八、野外バーベキュー 6、
「先生!こっちです!」
その時、また別の声がして、どこかの生徒が教師を引っ張って来るのが見えた。
あれは、Aクラスのひとたち。
あ!
メロディ嬢!
刺繍のとき、合同で授業を受けているメンバーの顔を見て、アイリーンは目を瞬かせる。
最初の授業で声をかけてくれたヘイル伯爵令嬢であるメロディをはじめ、仲良くなったAクラスの令嬢達が心配そうにアイリーンを見ていて、心がほっこりあたたかくなった。
「え。ゴールトン」
そしてそれはブラッドフォードも同じだったらしく、同じく目を丸くして自分へと近づいて来る生徒を見つめている。
「何きょとんとしているんだよ、アーサーズ。困っていそうだから先生を呼んで来たのに。不要だったか?」
「いや、助かったよ。ありがとう」
片目をあげて、わざとらしく言う彼に、ブラッドフォードは素直に礼の言葉を口にした。
「アイリーン嬢。大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫ですわ。けれど、とても助かりました。ありがとうございます」
アイリーンの言葉にほっとしたように頷いて、メロディはゴールトンを見た。
「早く、収束させていただきましょう?ゴールトン侯爵子息」
「そうだな。先生に、さっさと回収してもらおう」
互いに頷き合うふたりをはじめ『その通りです。さっさと仕事してください』と言わぬばかりの視線をAクラスの面々から浴びせられ、問答無用と連れて来られた教師が肩を竦める。
「お前ら。人使いの荒い・・・えーと。それで?ここはSクラスの陣地なんだな?」
「はい、そうです」
『いつから、バーベキュー会場は陣になったのだろう』と思いつつ、アイリーンは受け答えをするブラッドフォードの声を聞く。
その半歩前にはクリスが居て、ブラッドフォードと並ぶようにアシュトンとモーリスが立っている。
これが、クリス第二王子と側近たち。
クリス王子殿下の意を受けて、ブラッドフォード様が代表でお答えをする、の図ね。
う、麗しい。
それに、声も素晴らしいわよね。
最近では、推しというより婚約者、ゲームの攻略対象というより友人という感覚も強いアイリーンだが、こうして凛々しく並んでいるのを見ると、やはりスチルが欲しいと思わずにはいられない。
それはもう、写真に収めて、素敵な額に入れて、大切に飾りたい尊さ。
そしてもちろん、毎日柔らかな布で埃退治をするのだ。
はあ。
私ってば、煩悩が強いのかしら。
「まあ。まるで絵画のよう」
「ええ、本当に。皆様お麗しいですわ」
「こうしてお姿を拝めるなんて、眼福というものでしてよ」
ほぼ毎日、彼らの姿を間近で拝んでいるというのにとも思うが、耳を澄まさずともそういった声が、うっとりとしたため息と共に漏れ聞こえるので、自分ばかりの感情でもないかと、アイリーンは安心した。
「・・・つまり、なんだ。食材の籠を持ち逃げして、他クラスの陣地に乱入した、と。そして道中、様々なところで混乱を起こした、か」
ベティ・コーツが元々いた場所から、アイリーン達の陣地までは結構な距離があり、その途中で狭い場所を無理に通ったり、人や薪を蹴散らしたりと、恐らくは最短距離を走るために好き放題して来たことが多くの証言により判明した。
しかし、ベティ・コーツは、自分は悪くない、食材籠を持ち出したのは必然だし、途中で蹴散らしたのは邪魔をしたからだと喚き、遂には、追って来たFクラスのメンバーや、ブラッドフォード達四人を除くSクラス全員、特にアイリーンへの呪詛を叫びながら、教師に回収されて行った。
「これで、本当に決着したわね」
「俺達の昼飯、護ってくれて感謝する」
代表ふたりの言葉を合図に、取り戻した食材籠を大切に抱え、Fクラスのメンバーは、仲間の待つ陣地へと戻って行く。
殊に『俺達の昼飯』と言った男子生徒の言葉には、全員が深く頷いており、アイリーンは、生まれて初めて、複数の人間から一斉に頭を下げられるという経験をした。
「さ。私達も、早く支度して食べましょう?お腹、すいちゃった」
ふふ、と笑うアイリーンが、あと少しと野菜切りを再開すれば、みんなもそれぞれの仕事に戻る。
「火を熾すのは、もちろんキーズ辺境伯にお任せすれば・・って。え。アーサーズ公爵子息も、出来るのか」
野営とは無関係の公爵子息なのにと驚くディロン伯爵子息に、クリスが、くすりと笑った。
「理由は簡単。その昔、アイリーンが、火を熾すのをきらきら光る目で見ていてね」
「ああ・・・あの時のブラッドフォードは、実に面倒だった」
「いやあ。アイリーンが絡むと、ブラッドフォードはいつだって面倒でしょ」
「なんとでも言え」
そして始まる、いつもの会話。
「よっし、肉焼くぞ」
「や、野菜もね」
「お好み焼き!焼きそば!」
「はい!飲み物要る人手を挙げて!」
「ドレイク伯爵令嬢、こっちには果実水を頼む」
わいわい、がやがやと鉄板を用意し、焼き網を乗せて、いよいよ楽しいバーベキューが始まる。
「では、Sクラスに乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」




