九、王都の闇 1、
「ブラッドフォード様。ゲームのイベントのひとつ、王都で発生する疫病のことなんですけど。私、イベントに関係なく、そういった原因があるのなら、病気が発生する前に取り除いたらいいんじゃないかと思うんです。まあ、出会いイベントが成立していないので、起こるかどうか分からないんですが、原因があるなら起こる可能性はあるかなと思って」
貴族院の休日。
ドレイク伯爵邸のテラスでブラッドフォードとお茶を楽しんでいたアイリーンは、青い空を見上げてそう言った。
それまで、化粧水など基礎化粧品の大切さ、を熱心に語っていたアイリーンの、突然の話題変換に、ブラッドフォードは面食らってしまう。
「わあ。ブラッドフォード様。その、目をぱちぱちするの可愛いです」
「うん。そういうことで目を輝かせても、アイリーンが可愛いだけだから。で?アイリーン。それは、疫病の発生原因を絶つ、って話なのかな?それならもちろん、とてもいいことだと思うけど。どうしたの?急に」
基礎化粧品の話から、何がどうしてその思考に至ったのかとブラッドフォードに問われ、アイリーンは己の思考回路を披露する。
「はい。ゲームでは、ヒロインがこうやって青空を見上げて『何でもない日に感謝』と思う、その同じ青空の下で恐ろしい病が忍び寄っていた、という場面から王都の疫病イベントが始まるので。それに、疫病が本当に流行れば、体力のない小さな子供や老人が最初の犠牲になります」
大人より弱い存在。
ゲームの時には、小さな子が多く犠牲になるのを可愛そうだと思いはしても、これほど深刻にはならなかったと、アイリーンは手元のカップを見つめた。
「カイルが心配?」
「・・・たくさんの人の命がかかっているときに、薄情だとは思うんですけど。カイルが苦しい思いをするかもと思うと、居ても立ってもいられない気持ちになります」
しゅんとしてしまったアイリーンの傍に寄ると、ブラッドフォードは優しくその肩をぽんぽんと叩く。
「それは、普通の感情だよ。それじゃあ、アイリーンの心配を根絶する方向で動こうか」
「ですが。前にも言った通り、私、疫病の発生原因を覚えていないんですよね」
疫病は起こしたくない、けれど原因は覚えていないと、アイリーンは途方に暮れる。
「そう言っていたね。じゃあ、まずはどうしようか」
「王都で疫病が一番発生しそうな場所に、行ってみようと思います」
アイリーンのその言葉に、ブラッドフォードが目を見張った。
「それって、貧民街に行くってこと・・ああ、でも確かにそうだよね」
この王都で、一番病原菌がある場所といえば、無法地帯となっているそこしかない。
「まず、貧民街の現状を見て、考えてみるのがいいかなと思います」
「となると、僕達だけで勝手に動くわけにはいかないね」
というわけで、ふたりでそれぞれの両親に説明をした結果、王家も巻き込んでの視察が行われることになった。
もちろん、お忍びの形で内密に。




