表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/59

七、貴族院入学 11、



「・・・・・まさか、猫の誕生会だとは思わなかった。それに、あの箱の中身が、アイリーン手作りの、猫用ケーキ・・・はあ。猫用のケーキがこの世にあるなんて、予想の斜め上もいいとこだよ。人生初くらい、凄く強い衝撃だった」

「母上は、本当にディアナを可愛がっているからね。今日のディアナの喜ぶ様子を見て、仲良しの夫人を集めて、誕生会第二回を開くと言っていたから・・アイリーン。またよろしくね」

 王妃陛下とのお茶会・・もとい、白猫ディアナの誕生会を終え、王妃陛下の御前を辞した五人。

 そして、一般区へと向かいながら、その率直な感想をアシュトンが述べれば、クリスがそう言ってアイリーンを見た。

 その隣には、未だ驚愕の瞳のままのモーリス。

「魚を使用したものは、未だ分かる。だが、本当に菓子のケーキもあるとは」

「猫ちゃんだって、食の楽しみがあって(しか)るべき、ですよ。モーリス様」

 自分が作った猫用ケーキを、王妃陛下も白猫ディアナも気に入ってくれたことで、心底ほっとしたアイリーンは、楽し気に笑いながらそう告げる。

「猫の、食の楽しみ。うちの猫なんか、騎士に揉まれているからか、逞しいんだよな。あんな繊細なケーキも、ちょっと上等な餌っていう認識しか持たずに、あっというまに平らげそうなくらい」

 『見た目も何だかがっしりしているし』と、遠い目をして言ったアシュトンの話を聞いて、アイリーンも想像してみた。


 がっしり、って言っても猫ちゃんなんだから、犬より大きいことはないわよね?

屈強な騎士様たちに囲まれて、小さいながらも威嚇したりするのかな。

『これわたしのごはん!』なんて言っているのだけど、人間には『にゃあにゃあ』としか聞こえないから伝わらなくて、地団駄踏んだりして。

 そしてそれが分かっていながら、騎士様たちも、揶揄ったりしつつ可愛がっているのに違いないわ。

 大きな騎士様に、ころんころん、転がされる猫ちゃん。

 うん、可愛い。


「騎士様と戯れる猫ちゃんというのも、凄く可愛いし、楽しそうだと思います。それに、猫ちゃんなんですから、すぐさま平らげて当たり前だと思います」

 いくら可愛くきれいに作ってあるとはいえ、じっくり鑑賞してから食べる猫などいないと、アイリーンは微笑んだ。


「あれも、売れるだろうな」

「既に、レシピ、商品化の両方で話が進んでいますよ。参入しますか?」

 そして、こそりと囁くクリスに答えるブラッドフォード。

「それは、是非話を聞かせてほしいかな。それにしても、見た目も可愛いくて、猫が食べ物としても満足できる猫用ケーキか。アイリーンは、本当に凄いね。母上も父上も、彼女の才を認めていて」

「クリス殿下。元は、婚約者である僕の母上のために考えたということ、お忘れなく」

 そこまで聞いて、ちくりと釘を刺すブラッドフォードに、クリスが苦笑した。

「両親も、もう、ぼくの婚約者に望んだりはしないから、安心して。ただ、違う形で・・・っ!ブラッドフォード、あそこ。みんな、止まって!」

 そろそろ一般区との境にある門に着くというところで、小さな声ながら強く制止をかけたクリスに、皆一斉に立ち止まる。

「どうした?」

「モーリス、あそこだ。破廉恥が居る」

 騎士の習性か、一番にクリスを護る位置に立ち、辺りを警戒したアシュトンが、その存在を認めて眉を潜めた。

「ほんとだ。完全に、この門を凝視しているね。となると、クリス狙いであそこに居るということかな?何か思い出す?アイリーン」

 ブラッドフォードに尋ねられ、全員の視線を感じたアイリーンは、ひとつ思い出したことを口にする。

「そういえば、探す猫の名前は月の女神様からもらったのだという説明が、その攻略対象からありました・・けど。アシュトン様だったか、クリス様だったかまでは思い出せません」

