七、貴族院入学 4、
「え、凄い!ここって門の上!?」
狭く急な階段を上った先で、アイリーンが感激の声をあげた。
「そうだよ、アイリーン。貴族院の敷地内しか見えないとはいえ、なかなかの眺望だろう?」
「うん!とっても素敵。あっちに見える森とか、歩いてみたいな。あちこちに花壇もたくさんあるし、もちろんカフェにも図書館にも・・あ、あれ、ヒロインじゃない?」
これから訪れるであろう様々な場所を目にし、それこそ展望台に来たかのようにはしゃいでいたアイリーンは、校舎の方からスキップして来る人影を見つけて、声を潜める。
そして、そんなふたりの横では三人が、苦笑まじりにこの場の造りを検証していた。
「これは。本当に櫓のような造りだな」
「そだね。でもちゃんと場所が整えられてて、頑丈なのに見栄えのいい柵まであるところは、一般の人も使う展望台みたいでもあるね」
「うん。確かに展望台のようでもあるけど、造りは完全に物見の役割を意識しているよね。だって、下からは見えない・・つまりは、通行人に気づかれないようになっているのって、まるで敵の目を欺くための防備みたいだし。それで、まあ。この、展望台にあるみたいな柵は、アイリーンのためじゃない?落下防止という実利を兼ねつつ、見て寒々しい気持ちにさせないため、だよ。きっと」
「なるほど。ここは、アイリーンにとっては展望台で、俺達にとっては物見だと」
「つまり。ここで尻軽を見張れということか」
納得と頷いた三人は、アイリーンが『ヒロイン』と言った声に反応し、そちらへと目を向けた。
「へえ。ほんとだ。桃色頭。思っていたより強烈な色。あれって天然色なの?」
「オレも、あそこまで濃いのは初めて見る」
桃色がかったブロンドは、極少数ながら居ることは知っているものの、あれほど色味の強い桃色の髪は見たことがないと、アシュトンとモーリスは目を見張る。
「さあ。さっさと本性を出せ」
そして、自分こそが悪役のような顔で言ったブラッドフォードに、アイリーンはため息を吐いた。
「本性って、ブラッドフォード様。今日は、ヒロインにゲームの知識があるかどうかの確認をするんですよね?それなのに、ヒロインが性悪だと決めつけるみたいに」
そう言って、ぷくっと膨れたアイリーンだが、その実、胸のうちに不安が広がるのを感じる。
もしも、ヒロインにゲームの知識があったら、か。
でも、ヒロインは、とっても優しくていい子なんだもの。
たとえゲームの知識があったとしても・・って、ちょっと待って。
そういえば、ゲームのアイリーンも冤罪だったわよね?
それなのに、なんで殺されないといけないの?
え。
なんで?
「アイリーン。そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だよ。僕が、ちゃんと駆逐してあげるから」
「ブラッドフォード様。どうしてゲームのアイリーンは、冤罪なのに極刑だったのでしょう?」
ヒロインをいじめるような真似はしていないと、無実を訴えたゲームのアイリーンは、しかし言い逃れをしていると決めつけられ、牢獄へと送られた。
「アイリーンが、邪魔だったから、だろうね」
「え」
いつになく硬い声、そして感情の抜け落ちた表情のブラッドフォードに、アイリーンは断罪されるかのような感覚をおぼえ、硬直してしまう。
「だって、こんなに可愛くて有能なんだから。嫉妬されるのは当然だよ」
「はあ。ブラッドフォード様。私への過剰評価は、通常装備なんですか」
感情のない表情から一転、自分を絶賛するいつものブラッドフォードに戻り、アイリーンは一気に脱力した。
「ブラッドフォードとアイリーンは、いつでもどこでも通常運転だねえ。よっ、おしどり夫婦」
「仲がいいのはいいことだけど、横道に逸れるのは、ほどほどにね」
「寸劇は後にしろ。監視対象に注目」
「はいっ」
まるで上官のようなモーリスの言葉を受け、咄嗟に下を見たアイリーンは、桃色でふわふわの髪をなびかせながらスキップして来たヒロインが、驚愕の眼差しで鍛錬場を見上げるのを確認した。




