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死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


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41/60

七、貴族院入学 10、



「まったく。猫だからって、何でも許されると思うなよ」

「みゃああ!」

(めす)だというから、ぎりぎり譲歩しているだけだからな」

「みゃああ!」

 アイリーンに抱かれたままの白猫ディアナに、不機嫌な声でブラッドフォードが言えば、白猫ディアナも憎い(かたき)を見るようにブラッドフォードに牙を剥く。

「ブラッドフォード様。王族の皆さまで飼われているのだそうですから」

「みゃん」

 アイリーンが、周囲の侍女や侍従を気にして声を潜め、白猫ディアナが何処か偉そうにそうだと言わぬばかりに鳴くも、ブラッドフォードは気にしない。

「何が『みゃん』だ。アイリーンに対する時には、可愛いふりしやがって。甘えるんじゃねえ」

 言葉悪く白猫ディアナを罵るブラッドフォードと、それを益々煽る白猫ディアナ。

 アイリーンは、はらはらし通しだが、周りの侍従や侍女は、そんなひとりと一匹の遣り取り、そして間に挟まっておろおろしているアイリーンを、あたたかく見守っている。

「ブラッドフォード。重症だねえ。とうとう猫にまで嫉妬して」

「狭量、ここに極まれりだな」

 そして、アシュトンとモーリスは、ブラッドフォードに残念な目を向け、クリスは、白猫ディアナがアイリーンに懐くのを、微笑ましく見た。

「ディアナはすっかりアイリーンが気に入ったみたいだね」

「それは違うと思います、クリス殿下。私、さっきまで猫ちゃんが好む食材を扱っていたので、それでかと」

 まさか、自分が臭うのかと、アイリーンは戦々恐々とする。


 お料理した後、ちゃんと湯あみをして着替えたから、大丈夫だと思っていたんだけど。

 うう。

 もしかして、臭うのかな。

 自分じゃ、よく分からない・・・。


「アイリーンは、いつもの爽やかな香りしかしないから、大丈夫だよ。その猫は、ただ単にアイリーンが気に入ったんじゃないかな」

「にゃあああん」

 『もしかして、私、臭い?』と気にするアイリーンに気づいたブラッドフォードが、大丈夫だと太鼓判を押せば、その通りだと言いた気に、白猫ディアナもアイリーンを見上げて可愛く鳴いた。

「うっわ。ほんとむかつく。この猫、ほんとにアイリーンが気に入ったんだな。おい、あんまりアイリーンに擦り寄るな。減るだろう」

「にゃああ!」

 『少し離れろ』と、白猫ディアナの首根っこを掴もうとするブラッドフォードに、白猫ディアナが毛を逆立てて応戦する。

「わあ。猫って、そこを掴んで移動させるのですね。ブラッドフォード様は、流石博識です」

「そうだね。首を掴んでやるとリラックスするのは確かだけど。今、気にするのがそこって、流石アイリーンだね」

 クリスに苦笑され『では、どこを気にすべきなのか?』と、思うも分からないアイリーンは、何も聞かなかったことにして『怖くないですよー』と白猫ディアナに語り掛けた。

「なあーん」

「ふふ。可愛い」

「・・・・愛嬌で取り入ろうなど、小賢しい奴だな」

「にゃにゃん」

じろりとブラッドフォードが睨めば、アイリーンに優しく撫でられている白猫ディアナが、勝ち誇ったように、つんと上を向く。

「凄いです、ブラッドフォード様。猫ちゃんとも意思の疎通が図れるんですね!」

 そして、そのまま目線で戦い始めたブラッドフォードと白猫ディアスを見て、アイリーンが感動の声をあげた。

「まあ。ある意味、意思の疎通は図れているとは思うけど。ある意味アイリーンも最強だよねえ」

「ぶれないからな」

「いつだって、ブラッドフォード第一だものね。でも、何にしても助かったよ。アイリーンが居なければ、ディアナが脱走してしまうところだった」

 クリスが言えば、ひとりの侍女がものすごく深いお辞儀をする。

 話によれば、彼女がディアナの毛並みを整えていた時に駆け出してしまい、いつもの居住区から外へ出てしまったらしい。

「一般区へ行かれてしまったら、捜索に時間もかかっただろうし、最悪の事態もあり得るからね」

 一般区は広大なうえに人の出入りも多く、いくら柵や門があっても、猫はすり抜けたり飛び越えたりしてしまうからと、クリスは心から安堵したようにディアナの鼻をちょんとつついた。

「もう、あちらに行こうとしては駄目だよ?ディアナ」

「にゃん」

 そんなクリスに『了解です』と、白猫ディアナが素直な鳴き声で答えた。


 



「よくいらしてくれたわね」

 そう言って、笑顔で迎え入れてくれた王妃陛下に、アイリーンたちはきちんとした礼をとる。

「本日は、お招きくださいましてありがとうございます」

「ふふ。いつもクリスと仲良くしてくれてありがとう・・さあ、座って」

 そして代表で挨拶をしたブラッドフォードに笑みで応え、アイリーン達にも優しく声をかけた。

「みゃん!」

「まあ、ディアナ。あなた、脱走したのですって?めっ、ですよ」

 見た目がクリスにそっくりな王妃陛下は、その仕草まで見事にクリスと同じく、指先でちょんとディアナの鼻をつつく。

「危うく一般区へ行ってしまうところを、アイリーンに救われました」

「い、いえ。私はただ、立っていただけで」

「聞いているわ。驚いたでしょう?ごめんなさいね。ドレスは、何ともない?」

 さり気ない気配りを見せる王妃陛下に、大丈夫だとアイリーンが答えていると、例の品が運ばれて来た。

 同時に、白猫ディアナの瞳がきらりと光る。

「問題ございませんでした」

 報告する侍従に頷きを返し、王妃陛下は彼らが準備していくのを確認してから、アイリーンを見た。

「無理言って、ごめんなさいね。でも、どうしても欲しくて」

「お気に召すといいのですが」

 それはもう、王妃陛下次第のことと、アイリーンは、緊張して準備されていくテーブルを見る。

「アイリーンが用意したのは、お茶会のお菓子ってこと?」

 思わず呟いたアシュトンが、はっと口を閉じるより早く、王妃陛下が優雅に笑った。

「自由に歓談して構わないわ。ふふ。アシュトンは、あれがお茶菓子だと思うのね?」

 この状況では、そう思うのが妥当だろうと、王妃陛下は楽しそうに笑う。

「違うのでしょうか?」

「さあ。どうかしら。実物を見て、自分で判断してみるといいわ」

 ふふ、と上品に、けれどとても楽しそうに瞳を煌めかせ、王妃陛下は奇しくもブラッドフォードと同じ提案をした。

 



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