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死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


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八、野外バーベキュー 4、



「かまどは、今日の風向きを考えて、こちらを焚口(たきぐち)にするのがいいと思う。それで、残りの三方向に石を積んでくれ。二基並べて作るけど、そうだな。距離はこれくらい空けて」

 野外バーベキュー当日。

 アイリーン達Sクラスの、やや半数のメンバーは、野外慣れしているアシュトンの指示に従い、せっせとかまどづくりに励んでいた。

「いやあ。キーズ辺境伯子息が居てくれてよかったよ。僕達だけじゃ、何をどうしたらいいのか分からなかった」

 スタンリー・ディロン伯爵子息の言葉に次々と頷き、学業は得意でも野外でのこういった作業に不慣れな貴族子息たちが、慎重に石を積み上げて行く。

「俺は慣れているだけだよ。それに、ひとりじゃこれほど(はかど)らない」

 そんな彼らに当然のように笑みを浮かべると、アシュトンは時折注釈を入れながら、的確に石の積み方を伝授した。

「お、いい感じに積みあがっているね。使う薪は、これになるから」

「火付けの芝や小枝は、ここだ」

 そして、かまどの完成に向けて、ブラッドフォードとモーリスが、芝や小枝を運んで来る。

 それらはすべて、野外バーベキューのために、予め充分な量が用意されていたもの。

 完成していくかまどと、用意されていく薪を見つめ、アイリーンは小さく息を吐いた。


 ゲームでは、この薪や小枝が不足して、それでブラッドフォード様とモーリス様が仕方なく現地調達のため、森に向かうのよね。

 そして、ヒロインであるベティ・コーツ男爵令嬢の窮状を救う・・・んだけど。

 今日は、そんなことにはならない。


『先生。クラス会議で、野外バーベキューの必需品について試算してみました。全クラスで消費する薪は、これくらいになると思います。それから。こちらが、すべての班がかまどを作った場合に必要となる石の大きさと数です。近くに河原もありますが、不慣れな者も多いこと、設置の場所によってはかなりの距離を歩く必要があること。それら状況を鑑みて、現地で拾うのではなく、前もって準備した方が時間に余裕も出ると考えられます』

 かまどの石はともかく、一体全体、どうして教師の試算したもので薪まで不足が発生するのかと思うものの、すべてはイベントのためなのかと遠い目をしたアイリーンに、その説明を受けた攻略対象たる四人の動きは速かった。

 つまり、準備段階から積極的に参加することで、薪などの必需品が不足しない状況を造り出したのである。

 しかも、優秀な頭脳を有するクラス全員を巻き込んで事前相談会を開き、あたかもそれが当たり前のことであるかのように、クラスの委員長を務めるクリスが教師に報告した。

『ん?こんなに必要なのか?今年の一年の担任は、俺も含めて不慣れなんだ。先輩に聞いてやったんだが。そうか。他のクラスの先生にも報告しておく。ありがとう』

 果たして、不慣れだからなのかゲームの強制力のようなものなのか、やはり薪や石は不足する運命のようだったが無事回避した、つまりベティ・コーツと遭遇する事態にはならないと、ブラッドフォードはじめ、攻略対象であるはずの四人は、いずれもいい笑みを浮かべていた。


