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死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


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八、野外バーベキュー 2、



「アイリーン。また何か思いついた?」

「あ、はい。ブラッドフォード様」

 高笑いで去って行くソープ子爵令嬢が向かうのが、Dクラスであることを確認していたアイリーンは、そう尋ねられて素直に頷く。

「やっぱり。そうじゃないかと思った」

「へへへ。ブラッドフォード様には、何でもお見通しですね」

 『もう、ばれちゃいましたか』と笑うアイリーンに微笑みながら、ブラッドフォードは少し低い声を出した。

「もちろん、それも詳しく教えてほしいけど、まずは、さっきの件かな」

「ああ、あれですね。お父様に、包み隠さず報告します。何やら色々、楽しいことを言っていましたから」

 ふふ、と人の悪い笑みを浮かべて言うアイリーンに、ブラッドフォードが宣言する。

「報告には、僕も一緒に行くからね。大丈夫。余計な口は挟まないから」

 ドレイク伯爵家とソープ子爵家との問題とする、と言ったアイリーンの意思を尊重すると、やや苦い顔で告げるブラッドフォードに、アイリーンはぺこりと頭を下げた。

「ありがとうございます。それは、大変に心強いです。感情的になりそうになったら、止めてください。あと、思いついたことを早く聞いてほしいです。今すぐ帰りたいくらい」

 そういった話は、他の人の耳のないところで、と口を酸っぱくして言われ続けたアイリーンは、うずうずとする気持ちを堪えるように、自分の口を左右の指でばってんに押さえた。

「ブラッドフォード?アイリーンは、大丈夫だった?」

「破廉恥じゃない令嬢に絡まれているって、ディロン伯爵子息が教えてくれたんだよ」

「窓際の、一番前の席だ」

 そして、教室へ戻ったところで、心配そうなクリス達に声をかけられたアイリーンは、自分が絡まれていると、クラスメイトがブラッドフォードに伝えてくれた事実を知り、あたたかい気持ちになる。

「ディロン伯爵子息。ブラッドフォード様に伝えてくださって、ありがとうございました」

「いや。当然のことをしただけだから。ああいうのは、長引くし」

 眼鏡をかけたディロン伯爵子息は、きちんと礼を言いに行ったアイリーンに、笑みを浮かべてそう言った。

 




「ふうん。ソープ子爵家か。確かに商会を持っているけど、そこまで大きくないよね。ドレイク伯爵家との取引を停止されるなんてことになったら、商会の存続を揺るがす大損害に違いないのに。どうしてそんなに、大胆な発言をしたのかな」

 昼休憩の時間。

 今日はモーリスが持ってきた全員分のサンドイッチで昼食を摂りながら、クリスが不思議そうに首を傾げた。


 わあ。

 このサンドイッチ、レモンがきいていておいしい。

 うーん。

 すっきり爽やか。


「そうだよねえ。ドレイク伯爵家は、ソープ子爵家の商会からしたら、最大の取引先じゃんね。それを停止されてもかまわないような発言をしたってことは、自滅したいんじゃないの?どっかーん!って。あ、自爆ってことか」

 アイリーンが五人分の弁当を用意して以来、五人は持ち回りでランチを用意するようになっていて、それぞれの家の味が楽しめるのがいいと、アイリーンは自然と笑顔になる。

「物知らずの馬鹿は、向こうということだろう。既に、アイリーンは相手にしていないしな」

 苦笑するモーリスの視線の先には、新しいサンドイッチを選ぶのに夢中なアイリーン。

「アイリーンに憂いが無いのは良かったけど、僕はあの発言を許すつもりは毛頭ないよ。ドレイク伯爵だって、僕と同じ反応をするだろうし。アイリーンを傷つけて、ただで済むなんて考えは甘いよね。ふふ。ドレイク伯爵の本気が目に浮かぶ。ああ。ソープ子爵家の商会とうち、直接の取引があれば僕も直接手を下せたのに。それだけは本当に残念だよ」

 『あれば、絶対に全力で潰したのに』と悔しそうに言いながら、ブラッドフォードは、サンドイッチに夢中になっているアイリーンを、ほっとした思いで見つめた。





「な・・何事だ?」

 その日。

 アイリーンが、マドリン・ソープ子爵令嬢に絡まれた、即日。

 ソープ子爵は、ドレイク伯爵家からの抗議文と取引停止の告知を受けて、目を見開いた。

「・・・は?マドリンが貴族院で、ドレイク伯爵家、及びドレイク伯爵令嬢を貶める発言をした?ドレイク伯爵家が困窮している、当主の顔が見たい、我が家との取引が無くなれば、困るのはドレイク伯爵家だと高笑いをした?・・何を、馬鹿な」

 青天の霹靂、寝耳に水。

 現実にそぐわない、あまりに信じられない内容に、ソープ子爵は呆然と、淡々と事実を告げる文字の羅列を見つめた。

「あなた!ドレイク伯爵夫人から、告知書が!これから先、そちらへ商品の販売は一切いたしません、これまでのご愛顧に感謝いたします、って。どうして?何があったの?今日にもまた注文しようと思っていたのに、困るわ」

 ノックもせずに飛び込んで来た夫人は、信じられない面持ちで、告知書を夫へと差し出す。

 そこには、ソープ子爵家に対し、カタログ販売のすべてを停止する旨が明記されており、ソープ子爵は、難しい顔で、こめかみをぐりぐりと揉んだ。

 

「何があった、か。貴族院で、マドリンがドレイク伯爵令嬢に絡んだらしい。ドレイク伯爵家は困窮している、ドレイク伯爵家が成り立っているのは、我が家が取引しているお陰だと。それ以外にも、令嬢や当主を貶す発言をしたと書かれている」

「なっ」

「ともかく、マドリンを呼んで確認する」

 そうして娘を執務室に呼び出したソープ子爵は、がっくりと膝を突いた。


『ふふふ。お父様、ドレイク伯爵から詫び状が届いたのでしょう?私、家が困窮しているくせに、当然の顔をしてブラッドフォード様の婚約者に収まっている、あの邪魔なアイリーンに教えてやりましたの。うちの方が、ずうううっと格上だって。身の程を知りなさい、弁えなさい、って。ドレイク伯爵も、青くなったのでしょうね。こんなに慌てて謝罪文を出すなんて。ああ、明日!アイリーンが私の前に跪くのが楽しみだわ!』


 なんとなれば、娘であるマドリンは、そう言って高笑いをしたのだから。




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