 『すみません』というアイリーンの言葉に、他の四人が一斉に突っ込む。

「それは、ディアナだよアイリーン」

「それは、ディアナだな」

「それって、ディアナじゃん。因みに、うちの猫はマルスだよん」

「それは、ディアナのことだね。確かに、月の女神様の名をもらったから」

 異口同音に、やや呆れたようにそれはディアナだと言われ、クリスに苦笑しながら説明を受けて、アイリーンは『そうなのですね』と納得した。

「では、猫探しは王城でということになりますね・・・って!大変じゃないですか!ディアナちゃんが、またこちらに来てしまうということです」

「いや。それは無いと思うよアイリーン。さっき、アイリーンが確保した、あれがそうだったのだろうと思うから」

 焦るアイリーンにブラッドフォードが言えば、クリス達も頷きを返す。

「え?じゃあ、未遂になってしまいましたね。ディアナちゃんが迷子にならなかったのは良かったですが、クリス殿下がヒロインと」

「出会わなくて大丈夫だから、気にしなくていいよアイリーン。むしろ、出会いたくないから、凄く助かったよ。ありがとう」

「どういたしまして・・・え?みんな、本当に出会いたくないの?」

 王城であるのに、言葉遣いを崩してしまうほど動揺しているアイリーンの肩を、ブラッドフォードがぽんと叩いた。


「アイリーンが、凄くいい子だと言っていたから、僕はアイリーンが居るから要らないけど、それほどの令嬢なら、みんなにはいいかと思っていたんだけど・・・あれじゃあね」

「まったくだ。あれの、どこに惹かれる要素が?」

「全然、どっこも無い!よねえ。近づきたくもないよ、あんな破廉恥以下。桑原桑原」

「ほら。見つかると厄介だから、一旦ぼくの部屋へ行こう」

 そうしてクリスの判断で、五人はベティ・コーツに見つかる前にと、来た道をあと戻る。

「それにしても。ヒロイン・・コーツ男爵令嬢は、じっとこちらを見ていましたけれど、気づかれないものですね」

 『ベティ・コーツ男爵令嬢は、一般区と王族居住区の境の門を凝視していたし、私達もかなり門に接近していたのに』というアイリーンに、ブラッドフォードが優しく笑いかけた。

「気づくのは無理だと思うよ?僕のアイリーン。あの門は柵になっているから、確かに覗けてしまいそうだけれど、特殊な細工がしてあって、王族の居住区・・つまり、こちら側からは一般区の様子がよく見えるけど、あちら側からこちらは見えない造りになっているから」

「あ。そう言われてみれば、そうですね。気づいていませんでした。ブラッドフォード様は、やっぱりすごいです。状況把握にも、優れた能力を発揮されるんですね」

 ぽんと手を打ち、無邪気にブラッドフォードを賞賛するアイリーンに、クリスたち三人は苦笑するしかない。

「いやあ、アイリーン。悪いけど、俺も気づいていたよ」

「アシュトン様は、騎士ですものね。さきほどの、咄嗟(とっさ)の動きも俊敏でしたし。鍛錬されているのだなと、感心するばかりです」

「え・・あ、ありがとう」

 ちょいと嫌味のつもりで言ったアシュトンは、思ったのと違う答えと自分への賛辞に、たじたじとなった。

「しかし。これで、どこかでぶつかって云々は、アシュトンだと決まったな」

「どこかでぶつかって、となると、色々な場所が考えられるよね?」

 モーリスとクリスの言葉に、ブラッドフォードも考える顔になる。

「貴族院内が一番確率が高いと思っていたのだけれど。猫探しが王城だったのなら、他の場所も候補になるということだろうな」

「うげえ。移動の度に気を付ける必要があるってことか。すごく面倒なんだけど・・ねえ、アイリーン。その出会いイベントの期限みたいなのは、ないの?」

 うんざりとした表情を隠しもしないアシュトンが『いつまでに起きなければ、その出会いイベントは起きなくなるという期限は?』と、やや縋るように問うのに対し、アイリーンは、ぱあっと顔を明るくした。

「それは覚えています!出会いイベントに期限はありません!もちろん、遅くなればなっただけ、後からのイベントが無くなってしまいますけど、出会いイベント事態は起きるまでいつまでも可能なんです。有効期限無し、です!」

 

 よかった!

 ブラッドフォード様のイベント以外でも、ちゃんと覚えていることがあって。


「アイリーン」

 やり切った感いっぱいでいたアイリーンは、何とも言えない表情で自分を呼ぶブラッドフォードを見て、漸く周りの空気が自分とは異なることに気づく。

 そして、アイリーンの前で、白き灰と化しているアシュトンのうつろな瞳。

 

 あ、あれ?

 私、何かいけないこと言った?


「大丈夫だよ、アイリーン。ただ、アシュトンだけ未だ回避できていないし、それが無期限となると、いつ起こるか分からないから。だから、なるべく五人で行動しようね。あ、もちろんふたりの時間も大事にしようね」

「・・・っあ!それ!絶対だかんな!俺だけ見捨てるの、無しだからな!」

 焦るアイリーンにブラッドフォードがそう提案し、白き灰から復活したアシュトンが、鬼気迫る勢いで、全員に約束させた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