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死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


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58/60

十、標的 3、



「そうか、アシュ兄様は格好いいか!」

「うん!」

「モーリス兄様も、と言ったな?」

「うん!いったよ!」

「ぼくのことも、言ってくれたよね?」

「はい!くりすだいにおうじでんかにたま」

 三人に次々に尋ねられ、満面の笑みで答えるカイルを安心したように見つめ、ブラッドフォードが、そのぷくぷくとした頬をつつく。

「でも。一番は、僕だよね?」

「ブラッドフォード。そんな、答え難いこと言わないように。それにしても、ぼくだけ、はい、と答えるんだね。ちょっと寂しいな」

「え。あ、あの。ごめんなさ。れ・・でも・・あ。おにさま。かいる、おにさまのこと、すごく、かこいいおもう・・よ?」

 クリスに寂しそうな笑顔を向けられ、困ったように視線を彷徨わせたカイルは、そこにブラッドフォードの何か言いたげな瞳を見つけ、更に困ったように首を斜めにして言った。

「クリスもブラッドフォードも、カイルを困らせんな。子供かよ、お前ら」

「まったくだ」

 言いつつ、斜めになり過ぎて転がりかけたカイルを元に戻したアシュトンとモーリスが、呆れたようにクリスとブラッドフォードを見る。

「だって、ぼくだけ。寂しいじゃないか」

「クリスは、王子殿下なんだから、仕方ないだろ。俺達だって、公の場では気遣うじゃないか。カイルは未だ幼いんだから、常日頃から、って、ドレイク伯爵夫妻だって気にするところだろうが」

 アシュトンに言われ、それでも未練を残した様子でカイルを見やるクリスに、ブラッドフォードが、ふむと頷いた。

「それでいくと。カイルが僕を一番格好いいと思っても、義理の兄なのだから仕方ないということだね」

「ブラッドフォード。おまえ、たまに残念になるよな」

 そんなブラッドフォードの肩を叩き、モーリスが心底『それさえなければ』と言う目を向けて首を横に振った。

「あ、あのね!おねさまの、あまいさんどいち、ほんとに、おいし、んだよ」

 その場に流れた、何ともいえない空気を感じたらしいカイルが、四人を見ながら明るい声を出す。

「お、そう言っていたな。どんなサンドイッチなんだ?」

「ぼくにも、教えてくれる?」

五歳児の懸命な話題変換に、アシュトンとクリスが即座に乗った。

「うんとね。あまくて、ふわふわで、ちょっとすっぱい、で、きれいなの!」

「甘くて、ふわふわで、ちょっとすっぱい?」

「そのうえ、きれいなのか」

 カイルの説明に、クリスとアシュトンが首を捻り、モーリスも想像がつかない様子で、カイルを見守っている。

「そう!すっごく、ふわふわで、かいる、しあわせー、ってなるの」

「ああ。言いたいことはよく分かるよ、カイル。あれを食べると、そうなるよね」

「ね!」

 両頬を押さえて、幸せ具合を表現するカイルは可愛いが、どんなサンドイッチなのか検討もつかない様子の三人を横目に、ブラッドフォードは知っている者の余裕で、カイルの会話に参加した。

「あ。その勝ち誇った態度。知っているからって、ずるいぞ、ブラッドフォード」

「まあ、いいじゃないか。もうすぐ実物を見られるし、食べられるよ」

「猫のケーキの時のようだな。楽しみだ」

 早く内容が知りたいアシュトンと、待つ時間も楽しむクリスとモーリス。

 そして、カイルと何やら手遊びをし始めたブラッドフォード。

「階段(のぼ)ってー・・こちょこちょ!」

「きゃあ!おにさまも、こちょこちょ!」

 何のことはない。

 自分の指二本を人の足に見立てて、相手の腕を上って行くような動きをしている、だけなのだが、カイルははしゃいで、とても楽しそうに見える。

「え。カイル!俺にも教えて!」

「ねえ。今度、孤児院で一緒にやるのはどうかな?」

「加減が、難しそうだ」

 結局、全員参加で遊んでいると、アイリーンの方の支度が整ったと侍女が声をかけて来た。



「へえ。ほんとにふわふわだ」

「それに、甘くて、酸味もあって、というのも納得だね」

「なるほど。クリームと果物のサンドイッチか」

 初めてフルーツサンドを食べるクリス、アシュトン、モーリスは、感心したように見つめ、触感を楽しみ、味を確かめている。

「おいし?」

「ああ。すっごく旨い!」

「うん。とても美味しいね」

「美味しい」

 にこにこと食べながら聞いたカイルは、三人の答えに嬉しそうにアイリーンを見た。

「おねさま、おいし、うれし、ね」

「よかった!カイルが、みんなが喜んでくれて!」

 アイリーンは、何よりカイルに満面の笑みが戻っていることを喜び、ブラッドフォード達に感謝の視線を向ける。

「本当に美味しいよ、アイリーン。なんだっけ?美味しいは正義、だっけ?」

「可愛いも、美味しいも、正義ですよ!ブラッドフォード様!ねえ、カイル!」

「おねさま、かあい!」

「カイルも可愛いわ!」

 きゃあきゃあと抱き合う姉と弟を見ていたブラッドフォードは、ゆるりとふたりの後ろに立つと、ふたりを両腕に囲い込んだ。

「お、なら俺も!」

 そして、そこにアシュトンも参戦し、場は賑やかな空気に包まれた。




ありがとうございます。


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