六、貴族院入学、前 2、
「お疲れ様でした!乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
無事に記念会を終えた五人は、ここからが自分達の本番と、今日お披露目したばかりの酒で乾杯をした。
「うん。アイリーン、凄くおいしいよ。先に試飲させてもらった時も思ったけど、香りもいいね」
ブラッドフォードが言えば、クリスやアシュトン、モーリスも感嘆の声をあげる。
「ぼくも、好きだな。なんか、すっきりしていて飲みやすいし、料理にも合う」
「はああ。これこれ。やっぱりうまいな」
「これが、米から作られるのか」
それぞれ、本当においしそうに酒を口に含むのを見て、アイリーンは心底嬉しくなった。
「うふふ。おいしいでしょう」
ああ。
この世界、お酒は二十歳からじゃなくてよかった!
「アイリーンが、米で酵母を作ると言い出した時は、また何をと思ったけど。こんなに美味しいものなら、アイリーンがあれほど言い募ったのが分かるよ」
「ブラッドフォード様も気に入ってくれて、すっごく嬉しいです!アイリーン、感激!」
疲れも見せず、ブラッドフォードにきらきらとした目を向けるアイリーンを、クリス達三人は、いつものことと温かく見守る。
「アイリーンは、相変わらず、気持ちいいくらいにブラッドフォードの反応が一番だな。ぼくは、米の酒を樽に入れて木槌で割るという発想が、すごく面白かった。皆の反応も良かったしね。鏡開き直前まで忙しくさせてしまったのは悪かったけど、本当にありがとう」
「いえいえ。元はと言えば、私のわがままなので。ですが確かに。皆さま好感触で、安心しました」
念願の米の酒が完成して、その発表の場が一周年記念になると分かったとき、どうしても鏡開きをしたいと強請ったアイリーンは、それが成功に終わったことに、ほっと息を吐いた。
「でもさ。『稲わらが欲しい、祝い樽の飾りにするから』って言われたときには、なんのこっちゃと思ったよね」
「ああ。完成した樽に『稲わらで作った飾りを巻き付けるから』と言われたときは、過去最高に戸惑った」
アシュトンが言えば、モーリスも続き、アイリーンは、へへへと笑う。
「でも、良かったでしょう?」
「うん。稲わら、あんなにきれいなものになるんだ、って感動した」
「樽との調和が、素晴らしかった」
そんな風に、五人で和やかに話していると、揚げたてあつあつの天ぷらが運ばれて来た。
「お待たせいたしました」
「ありがとう。君たちも、裏で好きに食べていいからね」
運んできた数人の給仕にクリスが声をかけ、アイリーンも、微笑みを向ける。
「お酒も、飲んでいいからね。で、感想をちょうだい」
「はい!ありがとうございます」
店員とも飾らず仲良く話し、すっかり店に溶け込んでいる様子のアイリーンを、満足そうに見つめるブラッドフォード。
そんな彼の腕を、アシュトンが肘でつついた。
「ちょっとブラッドフォード。お前の奥さん、本当にやり手なんだから、もっと心配しないとじゃないの?そんな、平和に笑っていて大丈夫?彼女のこと、狙っている家も多いって聞くよ?ほら、その代表が王家とか王家とか王家とかって」
「ああ。それは、オレも気になっていた。この店も、アイリーンを取り込む一手にするつもりがあるんじゃないかと・・まあ、クリスにそんな気は無いだろうが、国の決定だと言われれば逆らえないだろう」
声を潜め、本気で案じるふたりに、ブラッドフォードはくすりと笑みをこぼす。
「ありがとう。でもそれは、今となっては、不要な心配というものだから、大丈夫だよ。たとえば。そうだね。この店も、王子たるクリスがオーナーだけど、きちんとアイリーンの権利を護れるようにしてあるし、今の婚約を破棄させて、アイリーンと王家の誰かを婚約させようなんてことは、アーサーズ公爵家が許さないからね。本人同士だけじゃなくて、家の結びつきも強いって見せつけられて、そのうえで、また、何かしようなんて度胸は、無いと思うから」
『次は無い、って、言ってあるしね』と、口の端をあげたままに言うブラッドフォードから、ほのかに立ち上る怒り。
それを感じ取ったふたりが、ふるりと震えた。
「こえええ。ブラッドフォード、目が座ってんぞ?なんか、黒いもの出ているっぽいし!ほらほら、アイリーンを見て浄化しろ」
「理解した。既に、何かあったんだな」
何があったかは、また説明してもらうことにしよう、いや、聞かない方が身のためかと思い悩むアシュトンとモーリスの耳に、アイリーンの呑気な声が届く。
「ねえねえ、みんな!このお店の天ぷらが、すっごくからっとあがるのって、どうしてか知っている?・・はい。正解は、アーサーズ公爵領で、ひまわり油を作ってくれるようになって、天ぷら鍋を作ってくれたから、でした!ブラッドフォード様、感謝!」
本当に感謝しているのだろう。
アイリーンのテンションは、もの凄く高い。
「アイリーン。お酒のお披露目がうまくいったからといって、飲みすぎないようにね」
そして、そんなアイリーンを窘める言葉を発しつつ、ブラッドフォードの機嫌は物凄くいい。
先ほどまで、黒い何かを振りまいていたとは思えないその表情に、アシュトンとモーリスは仕方なしと苦笑した。
「ほんと。あのブラッドフォードがねえ」
「いい変化だと、オレは思う」
そんなふたりに、ブラッドフォードが、意味深な笑みを向ける。
「だけど、そのひまわりって、そもそも小麦の肥料になるんだから、アイリーンの発案のお陰で一石二鳥・・いや、ひまわり畑を見に来る観光客も増えたから、それ以上の利益かな」
「アーサーズ公爵領の一面のひまわり!きれいだったなあ。一面に咲き乱れて・・ん?あれ?そういえば、そんなイベントもあったような・・でもあれは、ひまわりじゃなかった?」
既に見に行ったことのあるアイリーンが、うっとりと声をあげ、それから、うーんと考え込むのに、ブラッドフォードが居住まいを正す。
「アイリーン。それも含めて。そろそろ、貴族院に入学してからのことも、みんなに話した方がいいと思う」
「貴族院に入学してから・・わあ!やっぱり楽しみなんですね!いいですよ、もちろんですブラッドフォード様。ええと、最初は出会いイベントになりまするる」
「・・・なりまするる、って。そんな謎語で嬉しそうに」
自分で話を振っておきながら、酷く上機嫌で話し出したアイリーンに、ブラッドフォードはむすりと呟いた。
ありがとうございます。