「アイリーン。野菜を洗って来たよ」

「ありがとう、クリス様。みんなも。それじゃあ、切ってしまいましょうか」

 一方、料理を担当するアイリーンとクリスは、こちらもクラスメイトと協力して下準備を進めているのだが、如何せんこのクラス、女子生徒がアイリーンひとりしかいない。

「すまない、ドレイク伯爵令嬢。俺は、野菜を切ったことがない」

「へ、へら?へらって、ど、どれ?」

「鉄板と焼き網?へえ。これで、肉や野菜を焼くのか。ざると、焼き網は違うんだな」

 もはや『そこからなのか』という言葉を多く聞くも、アイリーンは怯まなかった。

「大丈夫です。野菜は、私が切るので、皆さんは切った物をお皿に入れていってください。後で、そこから取って、焼いて行くので」

「わかった」

「う、うん」

「ドレイク伯爵令嬢。俺は、野菜は切れないが、肉なら切れる」

 学業得意、将来はエリート文官を目指す子息が多い中でも、やはり辺境近くに領を持つ者は、獣を捌いた経験もあると言って、積極的に肉の塊を焼きやすく切り分けて行く。

「助かります、ルート子爵子息」

「いやいや。助かっているのは、こっちだって。ドレイク伯爵令嬢がいなかったら、塊肉(かたまりにく)と、まるごと生野菜の食事になっていただろうからね」

 『とまとやにんじんならともかく』と、苦笑してとうもろこしやじゃがいもを見た後、迷いなく肉を切り分けて行くルート子爵子息。

そして、アイリーンがどんどん切って行く野菜を、種類ごとに皿に積んで行く子息たち。

「でも、とうもろこしとじゃがいもなら、火にそのまま入れて焼くのもおいしそうです」

「お。ドレイク伯爵令嬢は、意外と野営向きかもな。でもそれじゃあ、野外バーベキューとして認めてもらえないかも」

『何も道具を使わないことになるからね』と笑うルート子爵子息に『それもそうですね』と、アイリーンも笑顔で答えた。


賑やかに笑い合い、協力して作業をしていく楽しさ。

アイリーンは、この世界に生きて、本当に幸せだと感じる。

「アイリーン。焼きそばとお好み焼きの材料は、こちらで別に取り分けておくね」

「はい、クリス様。お願いします」

 そんなふたりの遣り取りに、野菜を盛り分ける子息たちが、こっくんとつばを飲んだ。

「お好み焼きも焼きそばも、楽しみだな」

「す、すごくおいしい、って噂だよね。ぼ、僕、初めてなんだ」

 そんな言葉を嬉しく聞きながら、アイリーンは周りを見る。

 SクラスからFクラスまで。

 一年生の全クラス、全員が集まっているとはいえ、会場となっている場所がとても広いので、狭さはまったく感じない。

 

 他のクラスは、班ごとなのかな。


 本来、野外バーベキューは七、八人の班に分かれて行動するイベントなのだが、Sクラスは、全部で十一人しかいないために一括りで行動しており、それが団結という嬉しい効果を産んでいた。


 まあ、いつも仲いいものね。


 学年首位のクリス、次席のブラッドフォード、そして三席のモーリスとそれに続くアシュトン。

 この四人に追いつき追い越せという風潮はあるものの、互いに蹴落としたりすることもなく、それぞれ得意分野を生かして教え合ったりもする、穏やかな空気のクラスで、アイリーンはとても心地よく感じていた。

 そして、自分が心地よい空間にいると、気になるのがゲームのヒロインである、ベティ・コーツ男爵令嬢のこと。


 ヒロインは、この野外バーベキューで、料理慣れしていることや、火の扱いに慣れていることで、平民の出身だとばれてしまうのよね。

 そして、それを知った周りから、食材をわざと落とすように仕向けられて・・・。


 ゲームでは、そこにブラッドフォードとモーリスが通り掛かるのだが、今日はそんなことにはならない。

 そもそも、イベントの予兆である、平民だとばれてというくだりが、起こるのかも分からない。

 それは、攻略対象たる彼らが、ベティ・コーツと関わらないことを望み、出会いイベントさえ起こさなかった結果なのだが、そうなると、もし本当にいじめられるような事態に陥った場合、彼女の窮状を救ってくれるひとはいなくなってしまうのではないかと、アイリーンは心が痛む。


 でも、ブラッドフォード様を取られるのは嫌だし、モーリス様だって、嫌な思いはしてほしくない。


「ちょっと!そこどいて!」

 『どうしよう。様子を見に行くわけにもいかないし』と、アイリーンが、思いきれずにうじうじしていると、信じられない声が辺りに響き渡った。



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