄せられたギルバート王太子殿下は、そう言って照れくさそうにシャーリー公爵令嬢を見たのだと言う。
「ギャレット侯爵夫人にとっては、思い出の薔薇の小径、なのだろうね。今でも」
「ええ。ご自身の思い出だけなら、良いのでしょうけれど」
聞けば、家格のこともあって、ギルバート王太子殿下とシャーリー・グローヴァー公爵令嬢は、子供の頃からの付き合いであり、ギルバート王子は立太子する前から結婚相手にシャーリー・グローヴァー公爵令嬢を望んでいたというのだから、ギャレット侯爵夫人の出る幕など無い。
「ばらの、こみち」
そちら側から、恐らくは新たな相手がやって来ると聞かされていたカイルは、納得と言わぬばかりに頷いた。
「あら、そうよ。薔薇の小径。この思い出を汚すなんて。お前のこと、消してやろうかしら」
「お母様。それなら、アイリーンごと、いいえ。ドレイク伯爵家ごと潰しましょうよ。この子供が、あたくしたちに不敬を働いたと言えば、皆様信じてくださるわ」
「まあ。それはいいですね。あのアイリーンに、煮え湯を飲ませてやりたいですわ」
ギャレット侯爵夫人、ギャレット侯爵令嬢に続いて、マドリンも、にんまりとした笑みを浮かべる。
「じゃあ。俺が蹴り倒してやるよ・・っ」
「王家の庭園で、何事かしら」
言いざま、ヒル男爵子息ホレスがカイルを蹴ろうとし、アイリーンがぴくりと動くと同時、華やかな声がして、王妃陛下が現れた。
「かいる・どれえ・・・どれいく、が。おうひさま、に、ごあいしゃ・・さつ、もうし、あげ、まし」
可愛い動きでホレスの蹴りをぴょんと躱したカイルが、丁寧に頭を下げて挨拶する。
「まあ。ご挨拶、ありがとう。カイル」
そして王妃陛下もまた、カイルを見て丁寧に挨拶を返すも、カイル以外の誰も、挨拶をしようとしない。
「ドレイク伯爵家を貶めようとする者は、礼儀も知らないようね」
ばさりと扇を靡かせて、上から睨めつけた王妃陛下に追従するよう、後ろに続く婦人方が大きく頷いた。
ありがとうございます。




